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 最初は挙動不審な私にも優しく話掛けてくれていたグィネヴィア王女は次第にきつく当たるようになった。


 どうやら私は貴族の令嬢方には嫌われるタイプらしい。


 王女は華奢で可憐な見た目とは違いはっきりとした性格で、陰口を好まないのかご令嬢方の悪口をいちいち嫌そうに伝えてくれた。


 自分でも地味な見た目で女性にはモテないだろうと自覚しているのだが好きな女性の口から言われるのはさすがに堪える…。


 でも伝えるためにわざわざ近くまで来てくれるのが嬉しい。





「まぁ、さすが山で育った山ザルね。すばしっこいこと!そのように剣を受け流して逃げてばかりではいつまでも相手を倒せませんわ」


「グィネヴィア王女殿下がその毒舌で斬りつけてくださるので必要ないでしょう?私ごときの剣では殿下のお役には立てそうにもありませんね」


「ほら、右脇が甘いですわダーマッド。そのように大きく剣を振るうなら利き手側には注意いたしませんと」


 騎士団の訓練場にいると王女が通りががりに何かしらちょっかいを出してくれる。

 王女のはっきりとした物言いに次第に私もずけずけと言い返すようになっていた。


 正直なところ女の子とどんな風に話して良いものか分からないので男同士でやり合うようなぞんざいなやり取りのほうが王女との会話が続いて助かる。


 何を話していてもグィネヴィア王女はとても可愛い。


 どんなにきつく罵られても会うたびにグィネヴィア王女が美しい声で私に話掛けてくれるのは嬉しかった。


 嫌味を言いながらも私のミスなどは的確に指摘してくるので王女というのはやはり物事を良く見ているものだと感心した。





 そんな美しい王女の隣に似合いの美しい王子が立つようになったのは13歳の時だ。グィネヴィア王女の婚約者ということらしい隣国の王子だ。


 いつも王女の髪を自分のモノのように弄ぶ王子を斬りつけようという衝動を抑えるのには苦労した。


 美しいだの愛してるだのここにいる男子のほとんどが王女に対して胸に秘めている想いをぽんぽんと簡単に言葉にすることができる王子が心底うらやましい。




 半年ほど前、その王子の国との境で貴族たちが小競り合いを起こした。


 これは例年のことなのだが今回はあちら側が見慣れぬ武器を持ち込んだ。大砲という破壊力の大きいもので国境深めに侵入してきて近くの都市の城壁を破壊し始めた。




 その抗議としてグィネヴィア王女の婚約は破談となった。


 やった。なんてことしてくれた!ありがとう!


 今回は破談となったがグィネヴィア王女はまたどこかの国の王子と婚約させられるだろう。

 でもとりあえずはあの、悔しいが王女と似合いの美形のジェラルド王子がベタベタと彼女に触れるのをもう見ないで済むというのは嬉しいことだ。


 計算高い国王が手中の珠を一家臣などにくれるとは到底考えられない。


 それは王女に初めて出会ったあの日に、とうに諦めている。





 隣国を追い返せと国王に命じられた私は喜び勇んで国境に駆けつけた。



 戦に加わってみると隣国の戦力でこんなにも国境を侵してくるのはおかしい、何かあるはず、という嫌な予感が的中する。


 おかしな動きの傭兵団一味に諜報部を忍ばせると海向こうの帝国の言語が時折混じるとのこと。女帝が支配する異文化の大帝国。大国とはいえ油断しすぎだろう。こちらを舐めきっている。



 夜半、傭兵の夜営に忍び込み寝首をかいて縛り上げ傭兵に化けた帝国軍を明け方彼らの乗ってきた船に詰めて送り返す。


 それを隣国の宰相の耳に届くように報告書をわざと横取りさせると即座に騎兵一万の精鋭部隊を送り込んできた。


 やはり確信犯だ。こちらを殲滅して口封じをするつもりだろう。ちょっと、お隣同士の小競り合いにはやり過ぎではなかろうか。



 意趣返しのつもりで帝国軍から奪った大砲で出迎えると隣国の馬が暴れて将軍が振り落とされた。最新の武器は自国で訓練すらせずにこちらに持ち込まれたものらしい。



 落馬した将軍を素早く縛り上げて捕虜にする。名のありそうな他の立派な騎士たちも次々に捕らえた。


 昨今の戦は敵将をなるべく殺しはせずに捕らえて身代金を要求するまでが一区切り、支払いの約束を交わして終了、という流れが通例だ。


 殺してしまうと儲けが減る!と戦に参加した貴族や地方領主たちに総スカンをくらう。兵士への給金はほぼ身代金から支払われるからだ。


 帝国軍の兵士たちは頑なに身元を隠そうとしたので地方貴族たちに見つかる前に船に詰め込んだのだ。帝国軍が紛れていたことは私の率いる騎士たち数名しか知らない。


 捕虜とするのにも費用が嵩む。身代金の取れない怪しい敵兵は即座に切り捨てられてしまっただろう。


 今回の戦はいつもの国境の小競り合い、第三国の関与などないという体でお帰り頂いて周辺諸国が付け入る隙を作らないほうがいい。第三国の報復など招き寄せてはならない。




 王宮に戻ると何故か英雄扱いで国王から褒美は何が良いかと訊かれた。捕虜にした隣国の将軍は教皇を輩出する名家の出だ。身代金がふんだくれたのだろう。


 答えようとする前にそうだな、グィネヴィアをやろう、と渋々という様子の一段低い声が聞こえる。


 普通の貴族なら領地、と答えるのを遮られた形だ。狸。






 自分からは口にすることも憚れる、望むことすら諦めていたいちばんの願い。



 夢を見ているのだろうか?





 グィネヴィア王女は嫌がるだろう。


 それでも、私は王女と結婚する。







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