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いつもベッタリくっついて寝てるけど、そういう意味じゃない。違うわよね?
ダーマッドはわたくしの顎を掴むと唇に口付けた。
深く舌が入ってくる……熱いキス。
キスって、今までしてもらって幸せだったけど、こんなにも気持ち良くて痺れちゃうものなのか。ダーマッドの舌が、わたくしの口に入ってるとか、今日の昼に初めてされたけど意識が飛びそうになる。
唇を離した。ダーマッドの上気した顔が、色っぽい。
ダーマッドが首にキスする。そのまま鎖骨に、胸元に、吸い付くようにキスするとドレスを脱がし始めた。
身体を起こすと、先に自分の上着を脱いでポイと投げ、シャツの釦を外す。ダーマッドの胸元が露になる。
心臓はずっとばくばくと鳴っているが、白い肌を見るとさらに煩く高まる。わたくしの視線に気付いてまた唇に何度も深くキスをする。
いや、もうわかってる。男のひとに慣れてないとかじゃない。このひとの身体が色っぽくて、見るだけで興奮し過ぎて震えが来ちゃうんだ。
動く度に白い滑らかな肌の下で筋や骨が蠢くのが、ぞくぞくする。あぁ駄目だ震えが止まらない。ダーマッド好き……。
ダーマッドのキスが、ドレスを脱がす手が、止まる。
え……どうして?
わたくしの頬を優しく撫でる。撫でてくれるのも好きだけど……。
「ダーマッド?」
深くため息をついている。
……やっぱり無理なのかしら。わたくしのことは抱けない?
そんな哀しそうに見つめないで?
このひと、自分がどれだけ色っぽい顔してるか自覚ないのだわ……。
「辛いですか?無理はさせたくありません」
「え?」
……わかった。
ダーマッドの首に手を回す。
「ダーマッド愛してる」
「え?」
きょとんとしてる。
「ダーマッドは自覚がなさすぎなの」
「……」
びくりと眉をひそめる。切なそうに。うぅ、なんて顔するの、もう……。
「ダーマッドが……色っぽすぎて、気持ち良すぎて痺れちゃうの……」
「グィネヴィア……?」
驚いたようにわたくしを凝視する。
「ダーマッドがわたくしに触ってくれるのが、嬉しすぎて身体が震えちゃうの……」
「グィネヴィア……!」
ぎゅう!とわたくしを抱き締める。
「好きだ……!グィネヴィア。ずっとずっと」
「わたくしも、ダーマッドのことが、初めて会った時からずっと好き」
「グィネヴィア私も!初めて会った時から……グィネヴィア……」
ダーマッドがわたくしを抱き締める腕が震えている。
「グィネヴィア、私もずっとあなたのことが好きだったんだ。愛してる。可愛いグィネヴィア……」
口付けするダーマッドの唇が震えている。
深く、深くキスをしながらダーマッドの手が優しく身体を撫で始めた。
真夜中に目が覚める。
幻想的な部屋の中で隣にダーマッドが寝ている。寝顔が可愛い。天使みたいな寝顔。ふふ、大人の男のひとなのに。
ダーマッドの白い艶かしい身体は何も身に纏っていない。わたくしもだ。
「のど、乾いた……」
この逢瀬の塔に来たのはまだ日が暮れて間もない頃だった。今は何時だろうか?
ベッドから起き上がる。水を飲もうとテーブルの方へ行こうとするとぺたんと床に座り込んでしまった。あれ?
「……グィネヴィア?」
「ダーマッド」
素っ裸で床に座り込むわたくしを不思議そうに見ると上半身を起こす。
「どうしたの……?あぁ、喉乾いた?待って……」
ベッドから降りてわたくしを抱き上げるとベッドにぽんと寝かせた。水を取ってベッドに戻ってくる。
「大丈夫?歩くのは……無理じゃないかな?……えーと、ごめんね」
照れくさそうにそう言ってわたくしに飲ませてくれた。
ダーマッドの言った通り、全く歩けない。日が昇る前にアリーがやって来てゆったりとしたドレスを着せてくれダーマッドに客間へと運ばれたがそのあとも動けずにずっとベッドにいた。
「せっかくの新婚旅行なのに……」
一日中ベッドだなんて。
「新婚旅行だから、こういうものですよ。若奥様」
わたくしがぽそりと呟くのを耳敏く聞いたアリーがそう返事をした。アリーの顔は今日はずっとにんまりしている。それを指摘すると「若奥様と若旦那様ほどではありませんよ」と言ってさらににんまりとした。
うん、にやけるのが止まらない。だってだって、ダーマッドが、あの大好きな大好きなダーマッドとやっと……。ふふふふふふ。
「グィネヴィア。身体はどう?お昼は食べれそうかな?」
ダーマッドが客間に戻ってくる。ジェラルドに連れ回されていたようだが昼には戻ると言っていた。もうそんな時間か。
アリーの言うとおり、ダーマッドの口許がゆるゆると微笑んでいる。可愛い。アリーがテーブルに軽いランチを並べ終えると部屋を出ていった。ダーマッドがわたくしを抱き上げてキスを落としながらソファへと連れて行く。
膝の上というのはデフォルトになっているよう。
「どれから食べたい?グィネヴィア」
「ええと。それは何かしら?茶色の薄いパンみたいな」
「ガレットだね。チーズとベーコンと卵を包んである」
照れる。でも口調が、敬語をやめてくれたのがとても嬉しい。「はい、あーん」と食べさせるのもやっぱりやりたいみたい……これも照れる。キス魔なのかずっとちゅっちゅとキスも止まらない。
コンコン、と扉を叩く音がする。
アリーが続きの間から出て来て対応する。
「ジャスティン王子からの贈り物です」
そう言って王宮侍女はアリーにそれを渡すとすぐ去っていった。




