第1幕 集え!5人のヒーロー!(その1)
「まだ12時か。」
意識がいまいちはっきりとしない中、寝ぼけたオレは軽く寝返りをうつ。高校卒業から大学入学までの半月間、深夜に眠りにつき昼過ぎに目覚めるという不健康な生活を連日繰り返していた。
寝返りをうったところで壁に貼り付けたメモが微かに眼に入る。メモの内容を理解するのに10秒程時間がかかっが、その後は0.5秒でベッドから飛び起きた。
「しまった!!」
そう。今日は例の説明会の日である。時間は午後1時、場所はここから1時間ちょっとの市外にある文化会館の一室だ。どう考えても今からでは間に合いそうにない。普通のバイト(コンビニやファーストフード店のような)の面接や説明会ならここで諦めて他のものを探すことにしていただろう。だが、今回はそんな考えが巡るよりも早く手足が先に動いていた。家を出たのは12時10分丁度。寝起きからドアの鍵を閉めるまでの最短記録であった。
結局会場となる文化会館の入り口に着いたのは1時20分だった。エントランスで目的の部屋の位地を確認したオレは、息が切れるのも構わずそこへと直行する。「交流多目的室」と書かれたその部屋のドアが見えたと同時に、中から数人の男女が出て来た。
(しまった。遅かったか。)
説明会は終わってしまったのか。ここまで休むことなく走り続けた足は止まり、部屋の数メートル手前で膝に手をつき荒く呼吸をする。
「何か変な宗教か悪徳商法じゃないの?」
「給料良すぎるし怪しいとは思ってたけどね。」
部屋を出て来た二人組の男がそんなことを話しながら通り過ぎていく。一体、何のことを言っているのだろうか?“給料”という言葉は今回の説明会と直結するものを感じたが、“宗教”や“悪徳商法”というのは果たして…
何か危ない事態を想像しつつも、オレはそのドアを開けずにはいられなかった。どうにも考える事は苦手な体質らしい。
「ようこそ。ヒーロー適正試験会場へ。」
ドアを開けると中央の壇上にオレと同じ年頃の女性が立っており、開口一番オレにそう告げるのだった。パンツスタイルのビジネススーツに身を包んだ彼女が今回の説明会における主催者のようだが、その姿はスーツを買ったばかりの就職活動生をどことなく連想させる。
少し目線を左にそらすと、部屋の片隅でなにやら言い争っている男女の姿が眼に映る。歳は二人ともオレと同じか、それよりも少し上といったところだろうか。さらにその後ろ、ちょうど会場の中央あたりには黒い髪を束ねた女性が携帯電話の画面を眺めていた。こちらは後ろ姿だけで顔はよく分からないが、明らかに年上で「仕事も恋愛も完璧にこなすキャリアウーマン」のようなオーラをその背中から放っている。
「あなたはアルバイトの説明会へいらっしゃった方ではないの?」
そう問いかけられ再び主催者と思われる彼女に視線を戻した。
「アルバイトの説明をする前にあなたにその資格があるか試させてもらいます。難しく考えないで。ここに手をかざすだけだから。」
こちらの返答を待たずに彼女は話しを進めていた。彼女が“ここ”と言って指さした先には占いで使われそうな透明の水晶玉が置かれているのであった。
「あの…よくわからないんですけどこれってサイエンジャーの…」
「そうよ。そのあとの説明は貴方に資格があると判断した時にさせてもらいます。」
どうやら水晶玉に手をかざさない事には何も始まらないらしい。ふと、先ほどこの部屋を出て行った男達の会話を思い出した。なるほど。変な宗教か何かと誰もが疑いたくなる状況に違いない。
「どうなさったの?さあ、早く」
そう言われたオレは反射的に右手を水晶玉の上にかざしていた。と同時に透明だった水晶玉は部屋一面を照らし尽くす程の青い光を放った。
「あなたがブルーだったのね。これで全員揃ったわ。」
そう言って笑みを浮かべた(目元は笑っていなかった)彼女はフーッと大きな息を吐いた。
オレは訳もわからず自分の掌を見つめていた。