8 解説さんはツンツン
俺は草で編んだベッドの上でぐっすりと眠っていた。
ベッドは洞窟の中に置いてあり、雨風を凌げるなかなか良い場所にあると思う。
この場所は前回倒したタイタンエイプの巣だった場所だ。
タイタンエイプ亡き後、誰も使っていなかったので俺が使うことにした。
野生の世界は弱肉強食。強いものは全てを手に入れるのだ。
……やってることまんま強盗だけどな。
しかも今はおニートさんだ。
ピカピカの社会人1年生としては許されないことだけど、ここは俺の夢の中で、異世界で、俺は魔物だ。
今ならいくらでも無職が許されるのだ!
今なら働いたら負けって言えるぞ!
『働かない言い訳が上手ですね』
ま、まあ、とにかくだ。
居心地の良い寝床を手に入れて、俺は大満足。
解説さんもそう思うだろ?
『お答えしかねます』
ま、いっか。
ところで解説さん。魔力について聞きたいんだけど、良いかな?
『私に答えられる範囲であれば構いません』
じゃあ質問その1。
魔力には属性ってあるの?
『あります。魔力の属性は色で識別できます』
質問その2
属性の色を教えて。
『魔力の属性は茶、青、赤、緑、白の五色です。それぞれの色が地、水、火、風、空の5つの属性となっております。属性ごとに使いこなせる魔法の種類は決まっています。例えばあなたの属性である火ならば、炎属性の魔法であるインフェルノ系列の習得が1番手近で強力です。インフェルノ系の魔法は魔界の煉獄という場所にアクセスし、魔炎を召喚する魔法です』
俺の属性は火で、1番使える魔法はインフェルノ系というシリーズものの魔法ね。
それにしても「業火」か……。
名前からして強そうだな。覚えておこう。
ところで、魔力の属性によって使える魔法は限られてるの?
『基本的に、自分の適正属性以外の属性魔法も努力次第では習得できますが、どれだけ修行を積もうと適正のある相手には全く及びません』
じゃあ、解説さん。今度はそれぞれの属性の説明してよ。
『地属性は主に大地や植物の召喚、操作の魔法となります。
また、地属性には重力操作の魔法も含まれていて、極めた者は重力を収束する、指向性を持たせる、ということが出来ます。
神話時代のとある戦士は、数百億倍もの重力を圧縮して指向性を持たせ、光線として放つ技を持っていました』
地属性地味に凄えな。重力光線をぶっぱなすなんて一個の生物が持つ力として強力すぎる。
マジでキング○ドラじゃん。あっちの呼び名は引力ビームだけど。
地属性最強じゃん。
地属性の凄さは分かった。じゃあ水属性は?
『水属性の魔法は、気体、液体、固体を問わずに水分の召喚と操作をする魔法です。
水属性魔法で召喚された魔力を内包した氷は、大気中から魔力の元であるマナを吸収出来る限り、決して溶けないと言われています。
あくまでも氷ですので、衝撃や負荷を与えれば壊れますが、魔法の氷は砕けても空気中の水分を吸って再生する機能があります。
優れた水属性の使い手がその氷で美しい女神像を創造したこともあり、その作品は現在もこの国の王都の広場に飾られています。
回復・治癒の魔法も水属性であり、水属性の使い手は医者や芸術家として成功する者が多くいます』
溶けない氷か……。そんなのがあったら夏とか便利だな。
水属性は主にヒーラーってところか。
じゃあ、いよいよお待ちかね。俺の属性である火属性はなにができるの?
『火属性は最も攻撃に特化した属性です。火属性魔法の使い手は皆、高熱への耐性があり、優れた使い手ならば熱や炎そのものが通じなくなります。
攻撃も火炎放射、火炎の砲弾、炎の弾丸、炎のレーザーなど、飛び道具の種類も豊富です。
魔法で核融合や核分裂を起こし、太陽を再現して操る。魔界の煉獄から業火の魔炎を召喚して武器として使用するなど、この世に存在する火全てを味方につけることができます』
やだ、炎属性…強すぎ……?
太陽を再現して武器にできるとか、煉獄から炎を召喚して武器にするとか、強すぎる。
しかも、強くなれば熱攻撃や炎自体が効かなくなる。
飛び道具もいっぱいある。
俺、火属性で良かった。
じゃあ、風属性は?
『風属性の魔法は風を操る魔法です。風魔法の使い手は全般的に機動力が高く、足軽です。
魔法で空を飛び、カマイタチで敵を切りつける、衝撃波を発生させるなどができます。
他の属性に比べれば少し地味ですが、風魔法の本質は大気中の成分や空気そのものを操ることにあります。
優れた使い手は大気中の成分や空気の濃度を自在にコントロールし、無酸素状態でも生存できるようになります』
無酸素状態でも!生きられる!
凄すぎる……。
じゃあ、空はなんなの?名前からして、風属性とそんなに変わらないように思えるけど……。
『まず、空属性はその属性の持ち主が極端に少なく、幻の属性とされています。現在の空属性魔法の使い手はあなたが最近は出会ったマナという少女とバルログ帝国の将軍、アモンという魔人の男性のみです。
空属性の魔法は伝承にも伝説にも乗っておらず、一説によると他の属性全てを極め、組み合わせることが出来るとも言われていますが、具体的に何が出来るのかは情報不足のため、私にも不明です。申し訳ありません』
解説さんにも知らないことがあるんだな。
万能だと思っていた解説さんの人間アピールを聞いて、ちょっと愉悦を感じる。
今まで散々冷たい態度を取られてたけど、こんな弱みもあるんだな。
にしてもここでもマナちゃんさんの名前が出るとは……。
やっぱりあの人は特別なのだろうな。
魔力4桁でスキルレベルMAXの怪物で俺の将来の飼い主で、しかもまだ最低でも4倍は強くなるし。
マナちゃんさんのチートぶりを再確認しつつ、俺は解説さんのフォローに回る。
「ワン、ワン、バウ!(まあ人間だし、しょうがないよ)」
『あなたが私の何を知っているのですか?私が人間ではないことも知らないのに』
解説さんって人間じゃなかったの!?マジかよ!
『ええ、それと私の落ち度とはいえ、あなた程度に気を使われるのは癪に障るので今後は止めてください』
あっ、はい、分かりました。
『素直で良いですね』
あれ?ちょっと優しい。ツンデレか?
『素直過ぎて私が死ねと言ったら自害しそうですね』
やっぱり解説さんは冷たい。