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 アリーに身支度をしてもらって、サロンへ降りるとジェラルドと兄のエセルレッドがいた。


「おはようグィネヴィア。そのベージュのドレスがいいね。昨日も素敵だったけど今日はまた特別綺麗だ」


 ジェラルドが挨拶がてらドレスを誉めてくれる。彼はいつもそうなのだが、今日はきらきらと美しい顔がいつもよりもにーっこりしてる。なんか気恥ずかしい。


「おはようジェラルド。ありがとう」


「おはようグィネヴィア……それ、ダーマッドの髪の色だな」


 兄がぽそっと呟く。ダーマッドの髪は艶々さらさらの薄い茶色、ミルクティーのような色合いだ。このドレスと同じ色。


「お、おはようございますお兄様」かーっと顔に熱が集まる。「アリーが用意してくれたんですの。落ち着いた綺麗な色で気に入ってますわ」


「耳飾りはダーマッドの瞳の色だな」


「こ、これはダーマッドに頂いたんですの」


 やっぱり?ダーマッドの瞳の色よね?ダーマッドにもらった黄玉トパーズの耳飾り。わたくしの勘違いではないわよね?きゃあ!





 朝、クローゼットを見てみると、わたくしが持って来たものに加え、美しいドレスが数点置かれていた。今着ているこれもそうだ。とても動きやすくて軽いドレス。


 宝飾品も見たことないものがわたくしの持ち物に、よく見なければ気づかなかいようにそっと紛れていた。


 夜にはよく見てなかったが、部屋の調度も王宮のわたくしの部屋に似た、好みのシンプルなもの。女性らしい意匠ではあるが白を基調に落ち着いたベージュや淡い天色セレストブルーの抑えた色味の彩り。わたくしの好きな芍薬ピオニーがさりげなく飾られていた。


 リネンなども無駄な装飾の少ない、けれど肌触りの良い上質なもので揃えられている。


 いつも忙しいダーマッドが気遣ってくれたと思うと、嬉しい。もしかしてこのドレスも彼が選んでくれたのだろうか?彼の髪と同じ色のドレス。きゃあ!



 今朝の朝食といい大切にされてるようだ。使用人たちもとても感じがよい。




 嫁ぐことが決まった時は、もっと冷遇されるものだと思っていたのに…。


 だってわたくしはダーマッドに嫌われていたのだ。


 穏やかで人当たりの良い優しいダーマッドが、唯一嫌って避けていたのがわたくし。婚約するまで、ダーマッドとの会話が成り立つのはわたくしから悪態をつくときだけだった。


 彼には別の婚約者、シャルロッテもいた。



 彼女が侯爵邸にいたのはどういうことなのか……聞きたいけど、どうしよう。


 ダーマッドは昨夜ずっとわたくしと一緒にいてくれたもの。気にしなくていいと、思う……。






「ダーマッド大好きー!て全身で叫んでる感じだな」


 兄よ、それは貴方でしょう?兄が騎士団の仕事をしてるのはダーマッドの傍に居たいからなのは、皆が知っている。


「それいいね。僕も今度その色の服作ろう」


「……お兄様もジェラルドも、ほんとダーマッドが大好きですのね」


「「うん、ダーマッド大好きー!!」」


 美形が揃ってにっこりと嬉しそうに叫ぶな。控えてる侍女たちが困惑して顔を赤らめている。絶対ソッチだと思われてる。


 ん?ダーマッドは男性にモテるけど女性に好かれないわね。……まさか、ね?



 兄は、わたくしの男版といった黒髪黒目で背は高く結構がっしりめのいい体格。ジェラルドと同い年。ちなみにわたくしも兄もお父様似。お母様曰く兄は父の若い頃と瓜二つらしい。我が兄ながら、かなりの美形なはず。ジェラルドと並ぶとキラキラが半端ない。




 タマル女帝がサロンに入ってきた。


「ごきげんようグィネヴィア。ジェラルドもエセルレッド王子もおはよう。ダーマッドはどこじゃ?」


「おはようございますタマル様。ダーマッドはお風呂ではないかしら?」


 タマル女帝もダーマッド大好きよね。女性では珍しい。帝国の文化ではダーマッドでも女性にモテるのかしら?絶対行かないようにしないと。


「む、それはいかん。ハーラよ、行け」


「御意」


 ハーラがすささと侯爵家の侍女を伴ってサロンから出ていく。なんで?


 タマル女帝がほぅっとため息をつく。


「妾の侍女たちが、ダーマッドの専属侍女になりたいと申しておってのう。妾は良いのじゃがどうしたものか。……ぬぬ、グィネヴィア、あれじゃ、惚れたとかではないぞ、或る意味惚れ込んではおるが。いや、違うのじゃ、大丈夫じゃ安心いたせグィネヴィア落ち着け」


 え?何?なんでみんなそんな青い顔してるの?タマル女帝慌てすぎ。お兄様とアリーはどうしてわたくしの身体を支えているのかしら?やっぱりあちらの国ではダーマッドはモテるのね、そうなのね。



 辺境伯夫妻もサロンへ入ってくる。


「おはようございます。リュシラ伯母様、ローンファル伯父様!」


「おはようございます。グィネヴィア様。皆さま方。昨日は本当に素敵なお式でしたね。ダーマッド様の頑張りに皆拍手喝采でしたわ。あらお顔色が……疲れてらっしゃるのでは?」


「いいえ!大丈夫です。昨夜はぐっすり休みましたので」


「あら、そうなの……?それは……良かったですわ」


 うん?なんかみんなが生温かい目で見ているわ。なんで?顔を見合わせてるのも、なんで?というかダーマッドの頑張りって何?わたくし彼の格好良いところ見逃した?


 伯母様が姫様と呼んでくれないのはちょっぴり寂しいけど、ダーマッドの奥様になったのだもの。ふふ。





 ダーマッドがハーラを従えてサロンに入ってきた。


 額を出して髪を後ろに撫で付けている。髪は緩くウェーブしていた。濃いウォームグレーのブラウスに細身のタイと黒ベスト。黒い細身のパンツ。ほそーい白い足首をちらりと見せて、シンプルな黒い革靴を履いている。


 そんな普段着初めて見た。どこの貴公子ですか?いや貴公子だけど、服はいたってシンプルなのに、何それめちゃくちゃかっこいい……!ハーラが皆にサムズアップされてる?え、なに?



 ダーマッドは皆にさくっと挨拶をするとわたくしのところにすたすたとやって来て、手を引いてソファに座らせてくれた。ぴったり隣に自分も座る。ひぇ。手は繋いだままだ。


 格好良すぎて赤面しているわたくしの頬を不思議そうに擦るので思いきって「その服装と髪型とても素敵」と小声で耳打ちすると、嬉しそうにはにかんだ。か、可愛い。


「ありがとう。グィネヴィアも、そのドレスとても似合ってる。綺麗だ」と小声で返してくれるのでさらに顔が熱い。綺麗、ダーマッドがわたくしのこと綺麗!


「ダーマッドが選んでくれたの?ドレスありがとう」と言うとダーマッドのふんわり柔らかな頬も赤くなった。うわーん可愛いすぎる。格好良い出で立ちとのギャップがまた良い。



 こほん、とわたくしたちを邪魔するようにわざとらしく咳払いして兄のエセルレッド王子が「はいはい、会議を始めまーす」と場を仕切り始める。






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