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魔女の暇つぶし  作者: 汐 ユウ
昔噺 Ⅱ
22/53

◇初めての子育て

 カイは今までに人間と生活したことはあれど、全て守らねば生きていけぬような子供とは過ごしたことがない。この時代の子供の遊びも分からず、コレクションしていた本の中でも簡単なものを読ませてみようとしたものの、


「わたし、よめないよ。あとかけない! でもおはなしはできます!」


 ジャンヌは文盲だった。仕方ない。教育機関もなく、大人も子供に勉強を教えられるほど学がなければ時間もない。


「いつも家の手伝いをする時以外は何をしているの?」


「おねえちゃんとあそぶか、たんけん!」


「元気な子なのね。じゃあ少し散歩でも行こうか」


「おそと?」


「うん。ただし、私の手を離さないこと。いいね?」


「わかりました」


 すぐさまカイの手を小さな手が握ってくる。子供らしく体温は高い。


「カイの手、つめたい。はやくいきましょう!」


「待って。お散歩だから、走らないで」


 赤みがかった髪を揺らしながら、少女は数日ぶりに外へ出る。


「わー木ばっかり」


 ただの森の中なので面白いものは何もない。


「ついでに木の実でも採りに行こうかね。たくさん採れたらデザートが作れるよ」


 ここから少し川の方へ行ったところにベリーの木がある。距離的にもちょうどいいだろう。


「ジャンヌ」


「なんですか?」


 途中、火傷に効く薬草を見つけたので彼女へ教えることにした。


「このギザギザした葉っぱ見て」


 ジャンヌは言われた通りによく見ようと、しゃがみ込んで野草を掴む。


「触るの早いな。毒草だったら危ないでしょ」


「どくなの?」


「これは毒じゃない。火傷をしたところに塗ると治りが早くなるの」


「こっちのまるっこいのはなんですか?」


「これはただの葉っぱ。薬にもならないし、食事にも適さないかな。食べると苦いよ」


「にがいのはにがてです……」


「子供だな」


「! カイにだってにがてなものないんですか!」


「そんな食いついてこなくても。……そうだなぁ、臭いのきついものは苦手だ」


 大人にも苦手なものがあることに安心したのか納得したのか分からないが、ジャンヌは「カイのにがてなものが出てきたら、わたしがたべてあげます」と胸を張った。


「その時はよろしく頼むよ」


 さすが野生児と言うべきか、人の手がまったく入っていない森を少女は臆することなく要領良く進んで行く。


――この怖いもの知らずな結果、死にかけることになったんだろうなぁ。


「ジャンヌ、こっちだよ」


「こっちはいかないんですか?」


「川があるけど今日は行かないよ。甘いもの食べたいならあっち」


「カイはなんでもしってるんですね」


「まぁこの森のことは大抵知ってるかな」


 元から人が立ち入り辛いこともあり、この森に住処を構えることを決めた。獣が多く、果実が成る木は少ない。人間には不向きな土地だ。


「これがベリーだよ」


 一つ実を採ってジャンヌの手に乗せる。


「調理しないと少し酸っぱいかもしれないけど食べてごらん」


 少女は疑うことを知らない。カイに言われた通り、素直にベリーの実を口の中に放り込んだ。


「すっぱい! ……でもちょっとあまい」


「煮詰めたら甘くなるよ。ベリーを採って、このカゴに入れてくれる?」


 ローブの下から小さめのカゴを取り出す。


「たくさんとります!」


「持って帰れるくらいにしてね」


 小さな手が一生懸命ベリーの実をもいでいく姿を眺めながら、カイは何を作ろうか考える。とりあえずはジャムにするところまでは考えているものの、パイにするべきかケーキにするべきか、何が人間の子供の口に合うのか分からない。


「ねぇ、カイ」


 実をカゴ一杯に取り終えたところで、ジャンヌが両手を掲げてきた。


「あかくなった!」


「あーあ。何個か潰しちゃったかな。お家帰ったら洗おうね」


 汚れなど気にせずにジャンヌの手を握ると怪訝そうな顔をされる。どうしたのか聞いてみると、


「きたない手でさわったらおこられます」


 きっと泥だらけの手で家の中のものでも触るのだろう。光景が想像つく。


「お手伝いしてくれて汚れたんだから仕方ないでしょ。私も帰ったら洗うから大丈夫」


 ジャンヌには赤い色がよく似合っていた。きっと赤みがかった髪のせいだろうが、


――最初に見た血濡れた姿も――


「身体痛いところない?」


 怪我はまだまだ治っていない。痛み止めは食べ物に混ぜてあるものの、自分自身は痛みとあまり関わりがないので調整が難しい。


「ない、です」


「ほんとに?」


 少し考えてから、カイは少女を抱きかかえて帰ることにした。カゴは小さいのでジャンヌの腹の上に乗せる。こっそり魔法も使っているので溢れることはない。


「あるけます!」


「あーばたばたしないで」


「おろしてください!」


「早く帰りたくなったんだ。こっちのが早い」


「これじゃ、おさんぽじゃない!」


 喚く元気があるなら大丈夫だと思ったが抱えてしまった以上このまま行くしかない。


「はいはいはい。痛いからつねらないでね」


  ◇  ◇  ◇


「私は料理するから、ジャンヌは休んでいていいよ」


「やだ。わたしもおてつだいします」


「火使うから危ないよ」


「それくらいできます!」

 ひとまず見守ることにして、鍋の高さに届くように椅子を持ってくる。洗ったベリーと砂糖を鍋に突っ込んで、弱火にかける。


「熱くなるから気をつけてね。焦げないようにゆっくり混ぜて」


 木べらを渡し、カイは隣でパイ生地を作ることにした。ジャンヌが休んでくれていれば、工程を省いてちゃっちゃと作り上げてしまうのだが、隣にいると変なことはできない。


「カイはなにを作っているのですか?」


「パイ生地だよ。ベリーパイにしようと思って」


「?」


「食べたことないか。甘くてサクサクしていて美味しいよ」


 ジャンヌの青い瞳が輝いた。


「あ、ちょっと!」


 しかし視線を手元から動かしたことにより、包帯が巻かれたままの腕が鍋の縁に触れようとして、


「あっつ」


 思わずカイが、熱くなった鉄の鍋を素手で触ることになった。


「目離しちゃ駄目でしょ」


 火を一度消し、鍋の位置を戻してからジャンヌを椅子から下げる。


「おねえさん……手が……」


「あぁ、皮向けちゃってるね。見なくていいんだよ。冷やしておくから、ジャンヌはあっちで大人しくしてて」


 放っておいてもしばらくすれば完治する。全身燃やされても死なないのだから、大したことはない。


「そうだ、ジャンヌ。お腹空いてるならパンが……ってあれ」


 部屋の中にジャンヌの気配がない。先程までベリーを入れていたカゴも消えているので、大方どこへ行ったかは察しがつく。


「もう!」


 魔法で手を治すわけにはいかなくなった。慌ててローブを羽織り直し、ジャンヌのあとを追う。迷子になられていたら面倒なことになるところだったが、しっかり予想通りの場所にいた。


「こら、ジャンヌ。勝手に外には行かないって約束しただろ」


「ごめんなさい……」


 彼女が必死に千切っていたのは、火傷に効くと教えたばかりの薬草だ。


「勝手に出たことは駄目だけど、ありがとうね」


 火傷をしていない方の手で、不安そうな顔をそっと撫でた。涙と鼻水でびちゃびちゃしている。


「家にも薬草のストックがあるから、ジャンヌが採ってくれたやつと混ぜて薬を作ろうか」


 珍しく返事をしないで頷いた。


「泣かなくても怒ってないよ」


「ちがうもん」


 まさかベリーパイを作る流れから、火傷に効く塗り薬を作ることになるなんて想像していなかった。


――いい機会か。覚えておけば調剤師になれるかもしれない。


「出先で何もない時は、可能な限り綺麗な水で洗ってからすり潰して。今はすり鉢があるからこれでいいけど、ない時は手でいいよ。ただしバイキンが入らないように綺麗な手でね」


 あまり口を開くことなく、黙々とギザギザした形状がなくなるまですり鉢の凸凹に薬草を押し付けている。


「そしてこれを入れてください。たくさんじゃなくていいからね。すこーしだけ」


「なんですか?」


「精油だよ。料理に使うのより綺麗なオイル」


 ちゃんとした薬を作りたいなら他にもたくさん工程はあるのだが、火を使わせたくない、覚えやすい、使いやすいものとなればこの形が一番だ。なによりも今カイは薬を欲していない。早く出来上がらないと傷が完治してしまう恐れはあるが……。


「まぜられました」


「ありがとう。そしたら私の火傷に塗ってくれる?」


 先程よりはマシになっているものの、子供からすれば結構グロテスクな状態。嫌がっても構わなかったが、怯える様子もなくそっと小さな指で薬を盛っていく。


「そう多めに、この時相手の傷には直接触らないようにね。上手だよ。塗り終わったら綺麗なガーゼ当てて」


「カイもこうやってわたしのこと助けてくれたの?」


「……そうだよ」


 薬ではどうしょうもないところは、魔法に頼ったことは秘密だ。


「包帯を巻くのは自分でやるから、ずれないようにここ抑えてて」


 シュッと指示をされたらすぐ両手で動いてくるところが愛らしい。


――包帯巻いといて、適当なタイミングで治ったことにしよう。


「できた!」


 最後に固結びをされてしまったが些細な問題だ。


「ありがとう、ジャンヌ」



「……でもわたしがよそ見してたから……」


「まぁ気になることを横でやった私も悪かったよ。ジャンヌに怪我が無いなら結果オーライ」


「……おこらない」


「怒るとしたら外に出たことだけど、薬塗ってくれたから今回は怒らないよ」


「カイ、ごめんなさい」


「謝罪もこれでおしまい! 仲良し」


「うん」


 ジャンヌが袖を引っ張ってくる。しゃがんでほしいようだ。


「どうした?」


「いろいろおしえてくれてありがとうございます」


 どこの文化なのかは分からないが、頬にキスをされた。


「これはなんのためにするの?」


「ありがとうのため」


「それなら私からもお返し」


 熱を持ったりんごみたいな頬に仕返しをしてやった。


「さて、パイは作るの面倒くさいから、パンにジャムを塗って食べることにしよう」


 火をつけ直し、今度はカイがベリーたちを煮詰めていく。ジャンヌは大人しく、カイの脚に張り付いているだけだ。


「危ないよ。離れて」


「……」


「ジャンヌ、そこにお皿並べて。平たいの二枚と、深いやつ二つね」


「はいっ」


 昨晩作っておいた野菜スープがまだ残っている。今までは小腹を満たすためだけに食べていた食事が、最近はしっかりと料理をするようになった。


「パン持って行ってね」


 ジャムは使うぶんだけ避け、残りは殺菌したばかりの瓶に詰める。


「おいしい! あまいです! すっぱくない!」


「こら! つまみ食いしないの」


  ◇  ◇  ◇


 年相応に怪我の治りもよく、食欲旺盛。野草の見分け方、調剤、料理に至っても覚えが早い。相変わらず読み書きを覚えようとはしないが、元気は有り余っている。


「カイ~ぜんぜんつれません」


 リハビリと食材調達を兼ねて河原に来たのだが、ただ釣竿を持ってじっとしているのが耐えられないらしい。


「そんなに動いたら魚が逃げるよ」


「でもー」


「じゃあ私とお話しながら、魚がくるのを待とうか」


 ふらふらと揺れるジャンヌの後ろに腰を下ろし、自分の膝の上で釣竿を握らせる。


「何の話しようかね」


「ごはんのはなしがいいです!」


「ご飯の材料を釣るのは我慢できないのにわがままなやつだね。学校で教えてもらえるようなこととか知りたくないの?」


「だってわたしはどうせがっこーいけないから。たべものがダメなら、かみさまのおはなしがいいです!」


 多神教であれば、神にまつわる話はいくらでもすることができる。しかし、ジャンヌが信じている神という存在はこの世にただ一つ。

 神と言われる存在の大多数が実は魔女、もしくは魔女によって起きた事象から派生したものであると分かっているため、カイにとってこの手の話は面白いお伽噺、教育のための創作話でしかない。


「神様については、きっといい子にしているジャンヌの方が詳しいと思うよ」


「カイはわるいこなのですか?」


「良し悪しで言うなら後者かな」


「こーしゃ?」


「ジャンヌがいい子にしてなければ食べちゃう悪魔だよ」


「わたしっておいしいかな」


 初めて見た食べ物はとりあえず嗅いでみる悪癖の如し、ジャンヌは自分の身体を嗅ぐ。釣りを始めるまで水際ではしゃいでいたので、土の香りしかしないと思われる。


「ほっぺたはもちもちしていて美味しいかもね」


 温かいもちを摘む。カイには人間を食す嗜好はないため美味しそうとは思わない。


「カイはいつもいいにおいします!」


「私を食べても美味しくないよ。こんなにお肉ついていないし。……私ってなんかにおいする?」


「ベリーパイのつぎくらいにいいにおいします」


「例えが分かりづら過ぎる……」


 カイもつられて自らの体臭をこっそりと嗅ぐ。分からない。


「カイ! なんかきました! グイグイ引いています!」


「お! いきなり引いちゃダメだからね、ゆっくりタイミング合わせてね」


「おーもーたーいー!」


「はいはい」


 小魚一匹引っかからないと思えば、逆に子供一人引きずり込まれそうなくらいの大物を捉えたようだ。

 少女の手を挟むようにカイも釣り竿に手を添える。


「せーので引くよ。せーっの!」


「うわぁ……!」


 見事。明日の分のおかずも用意できそうだ。


  ◇  ◇  ◇


「カイ、おさらあらったから本よんでください」


 夕ご飯を食べた後、洗い物が終わると必ずカイの書棚から本を持ってやってくる。本人にはそれが母国語であるのかも分からない。


「ありがとう。そろそろ簡単な文字くらい覚えたら?」


「カイがよんでくれるからいいのです」


――末っ子だからか、上手い甘えん坊だな。


「読むのはいいけどまた寝落ちしちゃうでしょ。先に歯磨きをしましょうね」


 初めて乳歯が抜けた時は、歯磨きをさせなかった代償に歯茎が朽ちたのかと慌てたものだ。

 ジャンヌが持ってきた本は、今後歴史に残らなそうな劇作家が書いたものだ。手に入れたのはフランスではなかったはず。


「みがきました!」


 いちいち一部が抜けて間抜けな口を見せてくる。


「綺麗綺麗」


「見てないのになんでわかるんですか!」


「あーもう近づけてこなくても見えるから。ほら、ベッド入りなさい」


「カイははみがきしなくていいの?」


「あとでするから」


 文句を言う子供をベッドに放り込み、カイは縁に腰を下ろす。


「少年は貧しい山間の村で生まれました――」


 本を一から十まで読み聞かせるとなると数日かかる。寝落ちすることもあれど、話が終わるまで寝てくれないこともある。だから、カイはところどころかいつまんで読み聞かせたり、面倒くさい時はオリジナルストーリーで読み進めてしまうこともある。


「おとこの子は村をすくったのに、なんでなかまはずれにされてしまうのですか?」


「人間はね、圧倒的な力を持ったモノが怖いんだよ。この人たちは恐怖を排除したいんだね」


「おなじにんげんなのに……」


「人間同士だって分かり合えないことはたくさんあるよ」


 きちんと通じ合えたからと言って戦争がなくなるわけでも、戦争がないから通じ合えているわけでもないところが難しい。


「眠たそうだね。そろそろお眠り」


「やだー。まださいごまできいてません」


「私も寝るから。今日は疲れちゃった」


 本を閉じ、灯りを消して温かい布団に潜る。


「カイがねむいならしかたありませんね……」

と言いながら、先に寝息をたてるのだから可愛らしい。


「おやすみ。ジャンヌ」


  ◇  ◇  ◇


「はい、万歳して」


「ばんざーい」


「ジャンプしてみて」


 一ヶ月でも少し背が伸びた少女は、言われた通り木の床の上で飛ぶ。造りが適当なせいか軋んだ。


「手足振ったりして痛み出るところはある?」


「ない!」


 包帯の下から現れる肌は、出会った時よりも綺麗になっている。


「ここたんこぶできてるけど、どうしたの?」


「きょうねているときにぶつけたみたいです」


 ジャンヌはとても寝相が悪かった。怪我が治るのに比例して、最近は特にバイオレンスであった。カイもあちこち蹴られて一時的な青あざを作った。


「あんなに毎日動き回っているのに元気なんだから」


 そっとたんこぶを撫でながら、遅効性の魔法をかけた。


「さぁ、行くよ」


 年季の入ったドアを押して開く。土の匂いが風に乗って鼻の奥をつく。


「おでかけですか?」


「そうだよ」


「手はつながなくてよいのですか?」


 空を掴むように小さな手の平を向けてくる。


「手繋ぐほど子供じゃないんじゃなかった?」


「カイがまいごになったらこまるからです」


「生意気になったな」


 カイの手に飛びつくジャンヌ。田舎娘も立派に育ち、いきなり体重が一点にかかると痛みが響く。


「きょうはどこいくんですか?」


「着いてからのお楽しみかな」


 手を握り直し、カゴも釣り竿も用意せずに草木の中を進む。いつもは先導したがるジャンヌも今日は大人しい。


「……もうすぐそこだよ」


 ジャンヌにはどれくらいの距離をどれくらいの時間をかけて現在地まで来たのかは分からない。体感できるのは、少しも疲れていないということ。


「ジャンヌ、この先を抜ければお家に帰れるよ」


 結界の先を指すが、ジャンヌには今通ってきた景色との違いは見えない。


「カイは?」


「私の家はこっちじゃないもの」


「…………」


「どうしてそんな顔するの? お家帰りたがってたでしょ」


「そうだけど……カイとバイバイしたくないのです」


「大丈夫。ジャンヌがいい子でいて、ちゃんと約束を守れば会えるよ」


「やくそく?」


「そう。一つ、ここから出たら真っ直ぐお家に帰ること。二つ、私と出会ったこと、この一ヶ月のことは誰にも話してはいけない。守れるね?」


「はい……」


「よし、いい子だ」


 泣きそうな少女の頭を撫でてから、紐のようなものを首にかける。子供には少し不釣り合いな大きさの緋色の石がついている。


「三つ目、誰かにこの石を見せない、渡さないこと」


「なくしたらどうなりますか?」


「命の恩人からもらうものを失くす前提かい。ジャンヌ以外の手に渡ったら爆発しちゃうかもよ?」


 この石にはカイの魔力を溜め込んである。ジャンヌのお守りにもなり、もしもまたこの森に入ってきた時に迷わず出会えるような指針にもなる。


「この森の外の人はジャンヌがいなくなっていたことを知らない。だから普段通りに過ごして。もう危ないことはしちゃだめだよ」


 小さな背中を無理矢理押す。


「カイ、またね! ありがとう!」


 ありがとうのお返しはできなかった。

 温かくなった頬を抑えながら、小さな背中が完全に見えなくなるまで見送った。


 彼女の空のように青く透き通った瞳が、次会う時には濁りきった色になっているなんて、カイでさえ想像できなかった。

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