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「父上は、理想が高いみたいに言っていたが」




 ユージーン王子がダーマッドにお姫様抱っこされてるわたくしを引き留めた。



「その美しさにもたしかにときめいたが、剣を奮う君の強さに惚れたんだ。妻とするなら心の強いまっすぐな女性がいい」


 わたくしに手を差し出したがダーマッドが後ずさった。ユージーンは気にせず続ける。



「父上に嫌われてると思い込んでいた私にそんなはずがない、と君が言ってくれてなければ父上が現れた途端に私は逃げてしまってただろう。父上と和解できたのは君のおかげだ。心から感謝するよ、愛らしいグィネヴィア」


「堂々と夫の目の前で妻を口説かないでください」


 はは、と笑うとユージーンは晴れやかな笑顔でしかめ面の清楚な美女の肩をぽんと叩いた。


「その姿で言われると母上に叱られている気分になるな。じゃあ、また王宮で会おうグィネヴィア、ダーマッド」


 そう言ってジェラルドと一緒に父王の乗る馬車へ駆け込んだ。やっぱり笑顔の素敵な王子だ。笑顔の眩さは父親譲りなのかも。


 あれ?今何気に剣を持ってたことばらされた?ダーマッドを見ると特に気に留めてなさそうなので、うん、多分大丈夫。ばれてないばれてない。




 わたくしとダーマッドは屋敷の主人の用意した馬車へ乗り込む。馭者がディアンヌと抱えられたわたくしを頬を染めて不思議そうに見たあと触らぬアレだな、といった顔で馬車を出した。





 馬車が走り出すなりわたくしの唇が塞がれる。



 ダーマッドの熱い舌がわたくしの深いところまで何度も探ってくる。


「ん……んん……っ」


 いつも以上に苛烈なキス攻撃に息が苦しくなり背中をぽんぽんと叩く。名残惜しそうにちゅっちゅっと唇を啄むように吸うとやっと放してくれた。


「グィネヴィア……もう、外に出たら駄目……」


 潤んだ瞳のダーマッドが拗ねたように一瞬頬をぷくっと膨らませた。か、可愛い……


 きゃぁぁぁぁ!もしかして束縛ですか?独占欲ですか?ダーマッドが?やだごめん嬉しい……!!



「どうして嬉しそうにしてるの?私は怒ってるんだけど」


 またも猛烈な、キス。


「ダーマッ……ん、苦し……あっ」


 ダーマッドの手が服の中に入ってくる。マントの下の、ユージーンが用意してくれた緩い部屋着はするすると白い滑らかな手を受け入れた。



 敏感なところをダーマッドの器用な手が、指が優しく蹂躙する。


 そ、そんなところ、寝室でもないのに、恥ずかし……


「あ……や、やめ、ダーマッド……んん……」



「コルセット、どうして脱いでるの?ユージーンと何があったの?私とよく似たユージーン王子は、グィネヴィアの好みなんでしょう?」


 ひぃぃ、清楚な美人の凄みのある上目遣い、痺れる……。




「部屋に戻ったらベッドで詳しく詳しく訊くから、覚悟しといてね?」















「グィネヴィア、加減はどうじゃ?薬湯を持ってきたから飲むがよい。湿布も作ったのじゃ。痣の治りがはやくなる。貼ってやろうな」


 タマル女帝がベッドに寝込むわたくしを、アリーやハーラと一緒に甲斐甲斐しく世話してくれる。


 ダーマッドはアリーに睨まれて部屋から締め出されていた。多分ジェラルドのところに行っているはずだ。



「……底なし体力のお色気爆弾旦那を持つと大変じゃな。いい男じゃがやはりあれは要らぬ」


 うん?タマル女帝、なにか呟いたかしら?アリーがくすくすと笑っている。




「タマル様は結局、武器の横流しの捜査にいらしてたのですね?」


「そうじゃな、量も半端なければ汚職している輩もなかなか割り出せなくてな。その中でこの国の美形の王子が隣国に匿われていると聞き付けて捜査と興味本位で探しに参ったのじゃ。その時はまだジェラルドはそなたと婚約中であったな」


 そんなに前からうちの国に来ていたのか。道理で屋敷やら装備やら充実していたはずだ。


「ここの宰相を釣ろうとした妾の策のせいでグィネヴィアとジェラルドを破談させてしまって申し訳なく思っておったのじゃ。噂に名高い才色兼備の姫を一介の貴族に降嫁させるなどなんともったいないことじゃと」


「それでわたくしを拐ったのですか?」


 こくりと頷くと女帝は笑った。


「そなたのジェラルドへの態度を直に見て、なんじゃ、愛し合っている者を引き裂いたのかと案じておったのが、ふふ、気が抜けたわ。それで拐われたそなたを有り得ぬ速さで追ってきた夫となるダーマッドに興味が湧いたのじゃ。ほんにいちいち反応が可愛いくてのう……悪ふざけが過ぎたことは謝る」


「ジェラルドは、わたくしを拐う前、わたくしと破談したあとはもしかしてガラン侯爵領にいたのですか?」



 ずっと抱えていた疑念を吐いてみる。女帝は目を瞠るとまたもふふ、と愉しそうだ。


「たまにはこちらに帰っておったがな。まあ大体、そうじゃな。何故そう思った?」


「わたくしを拐ったとき、部屋へ侵入出来たのはガラン侯爵夫人の手引きがあったからだと」



 二度に渡る王宮への侵入。内部の手引きがなければ絶対に不可能だ。前からそう思っていたがダーマッドのあの実力を目の当たりにした今では心からそう思う。


 わたくしを守ろうとするダーマッドの、鉄壁の警護を掻い潜れるのは彼を良く知る者だけだ。




「ジェラルド保護の件はわたくしの両親のみが知っていたはず。しかしジェラルドを可愛いがっていたという夫人もそのことをご存知で協力していたのでは?侯爵夫人は近頃いつも領地に引きこもっておりましたし」


「あー、もう。困ったのう。グィネヴィアをわが帝国に連れ帰りたくてたまらん。なんと可愛いのじゃ」



 へっ?今可愛いことなんて欠片も言ってませんが。でれでれの女帝の笑顔にダーマッドがこの人たちには素で反抗してるのが、なんかわかる。


「おやめくださいね?陛下。ダーマッド様が帝国を滅ぼしにやってきますよ?」


 帝国の侍女ハーラが笑顔で女帝を諌める。




「最初は、侯爵夫人も王女の立場に同情して侯爵に内緒でジェラルドに協力しておるのかと。今思えばあれじゃな、ヘタレ息子の尻を叩かされたのじゃな。食えん夫人じゃ。蓋を開けてみればそなたのところの王宮では全員が次期将軍と王女の恋を応援しておったのじゃから」


 は?


 アリーを見ると最高ににまにまとしたのを抑えようとして、失敗していた。



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