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「ダーマッド殿はもう私の父には会っているはずだよな?」


 ユージーン王子がディアンヌの姿のままのダーマッドの顔をじっと覗き込む。




 ジャスティン王子の件はゾエ将軍が捜査を引き継ぐと青揃隊と出ていった。王族が関わるため憲兵には任せられないとのこと。


 わたくしも内容を詳しくは聞いてないが武器の不正取引らしい。アーリヤ帝国が絡んでるらしく、そういえばタマル女帝の姿を今日は見ていない。




 二人の王子とわたくしたちは、離れはめちゃくちゃになっているので本邸の方へ移動してサロンを使わせてもらっている。



「はい、国王陛下にはこちらに着いてすぐご挨拶に伺ってます」


「そうか、父から何か……言われてないか?」



 ユージーン王子がダーマッドにすごい近い。ダーマッドと並ぶと物凄いわたくし的眼福なのですけど。


 ダーマッドは何故か不機嫌だ。女装のことでまだ拗ねているのだろうか?




 国王陛下はダーマッドを、可愛いとか綺麗とかベタ褒めだったなぁ。男の姿だったのにそういえば不思議だ。わたくしも同じ事を思っていたのでスルーしたが、男を褒める言葉ではないよね。


 ずっと見つめてた。今のユージーンのように。



 あれ、またダーマッド男に惚れられてる?


 わたくしの表情にはっとして違う!とユージーンは頭を振った。




「ジェラルドは、あんまり覚えてないか?ダーマッド殿は母上に似てる」


 話を振られた弟が今度はダーマッドをじっと見つめる。


「うん、覚えてない。似てるかなぁ?顔立ちが違うと思うけど。母上だったらユージーンがそっくりって子供の頃よく言われてたよねぇ?」


「雰囲気、かな?ほら、優しそうな、ふんわりした感じが。ほっぺが柔らかそうな」


 それはユージーン王子、あなたもそうですけど。


「母上はわからないけど、こうして並ぶとユージーンには似てるかも。雰囲気が。うん、兄妹に見えるかな。グィネヴィアもそう思わない?」


「そうね」


 はい、それはもうめちゃくちゃ思ってますわ。ジェラルドよりもダーマッドが兄弟と言われた方がしっくりくる。


「ダーマッドよりさ、ユージーンは父上に何年会ってないの?」


「いいんだ。父上は私をお厭いだ」


「えっ、それはないと思いますけど」




 ユージーンが不思議そうにわたくしを見る。


「ユージーン様に似たダーマッドをそれは愛しそうに抱き締めてたもの。きっとユージーン様のお姿を重ねてらしたのですわ」


「それは……私ではなくて母上の姿を重ねてたのだと……」


 ユージーンが考え込むように押し黙った。顔がほんのりと赤い。動揺が見てとれる。




 ダーマッドがよりむすっとした。むすっとしても可愛いとか。わたくしの肩をぎゅっと抱き寄せる。どうしたのかしら?




「似てても不思議はないけどね。ダーマッドと僕たちは親戚だし」


 へっ?三人ともジェラルドに注目した。ジェラルドが驚く。


「は、親戚?」


 ダーマッドは知らないらしい。ユージーン王子も驚いている。


「え、逆になんで知らないの?僕、グィネヴィアとお見合いしに行ったときすぐに聞かされたよ?ガラン侯爵夫人に。実は親戚なんですよ、て。だから夫人には可愛がってもらってるもん」



 ダーマッドとジェラルドたちの母は三従姉妹、それぞれ母方を辿ると同じ高祖母に行き着くらしい。様々な国や爵位のもとに嫁いだから女性たちの縁戚はどこの家系図ファミリーツリーにも繋がりが記されていないのだろう。そういう意味では貴族間で縁者はわりと多い。わざわざ調べない限りはわからないことだが。



「そういえばダーマッドってガラン侯爵夫妻に似てないね」


「たしか……母の伯母さんにそっくりって言われたような」


「よくある言い訳みたいだ。まさかうちの母上の隠し子とか……実は兄弟とか」


 ぺしん、とユージーンがジェラルドの頭を叩いた。でもとても優しい叩きかただ。


「黙れジェラルド。あるわけないだろう。父上と母上は恋愛結婚だ。それで母上が……」



 ユージーンは唇を噛み締めるとジェラルドの方を見た。ジェラルドたちのお母様、どうされたのかしら。






「……お前はまだ頑なに王位を蹴っているのか?」



「蹴ってるってゆーかユージーンがいちばん最適だよ。僕は王の資質じゃない。顔は父上そっくりの超絶美形だけどさ」


 相変わらずふざけてみせている。ジェラルドはこの話題が嫌らしい。



「破談にはなったが王妃となるにふさわしいグィネヴィアを妃に迎えようとしたのは、父上がお前を次期国王にと望んでいたからだろう」


「えっ?」


 初耳だ。



 ジェラルドがはぁ、とため息をつく。


 ダーマッドが隠すようにこの兄弟に背を向けてわたくしを膝に抱えた。大丈夫よ、もうダーマッドの妻だもの。



 わたくしは第三王子に嫁いでお気軽に過ごすのだと思っていたのだけど。


 そう言われれば、第一、第二王子がまだ妃を迎えてもいないのにジェラルドだけ早々に婚約者が決まっていたのも不思議だ。しかも隣国の王女を。


「それはもう何度も話したよユージーン。後ろ楯とかではなくて、グィネヴィアの父上のご厚意だって。僕とグィネヴィアなら綺麗な孫ができるって喜んでたもん」


 どうしてお父様はジェラルドをわたくしの婚約者にしたのかしら?両親はジェラルドをとても可愛がっていた。



「違う。父上が、将来王位を継ぐお前のことを守ってほしいとお願いしたからだ」


「たしかに守ってくれとは言ったがジェラルドに王位を継がせるつもりはないぞユージーン」



 全員が一斉に入口を見る。



 太陽神のように神々しい国王が笑顔で立っていた。








最終話まで、残すところ三話です。

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