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オオカミ魔物で異世界転生  作者: コインチョコ
30/31

29 決着




マナさんが魔法でロマネスク様のステータスを強化し、ロマネスク様がさらにスキルで自分を強化してバルログとの死闘を演じている。

見えないくらい速い、衝撃波も出てる。明らかに音速を超えた戦いだ。

マナちゃんさんはバルログに殴られたお腹を押さえながら、杖をついて力無く立ち上がり、魔法を唱えた。


「これが最後の魔法だよ!!全員に強化をかけるね!」


膨大な魔力を湯水のように使い、俺とタケルくん、ロマネスク様を超絶に強化してくれた。


「……これで、ナナちゃんと、勇者さまも、戦えるよ……」


それだけ言い切ると、マナさんは力を使い切ってしまい、その場で倒れてしまう。

魔王の間の外は結界が張られていて、中でどれだけ暴れても外にはなんの影響もないことは解説さんが教えてくれた。

結界の一部を破るのは、強化された俺にはなんの苦労もなかった。

気絶したマナさんを魔王の間の外に寝かしてくると、再び部屋と呼ぶには大きすぎる部屋に戻る。魔王の間は大きすぎて、まるで一種のスタジアムだ。


マナちゃんさんの魔力がそのまま俺のステータスに変換されて、無限に思えるほどの力が湧いてくる俺は、調子に乗ってるのか、蛮勇かは知らないが、魔王に立ち向かう勇気も湧いてきた。

ご主人様からの貰い物の力だと分かっていても、大切な人から貰った力に恐怖に立ち向かう勇気を与えられた。


のんびりステータスを見てる余裕は無いが、今の俺ならば、魔王とも戦えるだろう。当然、タケルくんも。


「タケルくん、俺に続け!ロマネスク様を援護する!」


「了解だぜ!」


魔炎のバリアが剥がれた巨人のむき出しの背中に、まずは挨拶代わりの右肘をお見舞いしてやる。


振り向きざまに裏拳をかましてきたところを空中を蹴って強引に宙を舞って避けて額に向けてドロップキック!

バルログに捕まる前に蹴りの反動で距離を取って逃げる!

その背中を、ロマネスク様がすかさず斧で切りつける。

致命傷にはならなかったが、この戦いで初めて魔王バルログに血を流させることは出来た。

傷は無視できるほど小さくもない。


しゃあ!完璧に決まった!


「己、毛玉風情が……!!」


バルログは振り返り様にロマネスク様をローキックで柱に叩きつけて俺に向き直る。

ダメージは無い。挑発にはなったようで、魔王のヘイトが完全に俺に集まった。


その隙をタケルくんは逃さず、不意打ちを仕掛ける。

魔導障壁でバルログを挟み撃ちし、サンドイッチして押し潰そうと試みている。

勇者らしくないとかは言わないぞ。それくらいしないと勝てないからな。


「こんなものぉおおお!!」


バリンッ!


山を動かす災害並みの怪力を持つロマネスク様以上の怪力を持って、魔炎を吸って強化している魔導障壁を強引に打ち破る。


しかし、大きな力仕事の後は誰もが体力を使い、場合によっては息を切らしたりするものだ。


バルログもまた例外ではなく、十分に息を切らしている。

ましてや小さくはない傷を負っているなら尚更だ。


筋肉に力をこめて圧力をかけたせいで流血も激しくなっている。

確実に体力は削れてる。


タケルくんが聖剣でバルログを切り刻み、さらに大小様々な傷をつけていく。

解説さんの指示の下、危なくなったらすかさず下がらせて今度は俺が水流カッターで刻んでいく二段構えだ。

復活したロマネスク様も加わり、バルログの左腕を肩口からバッサリと切り落とした。すげえ!


もうここまで来れば、魔力光線で倒すべきかとも思ったが、俺の光線は威力の調整ができない。残っている力をありったけ注ぐしかない。

水流カッターならば、安定した威力を低コストで放てる。

俺一人だけ距離を保ち、遠くから水流カッターで二人を援護する。


「いける!いけるぞ!!」


「まだ油断すんじゃねえ!!まだ倒してねえ!」


タケルくんに芽生えた慢心を、ロマネスク様がすかさずへし折る。勝てそうっていう、その気持ちは俺にも芽生えていただけに、俺にも当てはまる。

確かに、まだ倒してないのに勝確だと思うのは良くないよね。


『当然です。彼女が正しいです』


解説さんもこう言ってる。


「おい、ワン公!魔力光線はまだ使えるか?!」


「はい!どっちにしろ一発しか撃てませんけどね!」


「なら使え!止めを刺せ!時間ならあたしが稼ぐ!!」


「了解です」


やらせん、と叫んでいるバルログ。

徹底的に俺を狙って叩くつもりだが、ロマネスク様とタケルくんがそれを許さない。

ロマネスク様が猛攻でバルログを釘付けにし、タケルくんの防御スキルがバルログの攻撃から俺を守る。

そして俺がバルログに致命傷を与える攻撃の準備をする。

完璧なチームワークだな。


『チャージ完了。いつでも撃てます』


解説さんがチャージ終了を告げる。


「溜めが終わりました!退いてください!」


二人に向けて退いてくれるように警告する。

「了解」とタケルくん。「オーライ」とロマネスク様。


俺は「くたばりやがれ」と、叫んで発射しようとするが……。


「俺の速度に着いてこれるものか!」


バルログがマナさんと演じた高速移動を再び行う。


クッソ!これじゃ狙いが定まらん!


「そうはさせないよ!」


しかし、横合いから飛んできた捕縛用拘束魔術式がバルログの手足を拘束してミノムシ状態にする。


この魔術は、マナさんのだ!!


知らんうちに復活していたマイマスターが助けてくれて、テンションMAXHeartだ。


「ふう、久しぶりにエリクサーがぶ飲みしちゃったよ……」


口元をローブでぬぐうマナさんの足元には、空っぽになった魔法薬の瓶が大量に転がっていた。底に付着している緑色の液体がエリクサーだろう。

四次元バッグの中に大量に入れた魔法薬は無駄じゃ無かったらしい。


「己、小娘ごときに……!!」


あ、忘れてた。喰らえ!魔力光線!


空色のマナさんの魔力と、俺の赤い魔力が混じりあった特別製の極太光線が圧倒的エネルギーを発しながらバルログに殺到する。


「己ぇぇぇぇぇ!!」


断末魔の叫びをあげながら光の奔流に飲まれて消えていく魔王。

目も開けてられないほどのまばゆい光が、収まった時、魔王の魔には朱に染まった太陽の光が刺していた。

光線が部屋の結界も防壁も、射線上の全てを消し飛ばしたから夕焼けの光が入ってくるのだ。

バルログは倒れ伏し、ピクリとも動かない。

マナちゃんさんに与えられた力を使いきった俺は、反動で痛む全身を引きずってマナちゃんさんのお膝へ向かう。極楽極楽。


「……終わった?」


タケルくんが誰にともなく問いかける。

疲れたのか、床に座りこんでいる。


「まだですよ!油断しないでください!」


「は、はぃいい!!」


マナさんに渇を入れられて即座に姿勢を正しているのはご愛嬌だ。


「勇者さまが止めを刺すまでは気を抜かないでください!」


「あ、あぁ、そうだった」


タケルくんは、思い出したように聖剣を握り直す。正直俺も勇者しか止めを刺せないって忘れてたわ。


震える手で剣を構えるタケルくんは、意を決して振り下ろす。


ザクッ!と心臓を一突き。


殺したくないという葛藤はなんだったのかとか、突っ込みはしないぞ。魔王バルログは炎の巨人だったし、普通に人型よりも抵抗少なかったんだろうな。


「これで、ようやく終わったな……」


ロマネスク様が呟く。


「そうだね」


とマナちゃんさん。

俺は、本当に終わったのか?と頭のなかに疑問符が浮かぶ。

実は第二形態があるとか、まだ生きてるとか、真の魔王がいるとか、そんなんがあるとかを恐れていた。


「十分休んだし、みんな集まってね。帰るよ!」


マナちゃんさんが転移の魔術式を描いて、みんな陣の中にいる。


置いていかれたくないから俺もすかさず魔術陣の中に移動する。


まあ、なんかあってももっと強くなったマナちゃんさんとロマネスク様がどうにかするでしょ、という他力本願寺な考えがあった。


かくして魔王退治の旅は終わり、帰路につくことになった。


国に帰った俺たちは、国王に盛大に感謝された。


しばらくはゆっくり休んで戦いの疲れと傷を癒した後、マナちゃんさんと自然保護官に戻り、俺は正式にその補佐になった。

ロマネスク様はコロシアムのチャンプに復帰して無敗の女王として君臨している。

タケルくんはマナちゃんさんが魔法と魔術を駆使して元の世界に帰った。


それぞれがそれぞれの日常に戻り、魔王退治は過去の思い出になった。



しかし、俺は最近になって意識がハッキリしなくなっていた。

理由は分かる。現実の俺が目覚めようとしているのだ。

知っていたさ。ここは俺の夢の中の世界だ。仮に、この世界が本当に異世界だとしても、俺はこの世界にとってはタケルくんと同じ異物だ。


なにか役割があってこの世界に呼ばれたにせよ、いつかはこの世界から出ていかなきゃいけない。

その役割は恐らくは魔王を倒すことだった。

魔王を倒したから、俺はこの世界から消えようとしている。


後悔はないぜ。マナちゃんさんやロマネスク様と一緒にいられたからな。特にマナちゃんさん。


彼女には感謝してもしきれない。

解説さんにも感謝してる。ありがとうな。


『恐縮です』


意識の状態からして、俺がこの世界に入られる残り時間はほとんど無いってところだな。

そうなる前に、解説さんに聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?


『なんでしょうか?』


結局、解説さんってナニモノだったの?


『私ですか?私は私の本来の主である、ロードフェンリル様が造り出した意識体です。ご主人様がこの世界にあなたを招かれた際のサポート役として、あなたのスキルとして組み込まれていました』


……ワオ。ロードフェンリルとか、みんなが忘れてただろう設定がここにきて出てくるとはね。

でも、解説さん、ロードフェンリルのことは知らないって言ってなかった?


『ご主人様から、自分のことはなるべく話すなと言われておりましたので』


守秘義務があったのか……。

でも、今話してるのはいいの?


『ええ、あなたはもうすぐ元の世界に帰されるので、もう問題ないと思われます』


独断じゃないですかー!ヤダー!


『ええ、独断です』


くっ……頭がボーっとする。そろそろ時間が無い。

最後にお礼でも言っとかなきゃ。


それじゃ、解説さん。この何ヵ月間か、お世話になりました。

元の世界に帰ってもキミのことは忘れないよ。


『はい、私もなんだかんだで楽しかったです。忘れない思い出にしてくださいね』


じゃあね。解説さん。じゃあね、マナちゃんさん。


とうとう俺の意識はこの世界から消えた。















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