擬態
私の特技は他人にそっくりに擬態することだ。
大学でアツアツカップルを見かけてだーんぜん羨ましくなっちゃった!
「いい子だからそこで待ってなさい」
「もがふがもが」
さるぐつわを噛ませて、ロープでぐるぐる巻にしてあんまり人のこない研究室のロッカーに押し込む。
フンフンフン。フフフフーン。
彼女そっくりに擬態して、彼女の洋服や持ち物持って準備完了。
「ふうまくーん!待った?」
「いや」
彼氏のふうまくん。いい男!僥倖僥倖!
「どこ行く?」
「洋服見たい」
「わかった」
「ねー、この服どう?似合う?」
「そーだなぁ」
ふいにふうまくん、眉を寄せてつかつかと近づいてきた。
がし。
私の顎を右手で掴み、じろじろ顔を見る。
「え、えへ」
「お前、誰だ?」
「あなたの彼女」
「ウソこけ」
「…なんで?」
「そのくらいわからいでか」
不機嫌。
あーあ。
すきをみて逃げ出した。
それでも、わずかでも恋人気分味わえて良かったよ。
彼女を解放してあげて、その時も別人のふりしてた。
本当の私は、たとえどんなに姿が移ろいでも、ここに、この胸に息づいている。
また気が向いたら誰かのふりしてその人の人生垣間見ようかな。
明日はあなたのそばにいるかもよ?
クスクス。クスクスクス。