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「失礼ですがジャスティン王子殿下、最初のダンスは夫婦で踊るのが我が国の慣習ならわしです。こちらでもそうだとジェラルド王子殿下からお伺いしておりますが?」


 国王のハグをサッと振り払ってダーマッドがわたくしとジャスティン王子の間に入った。国王は残念そうな顔をした。


 ダーマッドはわたくしの手を取って肩を抱き寄せちゅっとこめかみにキスをする。ジャスティンの方をしっかり見てにっこりと微笑んだ。


 ふわ……なにそのイケメンな対応……



 カーッと顔に熱が集まる。もしかして、アリーの言ってた、嫉妬?ダーマッドが?



 後ろからキャーというよりもギャーに近い悲鳴が聴こえる。ドサドサッと音がする方を見ると貴婦人が数人倒れていた。え、なに?


 ジャスティン王子は失礼した、と無愛想に言い捨てて酒宴の席へと戻った。王子なのに社交がアレで大丈夫なのだろうか?




「ジャスティンが済まない。美女に目がなくてね。グィネヴィアのような美しい女性を見ると人が変わるんだ。困った王子だ全く」


 国王がわたくしとダーマッドにお詫びに、とダーマッドの肩を抱いて奥の間へと連れられる。やっぱり行動がジェラルドと似ている。ずいぶんとダーマッドのことをお気に召したらしい。ほんと男性にモテるわねダーマッド。


 いや、先程の貴婦人たちの反応……もしかして、もしかしなくてもダーマッドにキャーキャー言っていたわよね?本当は女性にも、モテるの?じゃあ、国でのあの嫌われようは何だったの?


 国王に肩を抱かれたダーマッドに手を引かれて、石段を登る。トンネルのような、天井がアーチになっている緩やかな長い階段。淡い蜂蜜の色合いの石の壁は、等間隔にランプが置かれており明るい。


 わたくしの手を握るダーマッドの白い手をじっと見つめる。なんと綺麗な手なんだろう。とても剣の鍛練を毎日しているようには見えない。最近は特に綺麗だ。ハーラに帝国銘産のシアの実の油脂を渡されて手につけるようにと言われていたからそのおかげかもしれない。


 国王の方を向いている顔を見上げる。斜め後ろからでも見惚れるほど、美しい。顔の造作はこれといって目立つところはないのに。ランプの揺れる灯火の中で白い肌が神秘的に浮かび上がる。隣にいる国王も美しいが、彼には燦然とした存在感がある。ダーマッドはその太陽光に照らされた月のような、静謐な美しさだ。



 ダーマッドはやはり女性にモテるのだ。わたくしから見て、特に今のように着飾ったダーマッドは絶世の美男子だがそれは他の女性から見ても同じだったということ。ジェラルドやこの美々しい国王を見慣れたこの国の貴婦人たちが淑やかさも忘れて色めき立つほどに。



 国王が何度もダーマッドの方を見ては可愛い、とか綺麗だ、と囁いていた。わたくしも、そう思う……。

 え?もしかして、ソッチ?うちの国の貴婦人たちがダーマッドを避けていたのはそのせい?



 ダーマッドがわたくしを抱かないのも、まさか……。


 いやいやそんなはずはない。ダーマッドにはちゃんと女性の婚約者がいた。シャルロッテのことを考えると胸がチクリとする。





「着いたぞ、歩かせてすまんなグィネヴィア」


 思案していると煌びやかな笑顔がわたくしを振り返る。トンネルの出口を抜けると満天の星空の下にでる。王城の中程の高さにある広場のようなところ。美しいアーチに装飾された白い大理石の優美な塔が見える。




 塔に入ると、これまた装飾の細い柱が幾つも壁に並んだ幻想的な部屋がある。高さのある天井は柱から延びた装飾が融け合うように交差するアーチになっていた。



「我が国の臣民たちはそなたらにずいぶんと夢中なようだ。あのように熱狂的な騒がしい中では落ち着かないであろう?申し訳なかったな。ふたりの人並外れた美しさを考慮すべきだった。せっかく新婚旅行で来てくれたのだ。ここはな、本来結婚したばかりの、国王と王妃の親密な逢瀬に使うところなのだ。今宵はこちらでゆっくり過ごすがよい」


 奥の、薄い紗の幕が幾重にも掛けられたアーチの入り口を指差すとわたくしたちに華麗なウインクをして国王は来た道を戻って行った。






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