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魔女の暇つぶし  作者: 汐 ユウ
1年生編8月
17/53

◆プール派? 海派?

「カイ。プールと海ならどっちが好きですの?」


「なんだよ、突然」


 冷房がガンガンに効いた室内で、思い出したように涼子が聞いてくる。


「夏休みですもの。侑希とどこか遊びに行かないでどうするんですの」


「だからって何でその二択。私が泳げなかったらどうすんだ」


「泳げるじゃありませんの」


「……。プールは行ったことないな」


「それならプールにしましょう。誘ってください」


「私が誘うの?」


「えぇ。相手の予定が埋まる前に早く」


「私はそんなに乗り気じゃないんだけど……」


「三年。侑希と過ごせるのは三年ですわ。彼女の時とは違うんですわ」


「あーはいはい。分かりました」


 侑希へメッセージを送るついでに、涼子のワイングラスも取り上げて中身を水に変える。


「あぁ!」


「うるせぇ。酒臭いんだわ」


 侑希からの返信は基本的に早い。遅くなった場合も『ご飯食べてた』『寝てた』『お風呂入ってた』等、ご丁寧に断りが入る。


「侑希ちゃん、明後日なら行けるって」


「さすが現役女子高校生。返信が早いですわね」


 ボトルごと水に変えられるのを恐れた涼子は、大人しく高級ワインをクーラーに戻す。


「シルヴィアは水着持ってんの?」


「心配しなくてもカイの分も持ってますわよ」


「持ってる方が心配になるわ。何で私のサイズ知ってんだよ」


「胸が気になるならパット入りもありますわよ」


 涼子が指を鳴らすと様々な形状の水着が落ちてきた。


「お好きなのをどうぞ」


「本当こうゆうところは抜かりねぇな」


「私的にこれなんかオススメですわ」


 ギリギリ海に怒られない布面積を選ぶあたりが抜かりない。ビキニタイプであるが、スカーフのような布もセットだ。


「何でも私のこと分かるんだな」


「ここ数百年のあなたしか知りませんけど。……まぁあなたと付き合うにはこのくらい出来ないと」


「私はどんだけわがままな子供だよ」


「あなたほどわがままに生きるのは子供でも無理ですわ。……水着はこれでいいですわね」


  ◆  ◆  ◆


 晴天。夏の象徴入道雲一つない。


「昨日慌てて水着買ったんだけどどう? 変じゃないかな?」


――眩しい。


 おへそも見えないタイプだが、侑希の肌が眩しい。


「可愛い」


「うみちゃんも可愛いよ。肌しっろいね!」


「友達バカもそこらへんにして、二人ともまずは場所を確保しますわよ」


「うわーすごい」


 主役はボディだと叫ばんばかりの黒い水着。分かってはいたものの、大きな胸。あまりにも堂々としているから隣を歩きたくない。


「涼子ちゃんってモデルみたいだよね」


「そうねぇ……」


――うん、でもあいつより侑希ちゃんの方が可愛いな。


「うみちゃんもすごく似合ってるよ。青色がキレイだね。うみちゃんの瞳の色みたい」


「私の瞳はこんなに綺麗じゃないよ」


 出会ったばかりの少女より、綺麗な瞳を見たことがない。


「二人とも!!」


 涼子が長い腕を振る。


「なんだかんだ一番浮ついてるのあいつだな」


「わたしも浮ついてるよ? 行こ、うみちゃん」


 いつもの調子で腕を取られる。布面積が少ない分、肌の密着率は上がる。今日ばかりは侑希の手も熱かった。


  ◆  ◆  ◆


「ここって海にも出れるんですのよ」


 定価よりも高いアイスクリームをおしとやかに口に運びながら、涼子が西側を指す。


「あそこにゲートがありますでしょう。手にハンコを押してもらえば、自由に行き来できるんですの。まぁ、海と一言で言っても干潟ですけれど」


「綺麗な貝殻とか落ちてるかな?」


 侑希が目を光らせる。


「どうでしょう。少なくともあさりの貝殻は落ちていると思いますが……」


「ていうか海に出られるならさ、わざわざ海とプール選ばせる必要なかったじゃん」


「そんなことないですわ。海を選ぶならもう少し南側を提案します」


「ねぇ、海に少し出てみようよ」


「私は疲れたのでパスしますわ。お二人で行ってきてください」


「涼子ちゃん、一人で大丈夫?」


「私は大丈夫ですわ。それよりそこのポンコツから目を離さないようにお願いします」


 確かに先程飲み物を買いに行って迷子にはなったものの、ポンコツと呼ばれるまでの失態ではない、と海は思う。


「だーいじょうぶだよ。ちゃんとわたしが手綱握っておくから」


「紐引っ張んないで。ほどけちゃうから……」


「じゃあ行ってきます」


 一見美人が一人で退屈そうにしていれば、ナンパ目的の男が近づいてくるだろう。怪我人が出ないことを願いたい。


「ハンコって言うから朱肉でも押されるのかと思った」


 手の甲に押されたハンコは一見色がない。


「朱肉じゃ海に入った途端に消えちゃうから戻れないよ」


 東京湾は青色よりは緑、灰色だ。


「うっわ、砂がサンダルに入ってきて気持ち悪い……」


 欠けた貝も多く、きちんと足元を見ていないと身を切りそうだ。


「波打ち際まで行ってみよ」


「ちょ、走らないで。危ないから」


 岩盤がないためか波はとても穏やかである。しかし、太陽光が強すぎるせいで水温は高い。


「綺麗な貝ないかなぁ」


「割れてるものばっかだね。あとなんか……食べた後の殻みたいな……」


 綺麗な海でもないし、鮮やかな色の貝は望めないかもしれない。


「そろそろ手離してよ。貝殻探しづらくない?」


「大丈夫。わたし、視力いいんだ」


「そうゆうことじゃない」


 仕方なく、侑希に手を引かれるままゆっくりと波打ち際を歩いていく。周りでは堤防ギリギリまで泳ぎに行っている人や、貝殻の山をごそごそしている人等多種にわたる。


「あ、あれ、綺麗そう」


「おお!?」


 手を掴んだまま侑希がしゃがむものだから、危うくひっくり返りそうになる。海水まみれになるのはごめんだ。


「ダメだー、綺麗だけど割れちゃってる」


「……」


 こんなところでずるをするのもいかがなものかと思いつつ、この程度であればポリシーの範囲内だろうと考えて瞳に魔力を集める。使い方によっては千里眼と呼ばれる役割も果たせるのだ。


「侑希ちゃん、あっち見てみよう」


 視えたのは数メートル離れた水の中。


「こっち」


 癖で利き手を海中に突っ込んだせいで、海の右手を掴んでいた侑希も突っ込んだ。


「ちょっと!!」


 いきなり引っ張ったことは申し訳ないが、塩分を含んだ水しぶきを浴びたので許していただきたい。


「ごめん、ほんとごめん。だから海水かけないで……」


「もう! ……あれ」


 侑希が手元を探る。海の目論見通りにいったようだ。


「綺麗……石かな?」


 華奢な指でつままれたのは、薄水色の透き通る丸みをおびた物体。


「シーグラスだね」


 波によって長い時間をかけて削られ石のように丸くなったガラスの総称。


「うみちゃん、これ見えたの?」


「見えるわけないよ。なんとなく光ったように感じただけ」


 息をするように嘘をつく。


「そろそろ戻ろう」


 尻もちをついたままの侑希を引っ張り上げる。


「そうだね、涼子ちゃん待たせちゃってるし」


 プールと海を繋ぐ入り口近くに簡易シャワーが設置されていたため、塩を洗い流してから戻ることにする。


「今日はプール誘っちゃったけど、侑希ちゃんはプールと海、どっちが好きなの?」


「うーん、そうだねー」


 タオルの持ち合わせがないので、びしょびしょのまま再入場をする。プールサイドの照り返しが暑い。


「海かな」


 何故、意地悪そうに笑って答えるのか海には理解ができなかった。

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