22 旅の準備ですってよ、奥様!
俺たち勇者一行は、旅の準備のために一旦解散しようという流れになった。
期限は1月ほどだ。
旅支度の準備をするだけにしては長いが、皆に色々と事情があるのさ。
ハルクさ……ロマネスク様は一度実家に顔を出すとか言って、王都から出て行った。故郷は結構な田舎にあるらしい。
上京して出稼ぎしていたのか。あの歳で凄いな。
勇者タケルくんは戦闘は全くの素人だったようで、王宮で寝泊まりしながら、近衛兵の人たちにしごかれてるみたい。
準備期間中、毎日毎日、王宮の庭で汗と泥にまみれて倒れてるのがウケるとか。
『以上。彼らの現状です』
と、俺の相棒の解説さんが言っている。何で分かるのか?理由は知らん。この人?魔物?は大体何でも知ってる。
俺とマナちゃんさんも、マナ屋敷に帰って旅の支度をしてる。マナ屋敷って言うと、語呂が良いよね。
支度って言っても、大したことはしていない。
マナちゃんさんが空間魔法で創った異空間に繋がってる竜の革で作った剣も矢も通さない頑丈なポストンバッグ風のカバンに、突っ込んでるだけだ。
魔法魔術関連の本とか、着替えの服とか、防腐用の魔術をかけた飲食物とか、様々な種類の魔法薬とか、いろいろ突っ込んだ。
詰め込みすぎて、中でごっちゃになってなければいいが。
あらかたカバンに詰めこむと、マナちゃんさんは手を叩いて立ち上がった。
「それじゃ、準備は万端だね」
マナちゃんさんの荷物はカバン一つ。俺に至っては飲食物を少しだけ持っただけでほとんど身一つだ。
俺の分もカバンが欲しかったが、マナちゃんさんほどの女の子でもこれは貴重品らしく、2個も用意できなかったようだ。
代わりに、1つのカバンに無限に物が詰めこめるので、1つでも荷物の多さにはあまり困らされないがな。
という訳で、俺とマナちゃんさんの荷造りは完了した。
「じゃ、後は自由ってことで、俺は甘いものでも食べて――」
後は待つだけだと、折角なので異世界を遊び歩こうと俺は街に繰り出そうとする。
「待って、ナナちゃん」
「な、なんですか?」
そこにストップをかけるマナちゃんさん。
次のマナちゃんさんの言葉で、俺の地獄の1ヶ月は始まるのだった。
「期限まではまだ時間あるし、ナナちゃんのレベリングでもしよっか♪」
マナちゃんさん超笑顔だけど、その目は笑ってなかった。
始めの1週間。
狩猟許可証を発行してもらい、神樹の森でのレベリングをした。
訓練の内容は……。
「まず、強い魔物を10体狩ってきてね♪最低でもナナちゃんと同じレベルの魔物だよ」
最低でも、同じレベルの魔物を10体狩って、可能なら死体を持ってくることだった。
なぜ死体が必要なのか聞いたら、魔物の死体は魔法薬や武器、防具、アイテムの素材として有効に活用できるんだとか。
俺は、同レベルの魔物の最初の1匹を見つける時点でかなり躓いていた。
まず、魔物と出会わない。出会ったとしても俺より弱い。
『彼女の使い魔となり、その力の片鱗を受け継いだ今のあなたでは、力を恐れられ、周囲の魔物から避けられてるんですよ。同レベル以上の相手でも、あなたと繋がり、背後にいる彼女の影に怯えているようです』
マナちゃんさんの使い魔となり、強くなったがために、訓練が思うように進まないということか。
こうなったら、俺の方から魔物を探さないといけないな。
解説さん、魔物を誘き出す方法はないの?
『一つ、方法はあります』
どんな方法だい?
『昆虫型の魔物は知能も昆虫並みで、本能と反射で生きています。魔物の強さをおし測る能力もありません。あれらならば、木に蜜を塗っておけば誘い出されるかもしれません』
そこを待ち伏せして狩るってことか。
『その通りです』
じゃあ早速、蜜を探さないとな。森には木の蜜、花の蜜、蜂の蜜と、蜜の種類は豊富だぜ。おっと、俺の蜜は使わないよ?
『下品なことを口走らないでください。殺したくなります』
解説さんの声に怒気が籠ってるし、そろそろおふざけは止めとこう。
十分な量の蜜を集めると、それを手当たり次第に近くの木に塗りたくった。
人間の状態だと、木登りが楽でいいわ。
小学生時代、サルサルの実の猿人間と言われた俺の木登り術を舐めるなよ。
神樹の森に生えている木は、どれもこれも樹齢数百年を越す大木だが、今の俺ならやすやすと登れる。
蜜はもう塗った。後は虫けらどもが誘い出されてくるのを気配を殺して待つだけだ。
お、早速1匹かかってるじゃん。
んじゃ、狩るか。
カブトムシをそのまま大きくしたようなそいつの頭を持ってきたウォーハンマーでかち割って一撃で倒す。
そしてすかさずステータス閲覧!
あ、駄目だこいつ。レベル俺よりも低い。
次だ、次!
………で、1週間もかかったが、なんとかやり遂げてみせた。
俺の目の前には昆虫型魔物の屍の山がある。
その内10体はマナちゃんさんに言われた俺以上のレベルの魔物だ。
苦労したが、やり遂げたぞ。
後は死体を持って帰るだけだ。
マナちゃんさんにも誉めてもらえるだろうな。
『……結構なレベルアップと経験値も貯まりましたが、まだ気づいていないのですね。それとも、もう興味がないのですか?』
解説さんが小声でなにか言ってたが、なにも聞こえなかったぜ。
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