三姉妹
目の前が真っ暗な空間で覆われている
意識はあるらしいが体が動かない
俺は死んでしまったのか?死とはこんな感じなのか?
そんなことを考えながら瞳を閉じてこの静かな空間を感じていると
「...ちゃん」
なにか声が聞こえる
「...いちゃん」
どんどん声が大きくなっていく
「お兄ちゃん!!」
声が大きくなると同時に光が俺を包んだ
目をあけたらそこには見慣れている天井があった
「...ここは」
「お兄ちゃあああああああああん!!!!!!」
あの時助けた少女の一人が俺の腹の上で馬乗りで抱きついてきた
「生きててよかったあぁぁぁぁぁ」
「あぁなんとか生きてるよ」
俺は泣きながら抱きつく少女を宥めながら答えた
「目を覚ましたのね!私お母さんを呼んでくるわ!」
もう一人の少女が急ぎ足で俺お部屋から出て行く
「...」
三人いるうちのもう一人は黙って俺を見つめている
「うぅぅぅぅぅ」
俺にしがみ付いている少女は俺の胸に顔を埋めながらないている
俺はその子を抱えながら上半身を起こす
「痛てて、まだ体中が痛むな」
「...む 無理しないで」
俺が痛む体を無理に起こす姿を見て先ほどまで黙っていた少女が近づいてきて
俺の体を起こすために背中に手を当てる
「あぁありがとう、助かるよ」
「...いえ」
「それよりもそろそろ泣き止んでくれ」
「うぅぅぅ...うん」
泣いていた少女は涙を拭いながら顔を赤くして頷く
「俺は何日ほど寝ていたんだ?」
「...3日ほど」
「3日も寝ていたのか」
俺は獣人たちとの戦闘から深手を負って3日も寝込んでいたらしい
「お兄ちゃんいっぱい血が出てきて大変だったんだよ!」
「そうだったか、でも君達が無事でよかった」
「...」
そんな感じで少女二人と会話をしていると
「失礼しますリュート様」
声がすると同時に部屋の扉が開く
「リュート様目が覚めて何よりです」
深々と頭を下げたのは今この城を任されている魔王の側近
ロバート・アルドヴェルグだった
「ロバートさん頭を上げてください、俺はこの通り大丈夫なので」
「この度のリュート様の護衛の失態、真に申し訳なく思います」
「いや、最後にはしっかりと守っていただいたのでその件は気にしないでください」
あの時、俺が意識を失う瞬間、誰かがあの獣人に止めをさしたのを覚えている
たぶんあれが護衛の者に違いない
「...セシア」
「はい」
ロバートが名前を呼ぶとどこからか少女が現れた
「...リュート様、こちらは私の娘にしてリュート様の護衛をさせている」
「セシア・アルドヴェルグと申します、以後お見知りおきを」
ロバートさんの娘が俺に膝を付きながら頭を下げる
「セシアさん、あの時はどうも」
「セシアで結構です」
セシアは鋭い目つきで俺を見ながら淡々と返事をする
「...セシア、なぜリュート様がこの様になるまで護衛の任を遂行しなかった?」
「...リュート様は自分の力であの状況を打破しようとした様に思えたため
勝手な介入は無粋かと思ったまでです」
「...それにしてももっと他に手があったのではないか?」
「ロバートさんセシアさんの言った通り、俺のやりたくてやったことだよ、あまり
セシアを責めないでくれませんか」
「...リュート様がそう申すのであればわかりました」
ロバートは少し不満そうな顔をしながら俺の言葉を聞いてくれた
「...リュート様に挨拶をしに客人が来ております」
ロバートがそういうと扉のほうから誰かが来る
「リュートちゃん!」
「あ!ルルシーラさん!」
ルルシーラ・ベフター
この城の門番をしている魔獣人
俺の母さんとは古い付き合いで俺もよく遊んでもらっていた
城を出る際はよく会うがここ最近は会っていなかった
「最近体調が良くなくて会ってなかったわね、うちの娘達が迷惑掛けたわ」
「この子達ルルシーラさんの娘さん達だったんですね」
三人ともルルシーラさんと同じく東部に犬型の耳が付いていた
「あんた達、いったんこっちに来なさい」
「わかった母ちゃん!」
「...」
ルルシーラさんが手招きすると俺の腹の上と隣にいた少女は自分の母親の元へと近づいた
「さぁあんた達、リュートちゃんに自己紹介するのよ」
先ほどルルシーラさんを呼びに行ったと思われる少女から順に
「私はケール・ベフター、この子達のお姉ちゃんよ!」
「あたしはベール!リュート兄ちゃん助けてくれてありがとう!」
「...ロールです、あ ありがとうございます リュート様///」
「この子達は三姉妹、歳はリュートちゃんの二つ下って所ね これからよろしく!」
それぞれ特徴的な挨拶をする
ケールは少しつり上がった大きな瞳で癖のあるロングヘアー
ベールは元気いっぱいで少しボーイッシュな癖のあるショートヘアー
ロールは静かな感じで落ち着いた瞳をしている前髪が綺麗に切り揃えられていて
その他の部分は肩の辺りまで伸びている感じだ
「俺はリュート・ヘリエル・ハーデスエス よろしく」
俺は笑顔で姉妹に挨拶を返す
なぜか3人とも尻尾を左右に大きく振っていた
「あらあらあんた達、なに興奮してんの?もしかして惚れちゃったとか」
「べ 別に興奮なんてしてないし惚れてもないんだから!」
「あたし兄ちゃんのこと好き!」
「///」
姉妹たちはルルシーラさんに何か言われて先ほどよりも尻尾を大きく振っていた
セシアはなぜか睨みつけるように俺を凝視している
「リュート様、挨拶も終えましたので大広間に顔を出していただけませんか」
「大広間で?」
「リュート様の事はこの城の者達全てが心配しておりました、一度顔を出していただけると
配下の者達も安心するかと」
「そういうことか、わっかった」
「リュート様のご友人も来ておりますそちらのほうにも是非一声かけてください」
「それじゃ大広間に向かうとするか」
俺はそう言ってベットから立ち上がろうとすると
「おっと」
まだ完治していなく立ち上がる瞬間にバランスを崩してしまった
「...」
「あぁありがとうセシア」
「いえ」
セシアが音も立てずに俺の横に現れ肩を貸してくれる
俺の部屋にいたみんなで大広間へと向かった
道中城の兵たちが心配そうに声を掛けてきたが軽く元気になったと言いながら
大広間へ到着した
「お待ちしておりました リュート」
「母さん」
まず最初に声を掛けてきたのは俺の母
レミア・ヘリエル・ハーデスエス
この城の魔王の姫 つまり王姫である
ロバートとセシアは頭を下げる
「はぁ、皆あなたのことを心配していたのですよ もちろん私が一番心配しました」
「それは...ゴメン」
ため息混じりに母さんは俺にそう言ってきた
「レミア様、あまりリュートちゃんを責めないであげて」
「ルルシーラ」
「元はといえば私が体調不良で娘達に心配掛けたのが悪かった訳で」
「いえ、セシアが付きながらこのような事態にした私に責任が」
「それはもう聞きました、もういいです リュートも無事でしたから」
今回の件でみんなに迷惑をかけてしまったな
もっと俺が強くならないといけないな
「この話についてはもういいです、食事を用意させているので用意ができるまで
リュートはご友人の元で話でもしていてください」
「あぁわかった セシアもう大丈夫」
「...わかりました」
俺はセシアの肩から離れてカルがいる方へと近づいていく
「カル!」
「リュート!!お前体は大丈夫か?!」
カルは俺の体をあちこち触りながら安否の確認をする
「あぁまだ体が少し重い感じがするだけだよ、もう一人で歩ける」
「そうか、俺が力不足だったから!」
カルは自分の弱さに怒りを露にしている
「いや、カルが悪いわけじゃない 俺も力不足だった 今回のことはいい経験になったよ」
獣狩りとは違う知性のある生き物との戦闘はとてもいい経験になった
特に自分の弱さに気づけたのはいい勉強だった
そんなことを考えていると
「どうやら無事みたいだね」
「エド!」
「無茶する二人だとは思っていたけどここまでするとはね」
「お前はもう少し外に出ろよ!」
「僕は魔力の扱い方の勉強で忙しいんだ、カルはもう少し魔力の扱いを学んだほうがいい」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて」
「リリアも来てくれたのか」
「うん!リュートくん無事で良かったよ」
「あぁ心配かけたみたいでごめん」
「いいよ謝らなくて、お母さんから差し入れ持ってきたから」
「それは助かる、ありがとう」
エドとリリアが来てくれて他愛ない話をしながら時間を潰していたら
料理の準備ができて皆でそれを食べることになった
「母ちゃん!この料理うまーい!」
「そうよね、ここ料理は本当に旨いのよね~」
ルルシーラさん達も料理をおいしそうに堪能していた
「ルルシーラ、今夜はもう遅いので城へ泊まってください」
「レミア様!あら~助かるわ」
「えぇ 偶には二人でお酒を交わすのもいいものかと」
「わかったわ あんた達、今日はお泊りよ」
ルルシーラさんがそういうと
「お城でお泊りなんて初めてだわ!」
「やったー!お泊り楽しみ!」
「...」
ケールとベールはテンション高めでいたがベール俺の方をじっと見つめながら
尻尾を二人よりも大きく振っていた
「ん? どうした?」
「///」
俺が声を掛けるとロールは顔を赤くして下を向いてしまった
「それじゃあんた達、私はちょっとレミア様とお話するから お母さんがいなくてもちゃんと部屋で寝ているのよ」
「「はーい」」
「...」
「母さん」
「どうしました」
「俺もちょっと早めに部屋に戻るよ まだ少し体がね」
「わかりました、他のものにちゃんと断りをいれてからにしてくださいね」
「わかった」
そういって俺は会場にいるカル達に先に会場を後にすることを言って部屋に戻った
セシアはさっきからずっと俺の横にいて黙っている
「セシアも今日はもう休んでくれ」
「...私はリュート様の護衛ですからお気遣いは無用です」
「ここは城の中だから心配しなくていいよ」
「...わかりました、何かあればいつでも呼んでください」
そう言ってセシアは俺のそばから姿を消した
俺は自室のベットに横になるとすぐに意識がなくなり眠りに付く
「...」
次の日の朝
俺は体が重いことに気づいて瞳を開ける
「んーまだ体が重いな」
上体を起こそうとしたらふと違和感を感じた
確かに体はまだ重く感じるがなぜか胸より下の布団に隠れている部分が重点的に重い
しかも不自然に膨らんでいるように思える
「なんだ?」
俺は恐る恐る布団をめくると
「んー...」
「な なんでロールがここに?」
俺の腹にしがみ付く形でロールが薄着の姿でいた
「......おはようございます リュート様///」
「おはようロール」
「...リュート様...あったかい」
ロールは一度俺に挨拶をしたと思ったらまた抱きついて瞳を閉じる
なぜか俺の体温の感想を言い残したが正直ロールのほうが暖かい
「いやいやロール!なんでここにいるの?」
「...それは///」
ロールは顔を赤くしてまた俯いてしまう
すると俺の部屋の扉を叩く音と共に
「リュートさん起きていられますか?」
「兄ちゃーん!ロールここに来てない?」
ケールとベールの声が聞こえてきてロールが俺の布団をかぶる様に隠れた
「あ あぁとりあえず入っていいぞ」
俺がそう言うとケールとベールが入ってくる
「おはようございますリュート様」
「おはよう兄ちゃん!」
「あぁおはよう」
「すいませんロール見ませんでしたか?」
「スンスンここにいると思うんだけどなー」
ベールは鼻を利かせながらロールを追ってきたらしい
さすが魔獣人
「えーと、ロールならここに」
そういって俺の布団を指差すとケールとベールが近寄ってきて布団を剥がす
「ろ ロール?!」
「あぁぁぁぁ!!ロールずるい!」
「...」
ケールとベールがそう言ってる中ロールは俺の体に回した腕を放そうとはしない
「ちょっとロール!リュートさんから離れなさい!」
「そうだそうだ!ずるいぞ!」
「...嫌」
二人掛かりでロールを引っ張るがロールの力はどんどん強くなる
「こらこらロール、いったん離れようか」
「...」
ロールは一瞬力を緩めたがまた力を入れ始めた
「もういい加減にしなさい!」
「次はあたしの番だぁぁぁぁ!」
ロールは腕だけでなく足も使って俺に絡みつくように離れない
俺はまだ体が痛いんだが...まぁいいか
そんな感じの騒がしい朝を迎えた