10 狩人VS俺とあの人 後編
キュートな魔女の三角帽子、フード付きの白いローブ、桃色の髪の毛と帽子の隙間からはハートマークのかわいいアホ毛が覗く。
間違い。この人はマナちゃんさん!マナちゃんさんじゃないか!
彼女はまた俺を助けてくれた、俺のヒーローだ!
『落ち着いてください。殺されますよ?』
あっ、はい。
勝手に興奮した後、一旦クールダウンした俺の目の前で、マナちゃんさんとオーガスタが話をしている。
「嬢ちゃん。どうしてそいつを庇うんだ?いや、待て、そもそもどっから入ってきたんだ?出入口は防いだ筈だろ」
「私は以前、この子にマーキングを付けておいたんです。この子がピンチになったらいつでも空間移動で駆けつけられるように。それと、魔物とはいえ無害なワンコを虐める人が許せないだけです」
マーキングってどこら辺に付けられてたの?全く気がつかなかった。
俺はいつでもマナちゃんさんに見守って貰えてたってことかな?
『ええ、その認識で正解だと思われます。しかし、私もマーキングは全く分かりませんでした。本当に彼女には驚かされます』
解説さんまで唸らせるマナちゃんさん脅威の魔法だな。
『マーキングは魔術ですよ。まあ、あなたでは区別出来ませんか』
訂正、脅威の魔術。
あと、マナちゃんさんは犬派だったのか……(※ナナは猫派です)。
俺としては猫の方がかわいいと思うけどなあ。
『どちらがかわいいかはそれは人それぞれですよ。それと、私は彼女とは気が合いそうです』
解説さんがやけには嬉しそうな声で言う。
てか解説さんも犬派なのか。初めて聞いたわそんなの。
『聞かれませんでしたからね』
俺と解説さんが雑談に興じてる間にも、マナちゃんさんとオーガスタの問答は続く。
「いいか魔法使いの嬢ちゃん。魔物ってのは人を襲う上に強い厄介な害獣なんだ。俺は人々のためにこのハクギンオオカミを狩ろうとしてるんだぜ?
人の仕事を邪魔するもんじゃねえよ」
オーガスタが最もなことを言ってるよ……。
確かにRPGの魔物やモンスターなんてのは、いつも人類の敵として描かれている。
魔物である今の俺は、彼らからすれば敵でしかないのだろう。
俺の心は人間だとかは……関係ないだろうね。
この狩人が言ってることが人類の総意ならば、マナちゃんさんみたいに助けてくれる人の方が少数派なのは一目瞭然だ。
対するマナちゃんさんは動揺した様子もなく、毅然と言い返す。
「なら私も言いますけど、ハクギンオオカミは大人しくて賢い魔物です。調教すればペットや使い魔として人と共存できるし、少なくとも、この神樹の森は魔物の指定保護区域ですよ。
この洞窟周辺は特に
あなたこそ、なぜ頑なにこの子を狩ろうとしてるんですか?第一、狩猟許可証はあるんですか?」
解説さん、狩猟許可証ってなに?
『解説します。狩猟許可証とは、王国がこの指定した狩猟禁止区域で狩猟をする際、狩人に発行される許可証のことです。これが所持していなければ全ての狩猟は違法となり重罪で罰せられます。あなたのような若いハクギンオオカミの毛皮は商人や貴族に高く売れるので、密漁者によく狙われます。
恐らく毛皮の密売が目的でしょう』
やっぱりこいつ、俺の白くて染み1つ無い美しい体(毛皮)が目当てなのね!
やめて!俺に乱暴する気でしょ!エロ○人みたいに!!
『果てしなく気持ち悪いです。吐き気がしますよ』
え、酷くない?
俺と解説さんがコントを繰り広げている間に、マナちゃんさんとオーガスタの話は続いた。
「狩猟許可証を見せてください!」
「嬢ちゃんに見せる必要がねえだろ」
「いいえ、あります!私がこの森の自然保護官だからです!さあ、見せてください!」
自然保護官というワードを聞いて、オーガスタが小さく舌打ちをするのが俺のオオカミイヤーが捉えた。
明らかに「マズイことになった」っていう顔もしてる。
あ、そうか。解説さんが言った通り、こいつ、密漁者なんだ。
「ああ、見せてやる。ちょっとこっち来い」
懐を探るオーガスタに、マナちゃんさんが無警戒に近づいている。
『マズイですね』
え、なにが?
『あなたの頭はどれだけ鈍くさいんですか!オーガスタは彼女を不意討ちする気ですよ!早く!走って!』
オーガスタがニタニタとおぞましいほど汚い顔で笑う。
懐から出されたその手には、青く光る魔力の弾丸が。
「………………え?」
事態が飲み込めず、ポカンとした顔で立ち尽くすマナ。
俺はその前に割りこもうと、痛む体に全力で肉体強化を掛けて走る。
間、に、合、えぇええええ!!!
スローモーションのように時間が遅く感じる。
オーガスタが未だに棒立ちのマナちゃんさん向けて、非常にも0距離で魔力光線を撃ち出した。
青い極太の光線がマナちゃんさんの全身を飲みこむ。
俺は、間に合わなかった。
そんな、マナちゃんが、殺された……。
「はははは!嬢ちゃんみたいな小娘が自然保護官なんてやってるから悪いおじちゃんに殺されちまうんだぜ!」
クソ野郎が!!
次は俺の番だろうが、そんなことは関係無い。
傷だらけの体に鞭打って、あらんかぎりの力でオーガスタを噛み殺そうと走る。
「まあ、死に急ぐなよ犬っころ。後でじっくり相手してやるからさ」
「キャイン!」
が、呆気なく腕一振りで叩き落とされた。
クソ野郎!クソ野郎!!クソ野郎が!!!
『大丈夫ですよ。あなたの判断が間に合ったところで、結果は変わりませんでしたから』
慰めてるのか、貶してるのかよく分からない解説さんの言葉も聞こえなかった。
今はこのクズを殺す方が先だ。
その俺を後ろから優しく抱き上げる人がいた。
その人は、
「まあ、こういう人もいるからね。対策はちゃんとしておいて良かった」
無傷のマナちゃんさんだった。
「東の国の言葉では「備蓄があれば憂いなし」って言ってるね」
オーガスタも俺も口をパクパクさせて唖然とする。
どう見てもさっきの攻撃を受けて、生きてるとは思えなかったからだ。
解説さんが理由を説明してくれた。
『先程の攻撃を受ける瞬間、彼女の体表に強力な魔力のバリアを感知しました。恐らく、敵の攻撃に対して自動で発動する防御魔法だと思われます』
思われますって、正確には言えないの?
『自動で攻撃を防ぐ魔法は存在しません。恐らく、彼女が自作したオリジナルの術かと思われます』
魔法の自作!
マナちゃんさんってすげえ!
流石100年に1人の天才。
「お、お嬢ちゃん、なんで、生きて……」
「全自動防御魔法です。攻撃を受けると自動でガードしてくれるいい子なんですよ」
解説さんの推測通りの答えだ。
「では、あなたを逮捕します」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は雇われただけなんだ!」
「言い訳なら衛兵に言ってください」
「くっそおおおお!!」
あ、逃げようとしてる。でも出口は自分で防いでたから逃げられないみたいだ。
バカだろあいつ。
『全くです。誰かさんといい勝負ですね。そう思いませんか?』
俺、渾身のスルーを決めた。
マナちゃんさんがオーガスタの足と腕に魔力の縄をかけてる。
金色に光ってる縄は、まるで真実の縄みたいだな。
あえなくオーガスタは御用となり、駆けつけた衛兵隊に連れていかれた。
マナちゃんさんが初めから通報していたから迅速に動けたらしい。用意周到だな。
俺を助けるためにこんな手回しまでしてくれたことは素直に嬉しい。
全て片付き、マナちゃんさんは俺をモフりながら話しかけてくる。
「じゃあね、ワンちゃん。もっと大きくなるんだよ」
去ろうとするマナちゃんさんの袖に俺は甘噛みしてすがる。
帰らせんぞ!まだ大事な用事が残ってる!
「あれ、どうしたの?」
マナちゃんさん!
俺を、使い魔にしてください!!
「ワン!ワン!!ワン!!!(使い魔にしてください!お願いします!)」
「うーん、困ったな。どうしたら離してくれるの?」
「ワン!ワン!(使い魔に!してください!)」
「お腹減ったの?食べ物は持ってないの、ごめんね」
「ワン!(違います!)」
畜生!言葉が通じねえ!
『私が念話で話しましょうか?』
そんなことできるの!?早く言ってよ!!
『聞かれなかったので』
相変わらずアイスクリームのように冷たい。
でも甘くはない。むしろ劇辛カレーだ。
解説さんが黙りこくってマナちゃんさんに電波を送ってるし、黙っとこ。
「え!君、使い魔になりたいの!?」
かなり驚かれた。珍しいのかな?
「……強さはまあ、うん、これから鍛えればいいか。
毎日モフモフできるなら……食費とかは、うん、大丈夫」
真剣な顔でなにか呟いてるマナちゃんさん。
かなり本気で考えてるようだ。
俺氏、無事に使い魔面接を通れるか!?
マナちゃんさんは笑顔で言った。
「うん、いいよ!今日から私の使い魔になってよ!」
よっしゃあ!!
拳は握れないから、代わりに心の中でガッツポーズした。




