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 ジェラルドの国は文化的にはわたくしの国と殆ど変わらない。


 公用語が話されているし、若干北側に位置するため冬は厳しいが気候も一緒だ。もとは同じ民族の大国だったのが王族の伝統的な相続のやり方の問題で分化され独立し、今の形に落ち着いている。



 ジェラルドはわたくしの国にしょっちゅう来ていたが、わたくしがこの国に来るのは初めてだ。


 道中は守備隊に加え青揃隊と銀獅子隊に守られ逆に不安になるほど何もなかった。


 あったとしたら、わたくしとダーマッドは勿論同じ馬車だったのだが、これまでと違ってダーマッドの隣に座ったことだろうか。


 隣、なのだがダーマッドは道が悪かったり天候が崩れたりと何かある度にわたくしを膝の上に横抱きにする。だんだん何もなくても当たり前のように抱き上げだしたのだがダーマッドのしたいように任せた。

 一緒の馬車にアリーとジェラルドも乗り合わせているのに、彼らが外など見てる隙にちゅっとキスをしてくる。嬉しいけど恥ずかしくて心臓が持たない。


 夜は宿場町に泊まったがそこでも当然ダーマッドとは夫婦なので一緒のベッドで寝た。




 ちなみにわたくしは、まだ乙女だ。



 女性としての魅力に欠けているのだろうか?もしや、ダーマッドは本当にソッチの……?



 などと不安になっていると、アリーとハーラに「少しずつ近寄らないと危険ですから」と宥められた。え、何が?あんなにくっついて寝てるのに?


 ダーマッドは初夜からずっと寝ている間わたくしを抱き締めてくれている。とても幸せそうに微笑んでたくさん撫でてキスしてくれる。可愛い、とか愛してる、とかいっぱい囁いてくれる。


 寝てる時以外も時間の許す限り傍にいてくれる。近くに人がいてもわたくしを抱き締めて頬などにキスしまくるのが常となった。



 それはとても嬉しいし幸せなのだが、肝心なことはしない。


 今更つっこむ機会を失って、どうしたものかと思案している。







 ジェラルドの生まれた王城へと行く。


 ジェラルドとゾエ将軍と青揃隊が国王に戻ったことを伝えに行き、そのあとわたくしとダーマッドが呼ばれた。


 タマル女帝は今回は遊学中の高級官吏という体で女帝の身分は隠すことになった。銀獅子隊がいるからバレバレではないかと思うのだが皇帝の一族に銀獅子隊を遣わすことはたまにあるとのこと。


 女帝が官吏らしくいつもの極彩色のポワンとした服からビシッと小粋な黒いスーツに着替えた。メイクも全く変えていつもの派手な妖艶なイメージではなくて、キリリと仕事の出来る文官といった雰囲気だ。



 あれ……その格好なんか見覚えが。とじっと見つめると「グィネヴィア様ぁ、この度はダーマッド様とのご結婚誠におめでとうございますぅ」と今更なお祝いを声音を変えて言ってくれた。


「タマル女帝だったのですね……」



 わたくしを拐った仕立て屋に扮したマダム。あの時はメイクも髪形も違ったがたしかにこのスーツだった。




 拐われた時には混乱と苛立ちしかなかった。


 でも今にして思えばすっかり拗ねてひねくれてダーマッドとの結婚を受け入れられなかったわたくしが「なにがなんでもダーマッドと結婚するー!」という心持ちに変わったのはタマル女帝とジェラルドが起こした騒動があったからなのだと、思う。


 自分が拐われた時にはダーマッドがすぐに助けてくれて、わたくしを閉じ込めてでも守ろうとしてくれたことがわかって歩み寄ろう、素直になろうと思った。

 ダーマッドが捕らえられた時にはなりふり構わず彼を助けようとした。彼がいないと生きていけない、ダーマッドのことがやっぱり全然諦められずに大好きなのだ、と強く自覚した。

 でも感謝なんてしない。あんなに振り回されて本当に大変だったのだから……。



 感慨に耽っているとジェラルドの父王から声を掛けられる。


「グィネヴィアは農業に力を入れていると前から聞いている。特にどういったことをしているのかな?」


「農業ですか。実験的なものではありますが、コメという穀物を育てているのです。我が国の王都近くには開墾しても麦の育成には向かない水の豊富な沼地の一帯があるのですが、そこの灌漑を整備すると東の大陸の主食であるコメの育成に向いていることがわかりまして」


「ほほう、経過はいかがなものかな?」


 ジェラルドの父だけあってとても美形のおじさまだ。笑顔で話し掛けて下さる様子に周囲にいる宮廷貴婦人たちがほぅっと溜息をついているのがわかる。


「今のところ順調です。まだ不手際もありますが、もう少ししたら輸出も視野に入れようかと」


「さすがだな。予もそのコメとやらに興味があるぞ」


「秋には新米が実ります。こちらにもお贈りいたしますので、是非お試しください。調理法も添えますね。パエリアとか、リゾットとか、とても美味しいのですよ」


 他にも交易に関することなどで国王と話が盛り上がる中、わたくしを見つめる人物がいる。第一王子のジャスティンだ。紹介されてはいるのだがあまり会話に加わることがない。顔立ちは、さすがジェラルドの兄、あの父の子、それなりにイケメン。でも、わたくしへの視線がとてもじっとりとしていて気持ちが悪い。



 いつも穏やかなダーマッドがあからさまに不機嫌になっている。


 その様子を見てジェラルドが国王に客人を客間に案内しても良いかと訊ねると太陽神のような素晴らしい笑顔で王の間を辞することを許してくださった。




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