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 いつも呑気な余計なことばっかり言ってる金髪碧眼の美形王子が、グィネヴィア王女に話し掛けている。



 それに感謝したのはこれが初めてだ。



「グィネヴィアはダーマッドになんて呼んでもらいたいのー?」


 にやけるな、とりあえずもう黙れジェラルド。



「これからは、なんとお呼びしましょうか?」


 王女はぽーっとした表情で私を見つめている。なんだそれ可愛い。あ、服とか頭を見てる。喜んでもらえたのかな?よかった。ハーラたちにお礼をしないと。ジェラルドとアリーにも。

 少しはましに見えてるだろうか。王女の隣に立って大丈夫だろうか?私はとても地味だからな…。


 王女は白いふわふわのドレス着てるせいか、いつもなら垣間見えるきりりと利発そうな感じも全て愛らしさに変換されて今すぐ抱き上げて誰もいないところに駆け出したい……



 この辺りから少しの間、なんだか記憶がふわふわしてる。少し飲み過ぎたらしい。意識がしっかりする頃にはすでに、極自然に王女殿下ではなくグィネヴィアと呼んでいた。


 帰りの馬車では幸せすぎて黙りこんでしまった。









 久しぶりにうちに帰る。披露宴から先に戻っていた両親は美しくて賢くて可愛いくて可愛くて可愛い王女……グィネヴィアのことがとても好きなので大歓迎している。使用人たちもグィネヴィアのファンばかりだ。邸の全員がこの結婚を心待ちにしていた。

 優しく努力家で美しい王女は皆に愛されているし、彼女自身分け隔てなく皆に優しい。


 そんな王女が唯一嫌って悪態をつくこの地味で冴えない私のもとに嫁いでくれるなんて。


 皆が喜んでいるところ申し訳ないが、疲れている彼女があまり弄られないようにと後ろで睨みをきかせると侍女頭がそそくさと部屋へ案内した。




 私は早くグィネヴィアとふたりきりになりたいんだ。待ちに待った初夜なんだ。



 そわそわして待ちきれない。彼女の部屋は私の部屋の真上だ。昔の城塞のせいか不思議な仕掛けがあちこちに残っており、上の部屋へは絵画に見せ掛けた扉の後ろから行ける。


 さっさと風呂に入り、髪を乾かす。どうせ脱ぐのだとガウン一枚だけを着て彼女の部屋へと行く。隠し扉のことは聞かされているはずだ。あちらからは開かないから私が行く。


 女性の部屋へ勝手に入るのも待ってるのも、そうするのだと教えられてはいるが落ち着かない。なかなか風呂から出てこないな。




 身支度用の部屋から出てくるとグィネヴィアは私の姿に気付いて固まっている。


 可愛らしい夜着を着ている。さらさらの髪は何もせずに背中へ流れている。化粧もしていない。



 なのにいつもよりもずっと、清らかで美しい。




 なかなか来ないのが焦れったくて抱き上げてベッドへ連れて行く。強引だったろうか。すでに顔が真っ赤で、切なげに眉根を寄せる表情が色っぽい。夜着が薄いせいか肌の柔らかさが、花のような香りが理性を壊しにかかる。


 無理だ。多分今の私は凶暴な狼だ。落ち着け。大切に、少しずつ……。




 ベッドへとそっと下ろす。なんて華奢な身体だ。彼女を壊さないように、気を付けないと。



 力いっぱい抱き締めて身体中にむしゃぶりつきたいのを抑えて頬や髪などをそっと撫でる。


 頬へのキスは昼間にもしたからきっと大丈夫。柔らかいな。肌がすべすべで触れるだけでぞくぞくする。重ねてる身体の、密に接する部分が歓喜でさざめく。



 瞳を潤ませて、なんと扇情的な顔をするのだろう。


 駄目だ、落ち着かないと無理矢理一気に事を進めて、大切なグィネヴィアを傷付けてしまいそう。ゆっくりと優しく。


「グィネヴィア、愛してます。大切に、大切にします」


 頬へキスするだけで、こんなに艶っぽく息を乱してる。感じてくれているのか、身体がぴくりぴくりと小刻みに震えているのが興奮を誘う。


 何か言おうとしているが、殆ど吐息に紛れて聞き取れない。その切ない喘ぐような声が、耳を、その奥を、痺れさせる。




 不規則に熱い吐息を溢す艶々のぷっくり唇が美味しそうで、そっと、初めて唇で触れてみる。頬よりもふにっと柔らかい。



 敏感に反応する表情が可愛くて何度もいちいち顔を見つめてしまう。ふにふにした唇が気持ちよくて何度も触れるようにキスする。


 唇を吸うようにキスをすると、快感でおかしくなりそうだ。もっと、もっと深くまでしたい……







 え…




 グィネヴィアが震えている。



 夢中で、気づいたら彼女にのし掛かっていた。なんてことだ重いだろう!


 切なそうな目に涙が滲む。




「グィネヴィア、嫌、ですか?」



 蕩けるような表情に、嫌がっていないと思ってた……!


 痙攣するように震えるグィネヴィアが、泣いている。溢れる涙を拭うように、宥めるように頬を撫でるが全く落ち着かない……あぁ……。



 グィネヴィアが嫌じゃないとでもいうように、ふるふると顔を横に振る。こんなに辛そうなのに、なんで……私を気遣ってくれるんだ。


 健気すぎるだろう……愛しくて、ぎゅっと抱き締める。


 私の腕の中にすっぽりとおさまるか細い身体で、怯えているのに気づかないなんて。喩えではなく本当に震える子兎だ。凶暴な狼に欲にまみれた目で見つめられて、触られて怖かったろう。なんて駄目な男だ。ごめん……




 私一人で興奮して……


 大切にするって決めたのに……言ったのに……





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