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 国王陛下が皆の前でグィネヴィア王女を私に嫁がせることを宣言した。


 居合わせたグィネヴィア王女は何も聞かされていなかったようだ。



 顔を紅潮させて綺麗な眉を思いっきりしかめている。白い華奢な手が赤くなるほどぐっと拳を握りこんでわなわなと震えていた。



 それほどに私との結婚が嫌なのだな。



 まぁ、わかっていたことなのだが…。

 




 倒れる王女を抱き留めた。その閉じた目から柔らかな頬に涙が伝うのに心が痛む。



 初めて触れる王女の身体は柔らかく、力を入れると壊れてしまいそうなほど華奢だった。













 グィネヴィア王女が10歳の誕生日、私は初めて王城に招かれた。



 両親とともに国王と王妃、主役のグィネヴィア王女に挨拶をする。



 お伽噺に出て来るような可愛らしい姫を想像していた私は初めて見るグィネヴィア王女の姿に驚いた。


 漆黒の髪と瞳。真っ白な肌に薔薇色の頬と真っ赤なスグリのような唇。


 じっとしていると陶製の精巧な人形のようだった。


 こんな美しい、美しいなんて言葉が思い浮かんだのはこれが初めてのことだった、こんなに美しい人がいるなんて…人ではなくて女神じゃなかろうか。


 磨きあげられた黒瑪瑙のような瞳が冷ややかにこちらを見下ろす。


 両親につつかれて慌てて挨拶をした。





 国王への挨拶が終わるとパーティーの始まりだ。


 王女が主役とは名ばかりで子供たちは中庭の専用スペースに侍女や護衛数人と一緒に追いやられる。


 グィネヴィア王女は貴族の子女たちと順繰り言葉を交わしていた。


 全員そろそろ王城に上がる年頃で、王女の友人となるべく選ばれた子供たちがここに集められている。私もその一人だ。



 私の順番がやって来た。


「ダーマッド、あなたのおうちはどんなところなの?」


 わ、なんて綺麗な声だろう。


 耳を楽しませる小鳥や楽器も押し黙るような美しく響く愛らしい声。そんな声で私の名前を呼んでくれた。


 おうち、とは王都の町屋敷ではなくて領地のことだろうか?私はたまに父に王都に連れて来られる以外ほとんどを領地で過ごしていた。


「ここからはとても遠くて周りは山ばかりです。湖もあって釣りができます」


「山ですか?木がたくさんある森のようなところだと聞いたことがあります。とても大きいのでしょう?」


「はい、ここからも少し見えますね。あの遠くに見える空と地の境目、黒っぽく盛り上がったところが山です。近くで見るととても大きく高く聳えています。グィネヴィア王女殿下の仰るとおり木がたくさんあります」


「そうなのね。あれが山なのね。教えてくれてありがとうダーマッド。わたくしはここから出たことがないから世間知らずで恥ずかしいわ。ダーマッドは木に登ったりするのかしら?」


「はい。木に登ると遠くの景色が見渡せて楽しいですよ」


「わたくしも庭の木に登ってみたことがあるの。降りられなくなって困ったけど、楽しかったわ。こっぴどく叱られたけれどもう一度登ってみたい。あぁこれは内緒よダーマッド」


 恥ずかしそうににっこりと微笑むグィネヴィア王女には少女らしい愛らしさがあった。先程のまでの女神のような美しさとはまた違った魅力がある。



 そこまで話すとシャルロッテが私の手を引いて王女から引き離した。一緒にお菓子を取りに行って欲しいようだった。



 なんとも夢見心地のひととき。


 あのような神秘的な美しさでなんとお茶目なことを言うのだろう。木登りだって。可愛らしい。でもきっと王女が木登りしてるところを見たら自分もこっぴどく叱ってしまうだろう。心配すぎて。



 シャルロッテの手の届かないカップケーキを取るようねだられた。言われるまま取ってあげる。


 ぼーっとして自分が何をしているのかよくわからない。


 きっと王女が話掛けてくださるだろうと心の準備をしていたつもりでもパニックで、母から教えられた笑顔を貼り付けるのがやっとだった。


 私に次々とお菓子を取るようねだるシャルロッテは隣の伯爵領の娘で私よりも二つ年下だ。


 祖父同士の取り決めで生まれたときから私と婚約してはいるが形だけのことらしい。隣接した領地ではくだらないことで争いが起こる。それを避けるための方便なのだ。


 両親たちは二人が年頃になれば婚約は取り下げるから想いあった人と結ばれれば良いと言ってくれている。両親たちもそうだったからだ。


 シャルロッテは金髪に明るい緑の瞳の可愛らしい少女だが妹のような存在だ。大切には思うがシャルロッテと結婚するなどとても考えられない。


 ああそうか、グィネヴィア王女に会った時の心臓が跳ね上がる感じ。そのまま雲に浮いているような気持ち。


 シャルロッテや他の女の子にはこうはならない。




 そうか、これが恋、初恋というものか。



 なぜこのような手の届かないひとに…。





 叶うはずもない恋に落ちてしまったのだろう。







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