13 コロシアム観戦します 後編
で、モヒ・カーンの試合も終わり、続く第4試合。
剣闘士たちが実剣でガチの殺しあいをするコロシアム本来の試合だ。
「これからが本当の地獄だよ」
これから起きる血で血を洗う激しい闘いの予感に、マナちゃんさんの顔つきも引き締まってる。
俺としては、ガチの殺しあいなんて見たくないような、でもちょっと怖いもの見たさで見たいような気がする。
神樹の森では魔物を殺していたが、あれは動物、魔獣の類いだから平気だっただけだ。
人が死ぬのはあまり見たくない。いい気もしない。
『夢の中であれば、何が起きても平気なのでは?』
そういう問題じゃないんだよ解説さん。
俺が、気分悪くなるって話なの!
『さようですか』
「あ、ほら、始まった」
俺を撫でるマナちゃんさんから闘技場に視線を移せば、剣闘士同士の激しい斬り合いが繰り広げられ、火花を散らす度に観客席からはワッと歓声が上がる。
中には興奮で立ち上がっている者もいる。
片方が足を切られた。見たところ傷は浅いし、闘争心はまだ失せていないようだ。むしろ、痛みと血で闘志をかき立てられている。
切られた方の男の動きがもっと素早く、激しくなった。
観客のボルテージもどんどん上がっている。
マナちゃんさんも声には出さないが、俺を撫でるその手にじんわりと汗が滲んでいる。
どっちも死なない程度に頑張れ!
心のなかで両選手にエールを飛ばすが、届くかどうか。
そして決着が着いた。
勝ったのは無傷の方の男だ。
対して、足を切られた男は全身から血を流し、膝をついている。
死んではいないが、戦えないだろう。
ここに来て、今の今まで空気だった審判が仕事をした。
ここからでは歓声で何を言ってたのかは聞こえなかったが、とにかく、この試合は終わった。
負傷者が運ばれ、選手が退場する。
続く第5試合はチャンピオンとチャレンジャーの試合だ。
緑髪の女戦士が闘技場に姿を見せる。
すると、それだけで観客のテンションが最高潮に上り詰めた。
鼓膜が破れそうに痛い程うるさい。
『そのまま破れてしまうと私も困るのでなんとかしてください』
はいはい。耳を前足で塞ぐと少しましになった。
まあ、入場のアナウンスは一切聞こえなかったけどね。
「あの子が私の親友のハルカだよ。私と同い年だけど、凄く強いんだ」
名前はハルカさんって言うのね。
解説さん。ステータスを見せて。
名前/ハルカ・R・ウォーリアー
種族/人間
性別/女
年齢/15
職業/戦士
体力/4801/4801
パワー/4061/4061
スピード/605/605
タフネス/6400/6400
魔力/20/20
経験値/5690
レベル/41/100
スキル
重戦士 レベル55
超怪力 レベル60
闘魂 レベル45
解説
パワーとタフネス係に経験値を全振りした超パワーファイター。
その肉体強度はドラゴンに匹敵し、怪力スキルが進化した超怪力は山すら持ち上げて動かすことが出来る。
解説の説明がヤバすぎる。
この、ステータス4桁超えが3つもあるハルカさんの強さをようやく見られる訳だ。
スキルの方も重戦士と怪力ってのが強すぎる。
『お相手が死なないことを祈りましょう』
そうだね。
試合の相手は、目測で身長が4メートル以上はありそうな巨人だ。
顔は鬼のようにゴツく、口からは牙が覗いている。
はっきり言って結構怖い。
あれって人間なのか?
『いいえ、あれは巨人族のようですね。亜人の一種で、とても平和好きな温厚な種族で、人間とも平和的に共存している種族です』
あんなに強そうなで怖い見た目してるのにね。ホントに人は見た目によらない。
あ、巨人か。
でも、温厚ならなんでここに来たんだろ?こんな血生臭いところに。
巨人は持っている棍棒を地面に叩きつけて、叫んだ。
「このヴォーギン様に敵う人間などいない!!人間の小娘など胴体引きちぎって腹の足しにしてくれるわ!」
随分と暴力的なことを言っているから訂正する。
こいつは見た目通りの乱暴者だった。
解説さん?どういうこと?巨人は平和的で温厚じゃなかったの?
『………どうやら、彼は変わり者のようですね。殺人や強盗などの犯罪歴も豊富にあります。根っからのクズです』
そうなんだ。まあ、そういう奴もいるだろうね。
宇宙を守ってる警備隊の光の巨人にだって犯罪者は一人いたわけだし。
対するハルカさんは、この恫喝にも眉ひとつ動かさず、ビクともしない。
まるで動じていない。
「いいから黙ってかかってきなよ。デクノボーが」
ハルカさんが相手を軽く挑発した。
相手の巨人の額に青筋が浮かんでいるのが見える。
こんな軽い挑発でどうしてこんなにキレてるんだ?
俺の疑問を察したのか、マナちゃんさんが解説してくれた。
「巨人族の人にはね、木偶の坊は絶対に言ってはいけない禁句の1つなんだよ」
ああ、だからか。
試合開始の合図が鳴ったと同時に巨人の男が踊りでた。
デカイ割にはかなり速い。今の俺と同じくらいの速さだ。
具体的にはプロ野球選手が投げる豪速球くらい速い。
そのまま4メートルの怪力巨体が棍棒を大上段から思いっきり棍棒をハルカさんの頭を叩き潰さん勢いで振り下ろした。
次の瞬間、爆発染みた轟音が轟き、闘技場全体を覆い隠すほどの土煙が上がった。
今の一撃で勝負は決したかと思われた。
客席からはハルカさんの身を心配する声が上がっている。
『まだ終わっていませんね』
解説さんが一足先に俺にネタバレしてくる。
やめてよ!「やったか?」→「やってない」の緊張感を味あわせてよ!
煙が晴れるとそこには、俺たちの予想通り、無傷のまま突っ立っているハルカさんの姿が!
ステータスの体力は1ミリも減っていない。
しかも、全然余裕ですよアピールのつもりなのか、あくびまでしているではないか。
「……何故だ」
巨人が呟く声で言ったのを、俺の耳は聞き逃さなかった。
確かに、お前の棍棒はハルカさんの頭に直撃した。
でもな、ハルカさんの防御力がお前の攻撃力を遥かに超えていたんだよ。ハルカだけに。
『死んでください』
俺は永遠に生きるぞ。
無傷のハルカさんが一歩足を踏み出した。
相手への称賛の言葉と共に。
「あたしに痛みを感じさせた相手は久しぶりだよ。せめてもの褒美だ。一撃で葬ってやろう」
巨人が再び棍棒を振り下ろした。
ハルカさんはそれを片手で受け止める。
地面がひび割れて陥没し、小さなクレーターが出来るがハルカさんのステータスは先程同様にたった1の変動もない。
強すぎない?要塞かよ。
『彼女のような重戦士の目指す理想は、まさしく要塞の強さなのですよ』
じゃあ、ハルカさんはその理想に届いてるってことか。
ハルカさんは、壁際に追い詰められた巨人に向け、一歩一歩近づきながら、拳を振り抜こうとしている。
「あたしの拳を―――」
「待て!降さ……」
「味わいなッッッッ!!!」
ドンッッッッ!!!と土煙と共に、歓声をかき消すほどの破裂音が鳴り響いた。
煙が晴れて見えるようになると、巨人の横の壁に、そいつの倍以上の大きさの大穴が開いていた。
ハルカさんが拳1つで開けた穴だろうな。
巨人はその横で白目を剥いて気絶している。
死んではいないよね?
『ええ、彼女を恐れるあまり、恐怖で気絶したようです。意外と肝の小さい男ですね』
あれは誰だって怖いよ。仕方ない。
「キャーーー!!今の見た!見たよねナナちゃん!あれがハルカだよ!強いでしょ?!強いよね!?」
マナちゃんさんが興奮して、俺の耳元で声の限り叫んでいる。
鼓膜破れそう。
とりあえず返事はしておこう。
「ワン!!(強すぎですよ!!)」
マナちゃんさんは俺の言葉が通じてるのか、激しく同意してくる。
「そうでしょ!そうでしょ!!強すぎるくらい強いよね!」
あなたもでしょと突っ込むべきかしら?
『突っ込むとはイヤらしいですね。流石は匂いフェチの変態です』
エロネタに走る解説さんの頭の方がイヤらしいわ!!




