25 ナナ「旅の始まりだぜ!早速帰りたいぜ!」
準備期間の1ヶ月は早々に過ぎ去り、旅が始まる日が訪れた。
俺は相変わらず人間体のままだ。
「皆集まったし、旅の始まりだね!」
マナちゃんさんが元気に旅の始まりを祝している。
ロマネスク様も、ユーシャ・タケルくんも拳を掲げて「おー」とノリノリのご様子だ。
「(俺は人間の姿でいいのだろうか……)」
俺は体にピッタリフィットする上下黒のインナーの上にマナちゃんさん特性のローブしか着てないから少しだけ寒い。機能性とか絶対考えてないよマナちゃんさん。だが、これがいいらしい。萌えるとか。
「どうせなら、ローブに暖房冷房の機能もつけて欲しかったですよ。ご主人様!」
「それいいアイディアだね!今度作っておくね!」
めっちゃ笑顔で返してきた。アイディアさえあればマジで作れるのかよこの人……。
「情けないなワン公。あたしなんかこんな薄っぺらい鎧だけだぞ!」
ロマネスク様の格好は、ビキニアーマー的な、局所を隠してるだけの鎧だ。ロマネスク様の筋肉美を惜しげもなくさらけだしている。俺はともかく、タケルくんが目のやり場に困ってる上に前屈みになってるんだけど、気づいてないかなこの人。
『あなたにはもう、前屈みになる要因になるアレがありませんものね』
そういうことだ、解説さん。
勇者くんが、トイレに入っていったぞ。
三分後、出てきた時にはツヤツヤになっていた。大丈夫かよこいつ。俺と、現在進行形でなにやら地面に魔方陣を書いているマナちゃんさんも危ないぞ。二人は全然気がついてないけどね!俺が守護られねば!
勇者から賢者にジョブチェンジした状態のタケルくんが、俺に握手を求めてくる。
「魔王を倒すまでの間だけど、これからよろしくな、ナナさん」
そう言って差し出された手は右手。
待て、お前、どっちだ。どっちの手で握った!どっちでやったんだ!
それが分からないうちに、この手はとるべきか、とらぬべきか。
「皆、準備できたから行こう」
マナちゃんさんから準備完了と知らせが入る。
「さ、この魔方陣に入って♪」
まるで行きつけのお店に買い物にでも行くかのような気安さだ。
これから長い旅が始まるってのに。
俺が呆れ半分の目でマナちゃんさん見ていると、ハルカさ……ロマネスク様が気まずそうに言ってくる。
「あーお前らは転移魔術は初めてだもんな」
「? なにかすごいことがあるんですか?」
「ま、やってみてからのお楽しみさ。でもな、気を抜くなよ?いきなりボスと戦うことになるからな?」
かなり真剣な顔で言われたが、もしかして、いきなり転移魔術で魔王の目の前まで飛んでいくとか、そんなことがあるのかも。
タケルくんの方も何が起こるのか予想できたようで、顔を青くしている。
「いや、自分、旅は自分の足で歩いていった方がいいと思うんですよ!だって、初っぱなラスボスってどう考えてもおかしいじゃないですか!今までの準備はなんだったんですか!」
「んー?魔王を倒すためだよ?魔王以外の敵とは戦わないよ?」
「おっしゃってることが分かりません!!」
俺も援護射撃を行うが、ロマネスク様にあっさり引きずられる。
絶対パワー四桁に負けたりしない!
パワー四桁には勝てなかったよ……。
「いいから入れ!」
やーめーてー!
「嫌だぁぁぁ!!心の準備がぁぁぁあ!!」
だが、無情にもマナちゃんさんは転移魔術を起動させる。
「それじゃ、いきまーす」
俺たち全員を強い光が包みこみ、そして……。
光が引いた時には、もうどこかの城にいた。
どうみても魔王城です。本当にありがとうございました。
「そこの扉の向こうには現在の魔王バルログがいます。皆で倒して帰ろうね」
殺る気満々なロマネスク様とマナちゃんさん。
常人組の俺とタケルくんは、既に帰りたい気満々。
皆、すごく今さらな話をしていいかい?
魔王って悪いことしてる描写、あった?




