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 そわそわする。



「姫様、とってもお綺麗ですよ」



 



 そわそわどころか多分震えているのだろう。アリーが優しく背を撫でてくれる。





 今、人生でいちばん緊張している、と思う。




 大聖堂の鐘が鳴る。時を知らせるのとは違い幾つもの音階を重ねた何度も連なる鐘の音は今日の晴れやかな祝いが始まる合図。


 お父様がわたくしの手をそっと取って、ゆっくりと歩きだす。








 大聖堂は本当に大きい。街中に突然山が現れたようだ。


 いくつもの小さなアーチと複雑な形の柱で飾られている。正面には大きな丸い薔薇窓が入口の上にある。


 その下の大きな扉をくぐると暗い聖堂のなかに薔薇窓からの光に照らされた祭壇、そこにわたくしの夫となる人が待っている。




 王族の挙式では華やかなドレスに豪奢なマントを羽織る。



 しかし通常の挙式に変更となったわたくしは白いふんわりとしたドレスに白くて長いベールを被っている。


 お母様の結婚した時のものを急遽サイズを直してもらったものだ。普段のわたくしが着ないような、たっぷりと生地を惜しみなく使った可愛らしい華やかな花嫁用のドレス。背中に大きなりぼんがあってそれがベールと同じように長く後ろに垂れている。初めて見るデザインだ。お母様のドレスはとても嬉しいけれど、似合っているのか……少し恥ずかしい。


 ベールが合って良かった。今、どんな顔してるのかわからない。お父様が手を引いてくれるからずっと下を向いている。


 震えがおさまらない。心臓は意地悪なほど急いで動くしうまく息が出来ない。どうしよう、涙が出そう。





 祭壇にたどり着く。お父様が新婦の手を新郎へと渡す。



 何も見ていないけど、ダーマッドの手のはず。顔を上げることが出来ない。



 ダーマッドの姿を、確認するのが、こわい。





 本当に、彼と結婚するなんて信じられない。見たら何もかも霧散してしまうのではないかしら。





 讃美歌の間もずっと俯いている。



 わたくしの手を、ダーマッドが両手で優しく包みこんでくれた。震えているのが気になったのだろう。自分でもまさかこんなに緊張するなんて思ってもなかった。みっともない花嫁で、申し訳ない。




 誓いの言葉は、大司教が言ってくれるのを「はい」と応えるだけだ。それでも震えて小さな声、しかも掠れてしまって……駄目だ、涙が……堪えろ……


 ベール越しだからきっと誰からも見えてないだろう、酷い顔をしているはずだ。



 指輪の交換に、初めて向かい合った。ダーマッドが手袋を外してくれる。


 ダーマッドの白い指が器用に指輪を嵌めてくれる。わたくしはやっぱり、なんとか……。


 彼の顔を見ることが出来ないが長い脚と上着は見える。彼は騎士の儀礼用正装をしているのだと思っていたが、白い服だ。え?


 ダーマッドが白い服?見たことない、どんな服だろうか?



 見たい、どうしよう。





「グィネヴィア王女殿下」


 ダーマッドが小さな声でわたくしの耳許で囁く。死ぬ……



「ベールを、上げてもいいですか?」


 え?そんな段取りあったかしら?



 返事するよりもさきに、ダーマッドの手がベールをたくしあげる。

 心配そうな顔がわたくしを覗き込む。


 ひぇ!髪を、前髪を後ろにカールして流している。綺麗な顔が丸出し。額を出すといつもの少年ぽさが消える。下から見上げられるとほんわり優しい目が、少し力強く見えて格好いい。息が止まる。


 最近は距離が近いからアップも見慣れたと思っていたのに、心臓が破裂しそう。


 服は立衿で騎士服のデザインと似ているが真っ白で、金色の刺繍や繍が豪奢にちりばめられている。これは、ずっと見ていたいくらい素敵。黒の凛々しさとは違って、さすが筆頭貴族の令息といった、いや、王子様だ。物語に出てくる王子様そのものだ。


 多分また真っ赤になってるわたくしの頬にダーマッドがそっと手をあてる。


「あの、頬に……」


 え?頬が赤いのは知ってるわ……?


「キスすることをお許しいただけますか?」


 わたくしにしか聞こえない声で囁く。はぁ、いい声。え?なに?





 ……キス?

 




 うそっそそそそんなのイエス!


 したくないんじゃなかったの?






 ダーマッドがわたくしをじっと見つめる。




「は、はい……」




 大好きな顔が近付く。




 頬に優しくそっと触れるような、キス。





 ダーマッドの吐息がかかる。




 胸が、身体全体がじーんとしびれる。


 少し落ち着いていたのに、また身体がぷるぷるする。どうしよう、嬉しすぎて涙が出そう。

 いや、出てる。




 頬でも嬉しい。ダーマッドがわたくしの頬に、キス。




 ふわぁ、しあわせ。くらくらするわ。倒れそう。

 いや、身体が斜めだわ。



 ダーマッドの胸に寄り掛かってる……。






 うわ、どうしよう、ごめんなさい……っ



「グィネヴィア王女殿下、歩け……ませんよね?抱き上げてもいいですか?」


 心臓が、ふわ……こくこくと小さく頷くので、精一杯。




 いつも勝手に抱き上げるのに、今日はいちいち聞いてくれるのね……?





 わたくしを、猫みたいに軽々と持ち上げて……姫だっこ!慣れない!しあわせすぎて息が出来ない!大聖堂を足早に入口へ向かう。


 割れるような拍手と賛辞が聞こえる。え?祝いじゃなくて?……祝いも聞こえてきた。

 ダーマッドはさっさと大聖堂を出るとわたくしを抱えたまま用意されてた馬車に乗り込んだ。


 大聖堂の外にも人がたくさんいる。見える限りの王都の大通いっぱいに人だかりだ。


 こんなにたくさんの人がいたのね。ダーマッドの髪をカールさせたのは一体どこの誰なのかしら?お礼言えてないのだけど!?あの白い服仕立てたお店は今度から重用しなくちゃいけないわ。お父様なんて黙らせ……あ、わたくし、ガラン侯爵家の若奥様になるのだわ。






 ダーマッドの、お嫁さまになったのだわ。
















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