28 バルログが強すぎて草はえる件
「今、なにかしたか?」
ロマネスク様の一撃も通じなかった魔王は、やっぱり俺の渾身の攻撃でも健在なり。やばーし。
「ナナちゃん!逃げて!こいつはナナちゃんの手には負えない!完全に敵の戦力を見誤ってたの!!逃げて!」
マナちゃんさんが必死の形相で叫んでいる。
確かに俺じゃこいつには勝てないし、逃げたいけどさ。でもな。
「ご主人様が戦ってるのに……使い魔が逃げられますか!!」
マナちゃんさんが死力を尽くして戦っているのだ。
使い魔が主を見捨てて逃げるわけにはいかない。
『その無謀な選択、さすがはマスターですね』
バルログが一歩、二歩と踏み出すごとに地鳴りにも似た振動が轟く。
巨体から繰り出される炎の宿った攻撃は必殺の殺傷力をもって俺を一撃で屠るだろう。
「小娘どもからやろうと思っていたが、気が変わった。お前から葬ってやろう」
だが、恐怖はなかった。例えば、ここでバルログに殺されても、俺は現実に帰還するだけな気がするのは、気のせいかな。
それに、俺はマナちゃんさんにかなり可愛がられていた。
俺が目の前で死ねば、マナちゃんさん覚醒のきっかけになるかもしれない。
後少しでバルログの間合いに入る。
水魔法の加護がなければ、この時点で焼け死んでいただろう。
「ほう、逃げぬか。大した毛玉だ」
間合いに入ったバルログは、炎の剣を逆手に構えてその剣を俺に突き刺そうとして―――。
「ナナちゃん!!!」
「なにやってんだ!!逃げろ!!」
マナちゃんさんとロマネスク様の怒号が聞こえる。
ごめん、逃げんの無理だわ。
「死ね」
剣は振り下ろされた。
やだ!やっぱり死ぬの怖い!
――殺られるっっ!!
そう確信して覚悟しても、思わず死の恐怖に負けて防御の体勢を取ってしまう。
いつまで待っても、熱さも痛みを感じない
不審に思い、防御体勢を解くと、バルログの剣に突き刺される瞬間、横合いからタケルくんの魔力のバリアが張られて事なきを得ていた。
「ナナちゃん!俺が引きつけるから、今のをもう一度やってくれ!」
勇者タケルがありったけの勇気を絞り出して戦っていた。
やっぱり
「男だな!タケルくん!」
バックステップで距離をとり、再び魔力光線のチャージに入る。
今度のは、水流カッターの魔力で出来た水も混ぜた特別性だ。
タケルくんが戦っている間に、チャージを完了させた。
魔力の水ならば、魔力の炎を消せるかもしれない。
「魔力光線!!」
水付きの魔力光線はバルログの炎のバリアを突き破り、本体に直接届いた。
炎のバリアも今の攻撃で解けている。だが……。
「……こそばゆいわ」
届いたが、ダメージは全く無かった。
「なんでだよっっ!」
『レベルとステータスに差がありすぎて、ダメージがないようですね。このメンバーでバルログにダメージを与えられるのは、マナさんとハルカさんの二人だけです』
それ先に言って!
『聞かれませんでしたから』
解説さんと喧嘩していても、バルログは待ってくれない。
「お前から先に殺すのも良いかもしれんな」
とか言って完全に俺にターゲットを移した。ヤバイかも。
「逃げてくれナナちゃん!俺が囮になる!」
「ナナちゃんはやらせないよ!」
「ワン公にはうまい紅茶飲ませてもらったからな!」
三人が俺と相対し、無防備になっているバルログの背中を同時に攻撃しようした。
「邪魔だ」
バルログは三人を見もせずに、裏拳でまとめて吹き飛ばしてしまう。
「あ、あぁ……」
巨人が一歩、また一歩と近づくにつれ、俺は恐怖に支配される。
怖くて動けない。あえぎ声にも似たうめく声しかでてこない。
殺される。
「死ね」
「逃げてくれ!」
タケルくんがバルログの足の間を通って俺の隣に滑りこみ、魔導障壁を展開した。
バルログの魔炎の剣も、障壁に熱を喰われて消滅するが、バルログの腕力は健在。
強引にパワーで障壁を破ろうとしてるのか、障壁をがむしゃらに殴りまくる。
しかし、魔炎のエネルギーを吸った障壁は頑丈で、破られのには時間がかかりそうだ。
「うおおおおお!!」
タケルくんも障壁に魔力をどんどん追加して強化している。
バルログの背後では、マナさんとロマネスク様が力を高めて攻撃のチャージをしている。
俺は、どうすればいいんだ。




