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「う……うん……」


 暗い部屋の中。ランプの心許ない光が揺れる。



 へ?ここはどこ?一応ベッドに寝かされている。


 剥き出しの石壁。微かにカビ臭い……。





 えーと、そうだわ。ヘケザ侯爵の夜会に来たのだわ。




 ディアンヌとジェラルドが踊るのに見惚れていた。一曲踊り終えると、恐らくジェラルドの予想通りなのだろう、ジャスティン王子がディアンヌをダンスに誘っていた。


 ディアンヌの美しい白い手がジャスティン王子に取られるのに何故か腹が立つ。何故かじゃない、どうしてタマル女帝もジェラルドもあのような儚げな麗しのご令嬢に当て馬をさせるのか。



 踊り終えるとジャスティン王子はディアンヌの手を取ってバルコニーへと誘った。


 ジェラルドとゾエ将軍は他のご令嬢方に囲まれていた。


 わたくしも殿方に囲まれていたがダーマッドという麗しい夫がいることはすでに知られているし美貌の王子ジェラルドと一緒に来ているわたくしを口説くような猛者はいない。ぽけーと見つめてもじもじしながら美しさを誉めてくれるだけだ。


 彼らを簡単にあしらってバルコニーへとディアンヌを追いかける。彼女が危険だ。


 バルコニーへ出てもディアンヌとジャスティン王子の姿はなかった。


 あわてて辺りを見回した。大きな柱の影からぽん、と背中を押される……








 落下するような感覚が残っている。上を見上げると天井は交差したアーチになっている。縦穴などはない。落ちたあとに運び込まれたのだろう。


 計画的ではないようで、閉じられた部屋ではなく大きな地下空間の片隅のようだ。


 わたくしをとりあえず慌てて隠したような様子?逃げようが気にしないのか。



 ベッドがこんなところにあるのは異様だ。秘密の恋人が使うような淫靡な雰囲気がする。実際そういう場所なのだろう。


 微かな、連続した水の滴る音がする。壁のニッチからランプを取って音の方へ進む。あれ、ランプを置いてるなんて親切過ぎないか?


 幾つかの細いアーチをくぐると広い場所へ出た。


 水量から、現在も使われているのだろう。大きな柱が幾つも並ぶ神殿のような古代の貯水槽には中央に大きな、蛇が幾つも生えた人の頭の彫刻がある。





 コンっと小石が落ちる音に振り向く。



 しまった。荘厳な光景に油断していた。





「目が覚めたんだね。大丈夫かい?」





 ……え?





 拍子抜けするような、柔らかい声音が響く。




 荘厳な古代の遺産よりも、さらに油断してしまいそうな優しい面立ちの男性が立っていた。





 身構えもせず、その人をじっと見つめた。



「ヘケザ侯爵の屋敷にいたのだろう?落ちて来たんだよ。そのままにして置いては困ることになりそうだから連れて来たのだけど」


 良かったかな?と小首を傾げる。


 助けてくれた、ということだろうか?



 ふんわり、おっとりとした優しそうな男性。

 少し年上だろうか?きちんとした衣服を着ている。シンプルだが黒い立ち襟の上質な生地の上着。貴族か、いや……




「ユージーン王子?」


「あれ、私のことをご存知か?このような絶世の美女にお会いしたことはないはずだが」


「なんとなく。雰囲気が、骨格がジェラルドに似てますわ」


「あぁ、そうか」


 やっぱり、と嬉しそうにぱっと微笑んだ。わ……。


「こんなにも美しい人がいるのだろうかと不思議に思っていたところだよ。女神が落ちてきたのかと。君がグィネヴィア王女だね?いや、もうご結婚されたのだったか」


「はい、はじめましてユージーン様。ガラン侯爵子息ダーマッドの妻グィネヴィアにございます」


 慌ててドレスを摘まんで礼を取る。あれ、なぜ慌てたのだろう…



 ジェラルドとは全く似てない。整ってはいるがあんなに派手な顔ではない。

 頭の形や肩、肌の質感などがなんとなくジェラルドに似ているだけ。背はユージーン王子の方がずっと高い。ガチムチではないが騎士のような、立派な体格をしている。


 それよりもまろやかな笑顔と声、近くで見るとほんわりと柔らかそうな頬。



「はじめましてだね。噂に聞くよりもずっと美しい。たしか将軍家の跡取りと結婚されたとか。残念だなぁ。ジェラルドと破談したあとすぐにでも結婚を申し込むべきだった。弟に遠慮なんてせずに」


 残念そうにため息をつくと元の微笑みに戻った。


「今は君を口説いている場合ではないね。大方ジャスティンに近付いたのだろう?ずいぶんとおてんばなお姫様のようだ。でもそういうのも、いい」



 ふふ、と目を細めて笑う。は、心臓が、なんかおかしい。



 えーと……この方は酔っ払っているわけではないのよね?そうだわ、ジェラルドのようなストレートな愛情表現。やっぱり兄弟だ……。



「今はジェラルドの大切な友人なのだろう。私がきちんと送り届けるから安心してくれたまえ」


「はい。ありがとうございます」


「ここは足元が悪い。失礼するよ」



 そう言ってわたくしを軽々と抱き上げる。


 なんと洗練された動作だろう。がっしりとした男らしい逞しい胸板と腕。


 心臓が煩い。殿方にこんな風に落ち着かない気持ちになるのは初めてかもしれない。




 熱い。多分わたくしのほっぺ、真っ赤だ。



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