序章
大学入学と同時にひとり暮らしを始めたオレは、ある危機的状況に陥っていた。お金がないのである。ひとり暮らし=自由な生活というある種の大人への憧れから、何の準備もせずに家を飛び出したのが原因なのは明らかだ。一刻も早くバイトを見つけないと…欲を言えばある程度の稼ぎが望めるものがいい。
近くの駅で配られていた求人フリーペーパーをぱらぱら捲っていると、高収入バイトの最後の欄に小さな記事が載っていた。大方の人が見落とすようなその文面にオレは釘付けになる。
「爆竜戦隊サイエンジャー募集」
給与:日給1〜3万円(応相談)
★未経験大歓迎★年齢・性別不問!!
↓16日下記会場にて説明会↓
「爆竜戦隊サイエンジャー」。それは中学校時代オレを虜にした伝説の戦隊ヒーロー。中学で戦隊モノに熱中するなんてガキっぽい…なんて言うのは戦隊ヒーローに偏見を持った人間の考えである。これはそんな低俗なヒーロー番組でなかったと大学生になった(正確にはまもなくなる)今でも胸を張って主張するとに何の恥ずかしさもない。
サイエンジャーが最も他の戦隊ヒーローと違ったところは、“勧善懲悪”というありがちな型にはまっていなかったところだ。悪に屈すること有り、逆に余裕で勝つことも有り、あるいは悪が登場しないことも有る。掟破りと言えばそれまでだが、毎回どうなるのかまったく予想のつかない展開が視聴者をはらはらさせた。さらに、今でも熱狂的なファンの間で話題となる“幻の最終話論争”も忘れてはならない。最後は悪の親玉を倒し、地球の平和を守るというお決まりのパターンで幕を閉じるのだが、それは原作者が考えたシナリオではないらしい。原作者はそもそも最終話を用意するつもりはなかったが、それでは示しの付かないテレビ局側が勝手にありがちな話しをでっち上げたとか。あくまでも噂話なのだが…
そんなサイエンジャー募集とはいったいどういうことなのだろう?遊園地などでよくやるヒーローショーのようなものがまず頭に浮かんだ。しかし、数年前のヒーローが現れた時のちびっこの反応を想像すると、どうにもしっくり来ないものがある。では一体…
考えるのはあまりオレの性に合わない。とにかくこの説明会とやらに行ってみよう。早々にそう思い直したオレは、説明会の日時と場所をメモしたものを壁に貼り付け一眠りすることにした。