悲鳴
あれは15歳の時だったかな
俺は息抜きにカルと一緒に城下町の外へ散歩でもしようと言うことで
今森の中へいる
「なぁリュート、最近なんか戦争多くねぇか?」
カルがそんなことをつぶやきながら森の中を悠々と歩いていく
「そうだな、そういえば父さんも最近戦争で帰ってきていないな」
この世界には天使が統括している聖地、魔族が統括している魔族領域、海皇神を信仰している
海皇信仰国、そして人間、亜人が両方がいるゼントンという地の4つに大きく分かれている
その中でもゼントンという地は人間国家、亜人国家の対立があり、毎年のように争いがある
人間国家は聖地寄りにある国で神の使いとされる天使を崇拝するものが多く、亜人は魔物と
人間の混血種族と差別する習慣があるらしい
亜人国家はその迫害を受けた亜人達が結成して立ち上げた国でもあり、人間のことを嫌っている
者が住み着くようだ
一部の小さな場所では人間も亜人も隔たり無く接している地域もあるらしいが詳しいことは
行ったことが無いからわからない
ゼントンでは今年人間国家が領地を広めるために亜人国家の領土に戦争を仕掛けてきて、亜人
国家は魔族領域に近いこともあり今魔族のほうから力を借りて応戦中
魔族が全軍で攻めればゼントンを支配するのは簡単だと思うかもしれないが、人間側に天使たちが
いてそう簡単に侵略できるものではないらしい
魔族領域はこの大陸の5分の1を占める広さではあるけどその領域内の魔物全てが魔王の味方という
ことではない、それぞれの魔物に長たるものがいて協力できる案件で無い以上はあまり干渉して
こない
魔物単体としては強力な存在として魔王がいるが、全ての魔物を相手にして完全勝利できるほどの
絶大な力を持っているわけではない
一つの種族を相手にするならそれなりにできるみたいだけど
もちろん領地内の紛争もたまにある
俺の父さん(魔王)はいまゼントンで亜人国家に力を貸す為に城を留守にしている
「魔王様も大変だよな~毎年戦争に借り出されて」
「まぁそれが魔王の仕事らしいから」
「そんなの配下の奴に任せてもいいんじゃないか?」
「それが父さん心配性らしくて、あまり犠牲は出したくないから自分で行くらしいよ」
「それじゃあ城を他の魔族が攻めてきたらどうすんだ?」
「それは大丈夫、父さんが留守の間はロバートさんがいるから」
ロバート・アルトヴェルグ
魔王の側近であり右腕、実力は魔王が認める程の上級魔族である
アルドヴェルグ家は代々俺達ハーデスエス一族の側近として使えていて
魔王の補佐をすることを命令されている
元アルトヴェルグ頭首が魔王がいない城を守っている形になっている
「あぁあの顔が怖い人か、はじめて見た時はおっかなかったぜ」
「まぁ見た目は怖いかもしれないけど凄くいい人だよ」
「お前は魔王様の息子だからだろ、俺からしたら恐怖そのものだね」
そんな話をしながら森を歩いていたら
「「「きゃああああああああ」」」
森の奥から複数人の声がした
「おい!行くぞリュート!」
「わかった!」
カルと共に悲鳴のするほうに全力で向かった
「お前らこんなところでなにしてる」
「わ、私達は森の花を取りに来ただけよ!」
「こんな森で花なんか探してたのか?危険だとも知らずに?」
「か かぁーちゃんが具合悪くて元気がねぇーんだ!」
「...だから三人でお花を取りに...」
獣人のならず者3人が女の子3人を取り囲んでいる
「その身なりからしてあの魔王城の町のやつだな」
「なぁ兄貴、こいつら人質にして食い物や金を取引しませんか?」
「そりゃぁいい考えだ、お前らそいつらを逃がすな」
獣人たちの親玉が指示をだすと二人の獣人は少女達の腕を掴もうとする
「い いやぁぁぁ!!」
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
カルが一人の獣人目掛けて蹴りを食らわせる
「ぐふぁ!」
「何だてめぇら!」
俺もカルに追いつきもう一人の獣人に組みかかる
「おらぁ!」
「は はなせ!!!」
俺は獣人の首元を絞めながら思いっきり力をこめて木があるほうに投げつける
ドスン!と大きな音を立てて獣人は背中を打ちつけた
「がはぁ」
木へ打ち付けられた獣人はそのまま気を失い動かない
「ほう、魔族の餓鬼か」
獣人の親玉が腕組をしながらこちらを睨む
狼の顔をした獣人の目は鋭く、静かに頷く
「なかなかの力を持っているようだな」
「そりゃどうも」
「だけどまだ旨く使えてねぇみてーだ」
獣人の親玉は戦闘経験から察したのか見ただけで俺の力を判断した
「女3人を守りながら俺と戦えるかな」
「それはやってみないとわからないことだ」
俺は拳に魔力を纏わせて戦闘の構えに入る
戦った経験はよくこの辺りで知性の低い生き物や魔族とやったことがある
ただ知性をもった奴を相手にするのは初めてだ
「ふん、ならそのまま俺にかかって来いよ」
そう言いながら獣人の親玉は腕組みしたまま棒立ちになる
「はぁぁぁぁ!!」
俺は獣人の顔面目掛けて思い切り右腕を振るう
「ふん 遅い遅い」
獣人は俺の気づかない速さで攻撃をかわした
「くそ!」
俺は両拳に魔力を込めながら獣人に何度も拳を振るうが
全て空を切ってしまう
「動きが単調すぎなんだよ!」
ドシン!と俺の腹部に獣人の拳がめり込む
「がは!」
「パワーはあってもスピードと戦闘の勘がまったくねぇ!」
獣人の親玉は何度も俺の顔面、腹部を殴打した
「くはぁ!」
口からは鮮血が飛び散り俺は女の子のいるほうに飛ばされる
「魔族のお兄さん!」
「無理しちゃダメ!死んじゃうよ!」
「...魔族のお兄さん...」
女の子達が俺を心配そうに見ている
「あぁ大丈夫、体は頑丈なほうだからね」
俺は体中傷だらけになりながら立ち上がって魔力の壁を女の子達を背中に張る
「リュート!こいつを倒してそっちに行くから堪えろ!」
「させるかよ!そんな余裕お前にあんのか!」
リュートはもう一人の獣人と戦っていてこっちにはこれなさそうだ
「はぁはぁ、体の治癒をしないと」
俺は魔力で傷口を癒そうと集中した、だが相手はそれを許すはずも無く
「やらせるかよ!」
獣人の親玉は俺の張った防御壁を爪を使って連続攻撃をする
防御壁の魔力を維持しながら治癒は想像以上に難しく、今の俺には防御壁を維持するので精一杯
だった
「はぁはぁ」
「流石のその傷じゃ意識も集中できまい!」
獣人の親玉の連撃は止まらず俺の防御壁がどんどん亀裂が入っていく
バリン!と防御壁が砕ける音がした
「くっ!」
「なかなか硬かったじゃねぇか!だがもう終わりだ!」
獣人の親玉が俺に攻撃を仕掛けた時
「チェーンバインド!」
ジャラジャラと獣人男の両腕と胴体に絡みつき動きを封じる
「くっ最後のあがきか?だがこの程度の魔力の拘束なら!」
グググッ バキン!
魔力で作った鎖が獣人の親玉の力で解かれた
俺は魔力を背中全体に集中させて女の子達3人をしゃがみながら抱きかかえるように
して俺の胸の内側に寄せた
「ぐはぁ」
「はぁはぁ!リュート!!!」
カルの危機に気づいて全力で駆け寄るが攻撃が当たる前には間に合わない距離だった
「貫通爪!!」
獣人の親玉は技の名前を言いながら俺の背中目掛けて攻撃を放った
ブシャアアアアアアアアア!
「う!!!!!」
魔力を込めて防御した背中をまるで無視するかのように俺の背中に深い爪痕を付けた
その傷口から大量の血が飛び散る
「お兄さん!」
「お兄ちゃん!」
「...そんな」
女の子達は俺が血の色で染まっていく姿をただ見るしかなかった
「どうだ防御貫通攻撃は、結構利くだろ?」
獣人の親玉は俺の姿を眺めながらニヤついていた
「リュートをよくもおお!!」
カルが獣人に向かって攻撃をするが全てかわされてしまう
「餓鬼がなにしようと無駄だ!」
ドスンと鈍い音と共にカルは吹き飛ばされていく
「がはぁ」
カルはさっきの獣人の手下との戦闘で疲弊しきっていた
「お前の処分はこの血だらけの餓鬼の後だ」
獣人は倒れているカルにそう言い放つと俺のほうへ近づいていく
「これで終いだ」
獣人が俺の髪を引っ張り上げトドメの一撃を加える瞬間
意識が朦朧とするなか俺はその攻撃を目で追っていた
まるでさっきまでの速さが嘘のように遅く感じた
俺はその獣人の爪が首に当たるぎりぎりで腕を掴んだ
「はぁ?!」
獣人は自分の攻撃が止められると思ってもいなく驚きの声をだしていた
俺はすかさずもう一つの手で獣人の顎に拳を振るっていた
ガン!!
「ぐふぇあ!!」
無意識のうちに魔力を込めていたのか獣人は思い切り後方へ仰け反りながら飛んでいく
「はぁはぁ、いったいなんだってんだ!」
致命傷になるほどの一撃ではなかったためか獣人は起き上がるが思い切り顎に強打されたため
フラフラと立ち上がった
「なんの悪あがきか知れねーがその傷じゃもうたってるのもやっとだろ」
獣人はニヤつきながら喋る、だが獣人の喋る言葉すらももうぼやけてしか聞こえない
「大人しくしていれば苦しまなかったのにな」
そういってまたこちらに近づいてくる獣人
「主様にはこれ以上手をださせません」
「なに!いつの間に背後に!」
ザシュ!と斬撃音とともに獣人は背中から血を吹き出して倒れる
「ぐはぁぁぁぁ」
獣人は応戦することもできずに切りつけられていた
「主さま、無茶をなさって」
「お兄さん!」
「お兄ちゃん!」
「...魔族の兄さん」
意識がもう切れそうな瞬間獣人を切りつけた奴と女の子達の声が聞こえて
俺の目の前は真っ暗になった