14 ドラゴン狩り?そんなことより食欲だ! 前編
我輩は転生者である。名前はナナ。
と、現在は犬の俺が有名なとある猫の話風に切り出してみた。
と言っても、大した話じゃない。最近になって、悩みが出来ただけだ。
その悩みとは、俺には味覚が無いことだ。
だってさ、どんなに旨そうな豪華な飯を出されても、この体では匂いと食感しか楽しめないじゃないか。
犬は……まあオオカミなんだけど犬でいいか。
犬って旨味以外の味は感じられたと思うんだけど……。
なにげにイオン濃度を感じ取り、水の味すら区別できるいい味覚をしてる。ただし、塩味には鈍感とする。
そんな犬の体になってるのに、どうして味覚が無いんだろ。
夢の中だからか。それとも、このハクギンオオカミっていう魔物がそういう味覚をしてるのかだ。
解説さんはどう思う?
『通常のハクギンオオカミは「甘味」「酸味」「苦味」「塩味」を感じることができますが、味音痴のあなたには無理です。そもそも、この体は戦闘向けに創造されているので、必要ない機能はオミットされていますから』
味覚が無いのは味音痴関係なくね?
あと、俺は結構グルメな方だし、俺の聞き間違えじゃなければこの体は味覚がオミットされてるって言ったな。
『いいました。それがなにか?』
じゃあ進化の時と同じで、体を作り替えればいいんじゃない。
『そうですか。それは良かったですね』
経験値貯めればどうにかなるかな?
『戦闘向けの体がより戦闘向けになるだけかと』
「ナナちゃんいる?! いた!ナナちゃん!」
考える俺たちの横で、マナちゃんさんが思いっきり玄関口を開けて家の中に駆け込んできたかと思うと、俺に外出用の首輪を着けて引きずるようにお外に出された。
なんだいマナちゃんさん?お仕事かい?
「今日はドラゴン倒しにいくよ!ハルカも一緒にね!」
『マナさんならともかく、あなたにはまだ早すぎる話ですね。彼女も性急な方です』
因みに、ドラゴンの平均的な強さはどれ程なの?
『あなたの現在のステータス全項目とダブルスコアの差があります』
よーし、ボク帰る。
自宅に足を向けて帰ろうとする俺を、マナちゃんさんは容赦なく引っ張る。
ちょ、やめ、やーめーろーよー!
首輪直接引っ張るの止めてくださいよー。
「あ、ごめんね」
念話でそう伝えたらパッと話してくれたけど、首が痛い。
丁度寝違えた感じの痛みだ。
で、ドラゴンってのは?
「あ、例のドラゴンは最近になって神樹の森で確認された火属性のドラゴンなんだよ。
それで、私に連絡が来たんだ。」
ドラゴンなんて俺には早すぎるて思うんですが。
「うーん。そうなんだけど、ハルカがナナちゃんの強さを見たいって言って聞かないの。私が守ってあげる。だから、ちょっと戦うフリだけしてくれれば良いから、来て」
俺怖いよー。ママー!
『諦めなさい』
解説さん今日も絶好調じゃん。
「ほら行くよ!」
四面楚歌になった俺は大人しくマナちゃんさんに引き摺られる
あーれー。
「ドラゴン退治だぜ!ワン公!!」
「ナナちゃんだよ」
で、ハルカさんと合流して、ドラゴンが住むという洞窟に来たわけですが、この洞窟俺とマナちゃんさんが会った場所だ。
「ここは懐かしい……言うほど懐かしくないや」
即否定芸を身につけたマナちゃんさんをスルーして、ドラゴンの気配を探る。
解説さんも協力して!
『あなたに従うのは癪ですが、了解しました』
素直じゃないね!ツンデレか?
『速やかに死んでください』
直ぐツンツンじゃんこの人。
「じゃ、ドラゴンを呼ぶよ」
マナちゃんさんが内に秘めた魔力を解放している。
なんでそんなことをするんだ?
『ドラゴンは魔力を食料にします。強力な魔力を感知すれば、必ずその相手を襲う習性があります』
強い魔力の持ち主ほど襲われやすいってことか。
強い相手を狙って襲うとか、野性動物としてダメだし、ドラゴンは相手よりも、もっと強くないとダメじゃん。
『その通り。ですからドラゴンは強い個体しか生き残れません』
死んでんじゃねーか。ダメじゃねーか。
「来たよ!ナナちゃん!」
「俺の眠りを妨げるのは誰だ」
寝起きらしいドラゴンさんがのっそのっそと洞窟から出てきた。
大きさは7メートル程。色は赤い。
こいつ警戒心が全くと言っていい程無いな。
ドラゴンはあらゆる創作で強いもの、恐ろしいもの、最強クラスのモンスターとして描かれているし、こいつも超強いのかも。
解説さん。ステータスを頼むわ。
名前/ヘルファイアー
種族/エレメント・ドラゴン
性別/♀
年齢/665
体力/2055/2055
パワー/954/954
スピード/655/655
タフネス/120/1200
魔力/2069/2069
経験値/4000
レベル/69/100
スキル
ドラゴンファイア レベル50(MAX)
解説
長く生きた属性竜。火属性のブレスは全てを灰にする火力がある。
めっちゃ強いやん。
ハルカさんがマナちゃんさんを親指で指差す。
「こいつだぜ」
「私だよ!」
ドラゴンはマナちゃんさんを見て、寝起きの不機嫌丸出しな表情から、良いエサを見つけたぜといった顔になった。
「小娘。己から食われに来たか」
「全然違うよ。私はあなたを追い出しに来たの」
その言葉を聞いた途端、ドラゴンが大笑いする。
森の木々が揺れる大音響が響く。
「ワハハハハハハ!!貴様程度の魔力の持ち主など、いくらでも食ろうて来たわ!小娘があまり俺を舐めるなよ!ハハハハハハ!!」
「ううん。倒すのはこっちのワンちゃんだよ?」
「ハハハハハハ!!……は?」
今気づきましたなんて目で俺を見るなよ。泣くぞ?
「この小さな毛玉畜生が俺を倒すだと?!」
「うん。そうだよ」
聞きようによっては挑発のように聞こえる台詞を連発するマナちゃんさんだが、戦うのは俺なんだよな?ホントに俺なのか?
マナちゃんさんは俺を置いて安全な距離まで下がっている。
あれ?ホントに俺1人でやる系なやつ?
『そうですよ?今さらですか?』
「頑張んなよ、犬!!」
「頑張ってね!ナナちゃん!」
1人と2人と声援を背中に、俺はこのドラゴンと正面から向き合わざるを得なくなった。
……マジかよ。




