供給過多
「もう、我慢しなくていいんだよ。
私がついてる。
あなたは一人じゃない」
可愛らしい少女の言葉に、サーロは胸を高鳴らせた。
高位貴族の嫡子であるサーロは、自分を律し、跡継ぎとしての役目に押し潰され、それでも歩き続けてきた。
誰も自分を見てくれない、出来て当たり前の状態に、サーロの心は磨耗していた。
少女は闇を照らす光に見えた。
孤独が晴れていく。
光に生き物が集まるように、サーロは少女に手を伸ばしかけた。
「そうだよ。
私もついてるっ!」
「ふふ、みんな仲良しさんね。
私もその中に入ってると自惚れてもいい?」
「ずるーいっ!
皆だけで楽しそうにして。
私も一緒よ」
サーロの回りに次から次へと女の子が集まった。
皆がサーロに優しく愛情に溢れた眼差しを向けていた。
偽りでない言葉に心が揺らされる。
女の子たちは仲良さそうに、しかしさりげなく相手の出方を伺っている様子だった。
サーロのときめきは止まらない。
どの子も可愛らしく、自分に寄り添ってくれて、戦おうとしてくれる。
愛しく、選べない。
そんな彼らの様子を離れた場所から見ている少女がいた。
本来ならその少女も争奪戦に加わるヒロインだ。
何の因果かヒロインが多出してしまったこのゲーム世界は、ヒロインを何種類かの選択肢でカスタマイズできるものだった。
作成可能なヒロインが全て現れてしまったのだ。
ヒロインに群がられる攻略対象者の姿を見て、少女はわざわざ彼らに働きかける気になれなかった。
「ヒロインだらけって、もう乙女ゲームじゃなくてギャルゲーよね」
ヒロイン間の仲は悪くない。
けれど転生ヒロインは自分の運命を左右する攻略対象者に必死で、水面下ではを互いに抜け駆けがないか見張り合っている。
転生では無さそうなヒロインも見かけるが、天然が入りつつ、悪意なく、無自覚に攻略していっている。
他の攻略対象者に変えれば、とは言えない。
ヒロインが多すぎてどこもハーレム状態なのだ。
すでに好感度を稼いでいるヒロインの群れの中に遅れて参戦など出来ないだろう。
なら攻略対象者以外をと言っても、彼らが心身どころか家柄まで優れた優良物件と分かりきっているのに、そうでない相手を選ぶことは難しい。
ヒロインの戦いを諦めた少女はふうっとため息を吐いた。
(悪くて脱落行き遅れ、良くても妾狙いの逆ハーレム。
そんな人生かけた博打なんてしたくないの)
ヒロイン達が特定の男子生徒に群がっているため、攻略対象でない男子生徒は過剰ぎみだった。
少女は家から伝えられている家の男子らの中で、攻略対象者でなく自身と気が合いそうな少年との距離を着々と進めていた。
卒業後二人は夫婦となった。
歴史に名を残すような偉業はなかったものの、二人は仲睦まじく幸せに暮らした。