初陣!闇夜を照らす正義の光(その2)
図書館の裏手に回ると、そこは先程よりもさらに薄暗いところだった。周りには人どころか何の気配もない。
「あの…ホントにここで何か起こるんですか?」
「もう間もなく。その時になれば全てが明らかになりますから。」
どうやらこれ以上の説明はなさそうだ。仕方なく0時20分を待つことにする。時間がくれば今頭に抱えているモヤモヤがすべて吹っ飛ぶなら待ってやろうじゃないか。
沈黙が辺りを包み込む中、オレは頻りに携帯電話を開いては時間を確認するのだった。時間がこうも遅く感じられたのは、卒業式で校長のあいさつを聞いていたあの時以来だろうか。後3分…2分…1分になりかけたその時
ドスッッ!!
今まで暗闇だったはずのオレ達の目の前に突然何かが現れた。いや、感覚としては降ってきたといった方が正しいのかもしれない。
「何?何?ホントに何か出て来ちゃったんだけど」
「落ち着いて下さい、高井田さん。早くさっきのネックレスを!三島さんも指輪を早く!」
オレは言われるがままに左手の薬指に指輪をはめた。蓮さんの方を見ると彼女は口をぱくぱくさせその場にしゃがみこんでいる。佐伯さんはというと、上着のポケットからピアスを取り出し素早くそれを右耳に着けた。と同時に彼女の体は発光し、次の瞬間彼女ではない何かがそこには立ってた。それは、見間違えるはずもなく数年前のオレを夢中にさせたヒーロー、サイエンジャーレッドその人であった。
「ピンクは駄目ね。ここはあなたが頼りよ、ブルー。」
そう言われて我に返ると、自分も自分でなくなっている事に気が付く。全身青く染まった体、腰には帯刀…それはまさしくサイエンジャーブルーの姿だった。
これは何かのマジックか?それとも幻なのか?右手で軽く頬をつねってみる。痛かった…
「何をしているの!!ブルーも応戦を!」
声のする方に視線を向けると佐伯さん改めレッドが弓矢を敵に放っているところだった。主人公の武器が「弓」というのもサイエンジャーが他のヒーローと一線を画するところである。
「相手の動きは鈍いようね。これのまま一瞬で決めてしまいましょう。私が動きを止めているのでその刀でとどめを。」
俺は腰の刀に手をかける。そうだ、ブルーの武器は刀。俺の記憶が確かならばこの刀は…
鞘から出てきたのは戦国武将が身につけているような日本刀である。刃先が月明かりに照らされてギラリと光るのを見ると自然と胸の鼓動が高鳴る。テレビの中のサイエンジャーブルーはこの切れ味鋭そうな刀で敵を両断していたことを思い出した。
「このまま一気に決めて下さい。」
レッドは弓を射る構えのまま動きを止めると、俺にとどめを刺すよう目線でうったえかけていた。覚悟を決め敵の方に構えた俺は、それがトカゲのようなものだとそこで始めて気付く。トカゲといってもその大きさ、形は地球に存在するとは到底思えるようなものではなく異形の存在であることは間違いない。
「さあ、早く。」
レッドの声と共に俺は刀を振りかざして掛けだした。このまま飛べるのではないかと思ってしまうほど体は軽く、数歩踏み出した頃には敵の目前まで迫っていた。
「おりゃぁぁぁぁ!」
力任せで刀を振りおろすと目の前のそれは切れるというよりも煙が吹き飛ぶような形で一瞬にして姿を消した。
「やったのか?」
「ええ。どうやらそのようですね。」
「それにしても今のは一体…?」
気が付くと辺りは何もなかったかのように薄暗い夜の世界へと戻っている。変身は解け、薬指の指輪は月の薄明かりに照らされ鈍く輝いていた。