5 フラグでした
強い相手を求め、俺は森のさらに奥深くに入り込んだ。
何時間も歩いて森を進んだ。
やがて、日の光が木漏れ日程度にしか入らず、天気も良い昼間でも薄暗い場所に出た。
どことなく薄気味悪い雰囲気だ。
ここなら、雰囲気的に、前いた場所よりも強い敵が出てきそうだ。
大丈夫。進化した今の俺ならできる。やれるはずなんだ。
―――ブモオオオオオオオ!!!
森の奥から牛のような鳴き声が聞こえる。
ほら、早速なにかお出ましだぞ。
大方、鳴き声からしてミノタウロスとかだろう。
その予想は当たりだった。
森林をなぎ倒して俺の前に姿を見せたのは、牛頭人身で巨体の筋肉ダルマなミノタウロスだ。
ボディービルダーの筋肉なら生で見たことあるけど、それとは比べ物にならないほどの分厚く巨大な隆々とした肉体。
マジで魔物じゃん。
襲いかかってくる気配は今のところない。
で、解説さん。こいつのステータスは?
名前/無し
種族/ミノタウロス
性別/♂
年齢/951才
体力/200
パワー/350
スピード/90
タフネス/200
魔力/5
レベル/53
経験値/2315
スキル
無し
解説
主食は肉で、森に住む固体は他の魔物や通りかかった旅人や商人を食して生きている。
本能に忠実で非常に狂暴。知性、理性は存在しない。
雄の固体しか存在せず、雌はいない。
わお。なんともまあ、エロゲチックな設定だこと。しかも超強いじゃんこいつ。
体力もパワーもタフネスも軒並み三桁超えとかありえない。
うん、逃げよう。
俺は回れ右してすぐに全速力で走り出した。
へたれ?言ってろ。だって勝てるわけがないもん。
逃げるんだぁ、勝てるわけがない!
そんな俺の弱腰を嘲笑うようにミノタウロスは大きな高笑いを上げながら追っかけてくる。
元気な息子さんをおっ立てて。
俺は解説さんの解説を思い出す。
「雄の固体しか存在せず、雌はいない」
つまりこれは他の種族の雌を孕ませて子供を生ませてるってことなんじゃないか?
そして今の俺はオオカミの雌……。
つまり、孕める。
…。
………。
……………………。
捕まってたまるかクソッタレめ!
絶対に逃げ切ってやる!
木々の隙間を縫って進む俺とは対照的に、ミノタウロスは道を阻む木々を拳一つでなぎ倒して真っ直ぐに走ってくる。クソが。
このままだと追いつかれそうだ。
時々振り向いて放水するが効果はない。
ていうか今気づいたけど、放水してる間ガンガン魔力減ってるし!
ちょっと、解説さん!どういうことなの!
『スキル・ポケットディメンションの使用は魔力を消費します』
初めて聞いたんだけどそれ!?
『初めて言いましたからね』
チクショーこいつ、とことんドSだ!
『そんなことはありません。あなたが苦しんでいるのは見ていて心が痛みますよ?』
嘘つけ!
あーもう、解説さん!なにか他の良い方法はないの!?
『魔力を使用し、身体能力を一時的に底上げすれば逃げ切れるかと思われます』
思われますぅ?!断言してよぉ!
『それは客観性に欠けます』
もういい!あ、でも教えてください!
魔力ってどうやって使うんですか!
『体内を巡る魔力を感じとり、1ヶ所に集中してください』
そんな気功みたいこと、逃げながらできるわけが………あ、できた。
分かる、分かるぞ!
俺の心臓の辺りに集まり、心臓の辺りから全身に血管を通して全身を駆け巡っているエネルギーを感じ取れる!
これが魔力……。
これを1ヶ所に集中。できた。
こんな不自然なくらい、スムーズに進んで良いのかと思うけども、今は俺の1度も敵兵に攻められたことがない城を守る方が大事だ。
魔力を4つの脚に集中、集中と。
実感はあまり湧かないけども、ミノタウロスをぶっちぎって走れるところに脚力が強化されていることを感じる。
その代わり、めっちゃ脚痛いけど。
なんか筋肉と骨が悲鳴挙げてるんだよね。
こう、筋肉痛と成長痛にも似た痛みがする。
なんか、このまま強化を続けるとやべえ気がする。
俺の体持ってくれよ!オオカミ拳!スピード三倍だー!
俺の速さは、ハツジョーミノタウロスなんぞ比べ物にならないほど大幅に増し、距離をグングン引き離す。
やがて、ずっと後ろから悔しそうな咆哮がして、追いかけてくる気配がピタリと止んだ。
なんとか逃げ切ったようだ。
だが、その代償に俺の体はボロボロだ。
一先ずは体を休めませて、次の相手を探そう。
余裕で倒せるレベルのね。
と言ってから数日が経った。結論から言おう。
全っ、然!ダメでした!
ミノタウロス戦で無様に逃げ回るしかできなかった俺は、それからも敗戦に敗戦を重ねた。
た~まに倒せるレベルの魔物が出てきてシコシコとポイント稼ぎができたと思ったら、俺のレベルが上れば上がるほど、なぜか周りの魔物もこの森で蟲毒でもやってんのかってレベルで戦闘力を上げ続けて、ついには俺の一歩も二歩も先に進んでいやがったっっ!
なにが『俺はロードフェンリルになる男、いや、オオカミだからな!ワッハッハッハ!』だ。
全然ダメだったじゃん。
負けフラグだったじゃん。
チクショー!チクショー!チクショー!
解説さん!俺はどうすればいいんだー!
『ご自分でお考えください』
だよね!
とりあえずは、ステータスの確認じゃい!
解説さん。よろしくお願いします。あ、解説の下りはカットでいいですよ。
『承知しました』
名前/ナナシのナナ
種族/オオカミ
性別/♀
年齢/3ヶ月と2週間
体力/86
パワー/95
スピード/150
タフネス/75
魔力/55
レベル/4
経験値/59
スキル
ポケットディメンション レベル1
ステータス閲覧 レベル2
解説
進化直後よりは一回り強くなったけど、こんなものか。
まあ当然さ。大幅に場面をカットしたけど、戦うことから逃げてばかりだったもの。
でも1つ、言い訳させてほしい。相手が強すぎるんだよ。
進撃の○人並みにでっかいゴリラに襲われたり、カー○ィ並みのバキューム力で全てを吸いこもうとする大食いワニだったり、俺を襲ったフォレストスネークの上位互換のジャイアントスネークって魔物に食われかけたり、いかにも狩人って格好の人間様たちに魔力のビーム撃たれて狩られかけたり、と色々死にそうなくらい大変な目に会ったんだ。
死ぬかと思った。
でも1つだけ収穫があった。
最後の狩人が使ってた魔力ビームについてだ。
あれ練習すれば俺にも撃てんじゃねって思うんだよ、解説さん。
『あれは光属性の魔法の一種です。魔法名は魔力光線。基本的な光線魔法ですね』
あれが基本?!
一撃で体力ほとんど持ってかれたんだけど?!
具体的には9割位。俺、よく逃げ切れたよ。近くの崖から飛び降りて助かったけどさ。
下の木がクッションになって助かったぜ。
『そのままお亡くなりになれば楽になれましたのにね』
毒舌だね、解説さん。
そんなに俺が嫌いかい?
『好きではありませんとだけ』
手厳しい。
『それで、これからどうするのですか?』
もちろん、あの魔法ビームの練習をします!
『魔力光線です。そのためにはまず、魔力の操作を完全にしなければなりませんよ。ポケットディメンション内の水の操作もできない貴方に、属性魔法は難しいかと思われますが?』
じゃあ水の操作から覚えよう。
水を武器に出来るまで練習をする。
水圧カッターとかできるようになりたいし。
『良い心がけです。それでは早速始めましょうか。湖まで移動してください』
分かったよ。解説さん。