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 唇を離すとぎゅっと抱き締めてくれる。


 もう一度ちゅっと軽くキスをしてわたくしにほんわりと微笑みかけてくれた。ここにきて、初めての笑顔。



「とても美味しいですね。私も好きです」


「桃が?」


「桃も、あなたも」


 ふわ、そんなつもりで聞いたのではないのに、ダーマッドがこんな甘いこと言うなんて……、あ、酔ってるのかしら?



 結婚式の時も酔って口が滑らかになっていた、などと思っているとダーマッドが少し拗ねたような顔をする。


「……酔ってませんよ。まだ」


 あの時のことを誰かから聞いたのだろうか?


「今日は酔うほど飲みません。記憶が消えては嫌ですから」


 拗ね顔、可愛い……。




 拗ねたのを誤魔化すように、ダーマッドがチーズを手に取る。


「一緒に食べると美味しいらしいですよ。生ハムとも合うみたいです」


 そう言ってフォークで桃とチーズを一緒に取るとわたくしに食べさせる。美味しい……なんだか餌付けされてるというか甘やかしが、すごい。


 結婚前のダーマッドからは想像もつかないような、これは愛されていると言ってもいいのかしら?大切にされてる。口説かれているのともまた違う。最近は歩み寄る、を飛び越えてベッタリだ。



 それでもやっぱり、彼はわたくしを本当の意味で妻には迎えてくれて、いない。それ以外にも引っかかることがまだある。


 愛してますとは言ってくれる。嘘をつくようなひとではないことはわかってる。でも、なんだかもやもやしてばかり……。



「グィネヴィア?」


 額にダーマッドの唇が触れる。


「どうしました?今は考え事なんてしないでください……」



 切なそうにわたくしの顔を覗き込む。この上目遣いには本当に弱い。


「ダーマッド、好き」


「ありがとうございます。私もグィネヴィアのことが大好きです」


 嬉しそう。



 ダーマッドは愛してると言ってくれるのに、わたくしからの好意はなんだかスルーされてる気がする。スルーと言うほどでもないけど、そんなに軽い言い方をしているだろうか?だからもやもやするのかしら。


 どう言ったら伝わるの?言葉では駄目なの?



 どうしたら、わたくしを女として見てくれる?あんな、濃厚なキスしてくれるのに、キスやハグ以上は嫌なのかしら?





 なんか腹が立ってきた……



「あ、駄目ですよ」


 ダーマッドの慌てた声が聞こえる。


 え?あ、グラスが空だ。



「このワインとても美味しいわ、もう一杯頂戴」


「駄目です」


 グラスを取り上げられた。


「もっと飲みたいの。駄目?」


 首を傾げて見つめると、困惑した顔をしている。なんかもっと困らせたくなってきた……。



「ダーマッド、ねぇ、お願い」


 前にどこかの貴婦人に教わったおねだりの上目遣いをしてみる。ダーマッドの顔が赤い。可愛い。




「……少しだけですよ」


 グラスにワインを半分より少ないくらい足して渡そうとするダーマッドに、ん、とキス待ち顔を上げる。


「え?」


「飲ませて?」


 片目を少し開けて見ると、動揺して赤くなった綺麗な顔が見える。ワインを恥ずかしそうに飲ませてくれた。さっきまで澄ました顔でしてたのに。ふふ、困ってる困ってる……。



「もしかして……酔ってますか?」


「ううん?ぜーんぜん。桃も食べさせて」


 ダーマッドが首まで赤くなっている。かわいすぎる。もっと意地悪しちゃおう。ダーマッドばっかりわたくしのことをドキドキさせてずるいのだもの。


 ダーマッドがさっきみたいに桃を指で口に入れてくれた。綺麗な人指し指ごとはむっとくわえて軽く噛む。


「あ……グィネヴィア……っ」


 真っ赤な顔がふるふると震えている……やりすぎた?怒っちゃったかしら。




「やっぱり酔ってるでしょう……!」


 わたくしが膝に乗っていることなど全く意に介さないようにすっと立ち上がるとスタスタと歩いてベッドへとわたくしを下ろす。離れようとするので服の裾を掴んで引き留める。


「いや、離れないで」


 こちらを振り返るとハァと溜息をつく。困った我儘姫相手に愛想尽かしただろうか?


「お水を取ってくるだけです。すぐ戻りますから手を「いやよ、傍にいて。抱き締めて」


 抱き締めて、と言いながらわたくしの方が後ろからダーマッドの腰にしがみついた。細いけど、筋肉の感触が男らしくて堪らない気持ちになる。ダーマッドが抱いてくれないならわたくしが押し倒してしまいたい……。


「グィネヴィア……何を……」


 眉尻を下げてこちらを見下ろすダーマッドの首に腕を回して、背中に抱きつく。身体をピッタリと這わせて。

 胸をむにゅっと押し当てて。


「グィネヴィア……っ」


 ダーマッドが、そっとわたくしの手を首から外すとフワリと身体が浮いたと思ったらベッドに押し倒されていた。


「グィネヴィア、もう止まりませんからね」


 少し怒ったような顔でわたくしの頬を押さえてじっと見つめる。


「今晩は離して、と言われても絶対に離しませんから。覚悟してください」













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