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魔女の暇つぶし  作者: 汐 ユウ
1年生編7月
16/53

◆日本人の言う休みは休みじゃない

「日本人が奴隷のように働いているのは知っていたけど……」


 夏休み。

 外では野球部、サッカー部、ハンドボール部、テニス部、水球部が練習に励んでいる。毎日毎日彼らは身体を動かしている。校内には楽器の演奏が常にどこかしらから響いている。


 今はちょうど普通棟と特別棟を結ぶ渡り廊下に海一人しかいないが、校内には文化祭の準備のために多数の生徒が動いている。普段と異なるのは、制服ではなくクラス毎にデザインしたカラフルなTシャツを着ていることくらい。今から祭りムードなのかもしれないが、毎日無休で動く人間はとても元気だ。


「人間はどうしてこんなに非効率的なんだ……?」


 たった百年しかないなら、もっと効率的に動くこともできるように思える。そもそも大学を卒業したからと言って平穏に過ごせるわけでもないのに、この学校制度が必要不可欠なものなのか海には疑問である。


「ぁ、若宮さんじゃん!」


 廊下の先から嬉しそうな声が聞こえた。男子の声だ。坊主頭、身長は海より少し高いくらいなので男子としては低い部類だろう。見覚えはあるが名前は分からない。


「どうしたの、こんなところで」


「職員室に寄っていた帰り」


 彼は制服でも、クラスTシャツでもなく、土で汚れた野球部のユニフォームを着用している。


「白石君はどうしたの? 部活は?」


 幸い、ユニフォームに苗字の刺繍があった。


「やー俺、数学の補講があって」


 野球部では一年生ながらユニフォームを纏っていても、勉強は得意でないらしい。


「そう。じゃあ、頑張って」


――あのメガネの先生、なんだかんだやってんだな。


「ぁ、うん、えっと、また! 野球部の練習終わったら文化祭の準備手伝うから!」


 そんなに頑張るアピールを海にしても、「運動部はほんと手伝わない」とお怒りの方たちには届かない。


――あんな太陽の下で限界まで動いて、休みなのに勉強して、無償で利益の出ない文化祭の準備をして、この頃から社会人の根本が出来てるのか。


 今では三か月前が嘘のように使いこなせるようになったスマートフォンで時刻を確認する。職員室に文化祭準備のための出席簿をつけに行っただけにしては時間が経ってしまった。


「うみちゃん、遅かったね。どうしたの? 迷子になった? それとも変な人にでも絡まれた?」


 未だに侑希は、海のことを無駄に心配してくる。


「いやいや。学校で変な人いたらダメでしょ」


「その時はちゃんと通報するんだよ?」


「はいはい」


――殺すなぁ……。


 教室内には近くのスーパーでもらってきた段ボールがあちこちに置いてある。海たち一年七組は、ファンタジー喫茶という飲食店をすることになった。随分と大雑把なジャンル分けにしたように見えるが、クラスメートの意見を総括するには一番いい方法だった。


「侑希ちゃんはウェイトレスやるんでしょ。なんの恰好するのか決めた?」


「決めたよー。でもうみちゃんには内緒」


「えぇ、何で」


 もちろん期待を裏切ることなく海も表の仕事である。できれば調理係に回りたかったが、侑希を含め多数の生徒にウェイトレスを強制された。その代わりタイムテーブルは優遇してもらえたので、当日クラスの仕事は少ない。そして、海の格好も知らされていない。


「大丈夫。メイドなんて安直な格好にしないよ」


と侑希は言うが、どうせろくなことを考えていない。


「若宮さん、脚なっがいね。ウエスト細いしうらやましい~」


 周りの女子生徒が侑希と結託して衣装を用意してくれるようで、頭の先から足の指先まで細かく採寸される。


「若宮さんのおかげで男子もある程度やる気出してくれてるから助かる~」


 そんなにも外国人顔が好きならば、アメリカにでもロシアにでも行けばいい。


「宮本さん、若宮さん。料理レシピをまとめてみたんだけど、規則で問題ある?」


 料理をよくするという生徒数人が、アンケートで寄せられたメニューで実現可能そうなものを文化祭用のレシピに書き出してくれている。保健所との兼ね合いで使用できない食糧や調理過程の制限がある。


「そしたら同じ食材を使ったものを増やした方が回しやすいから……」


 侑希も家では料理の手伝いをするらしく、テキパキと指示を出していく。


「皆〜」


 そんな中、教師らしくない声が届いた。あまりにも死にかけの声に、反応できたのは入り口にいた数人だけだった。


「何してるんですか」


 目の下にクマを作る藍子。手には近くのドラッグストアの袋が握られている。


「これ、皆に差し入れ」


「藍ちゃんせんせーから差し入れだ!」


 近くにいた男子生徒が袋を受け取り、教室の中心にかけていく。海は藍子から手招きをされて廊下に出たので、袋の中身は分からない。


「何ですか。今まで全然顔出さないで。許可取りに行くのも大変だったんですが」


 誰に聞こえているか分からないので、海の口調も一応敬語になる。


「ごめんごめん。今回ちょっと締め切りギリギリで立て込んでるのよ」


「どうせ漫画の方でしょ」


「ははー……ほら、公務員にもプライベートありますから」


「それで何で今日は久しぶりに顔を出したんですか」


「頼れる先生という立場を維持するため、それともう少しよろしくねという気持ちを込めた賄賂です」


「最低」


「そうゆうことだから、文化祭実行委員さん、よろしく!」


 おそらく趣味には魔法を使わないタイプの魔女。だからといって職務放棄はいかがなものか。魔女に倫理観を問うのもおかしいかもしれないが、海は仕事を押し付けられるのが嫌だ。


「よくよく考えなくても、あいつ教員免許持ってないよな……」


 ふらふらと揺れる背中は情けない。


「あれ!? 先生行っちゃった?」


 慌てた様子で侑希が飛び出してきた。


「まだそこらへんにいると思うよ」


「もう!」


 侑希が慌てて階段を降りていく。


――子供なのにしっかりしてんな。


 子供は子供らしく大人に保護下に入っている方が生きやすいと思っている海には、今の生徒主体の学校運営は難しい。


「あっつ……。早く帰りたい」

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