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 馬車に揺られて王都に帰る。


 ダーマッドと結婚式を挙げる為だ。


 あれこれありすぎて未だにちゃんと結婚できるのか、信じられない。城に戻ったら式までダーマッドを監禁してしまいたい。


 そう思い詰めるほどに目まぐるしく振り回された毎日だった。もうこりごりだ。





 辺境伯夫妻も一緒に王都に向かっている。もちろん姪のわたくしの結婚式に出席するためだ。


 リュシラ伯母はダーマッドのことも子供の頃から、わたくしが出会う前から知っている。姪のわたくし同様ダーマッドのこともとても可愛いがっているのだ。


 この結婚をとても喜んでくれている。それが少し申し訳ない。



 伯母はわたくしとダーマッドが愛し合って結ばれるものと信じているようだ。それとなくダーマッドの功績への褒美だと伝えたのだが、わかってるわ、ふふふ、と微笑んでくれた。照れ隠しだと思われている。



 わたくしだって、愛し合っての結婚ならどれほど……

 いや、好きな人と結婚できるのだ。わたくしは本当に幸運だと、思う。



 馬車はわたくしとアリー、ダーマッド、ジェラルドと、女帝、ハーラ、辺境伯夫妻の四人ずつ二輛に分かれている。女帝の他の侍女たちは一旦別邸に戻るそうだ。




 遅れてきたイケメン中年、ゾエ将軍は辺境伯領に留守番だ。


 あれこれごねてたがダーマッドが肩をぽん、と叩くと途端に協力的になった。どうして?宰相派なのかと懸念したが命令されて来ただけ、なのだと。なんか彼は、嘘は付けなさそうだ。



 青揃隊は一緒に王都へ向かっている。銀獅子隊も一緒だ。


 銀獅子隊は、これまでは変装していてそれぞれ違う軽装だったのがバシッと隊服で揃えていてとても格好いい。


 獅子の鬣を模した豪奢なファーが襟にぐるりと付いた、裏側の赤い銀色のマントに、細かな細工がキラキラと煌めく銀色の鎧。さすが大帝国の近衛隊!といった豪華さと風格を備えている。


 青揃隊はもちろん目立つ青い縦縞のマントの中は艶々に磨かれた鋼の鎧。鎧の上にはこれまたキリリと格好いい青いサーコートを重ねた盛装だ。



 銀獅子隊と青揃隊という二大陸でそれぞれ名声を馳せる勇猛な騎士隊が警護しながらの帰還。




 これを襲ってくる輩はこの大陸には存在しないだろう。最大限に警戒せよ、警告はしたぞ、というメッセージだ。



 もう、本当に何事もなく、結婚式を挙げたい。そうリュシラ伯母に伝えたら全てお任せくださいまし、とこうなった。


 青揃隊と銀獅子隊、どちらもダーマッドの為なら喜んで、とむしろ積極的に警護を買って出てくれたとのこと。


 伯母にどういうことなのか訊ねると旦那様に直接お聞きくださいませ、とにっこりされた。



 旦那様……?



 旦那、様




 ……






 わたくしの、旦那……さま……ひぇ……に、なる人は今、馬車で向かい合わせに座っている。わたくしの大好きな、黒い騎士服を着ている。凛々しい。なんて素敵。




 馬車に乗り込むとき、自然と手を取ってエスコートしてくれた……かっこよかった……



 昨日ダーマッドは、変な妄想をして勝手に彼を疑って青くなったわたくしを自分の大声で怖がらせたと勘違いして、宥めるためにと抱き締めてよしよししてくれた。


 突然の甘やかしに死ぬかと思った。


 わたくしの顔を覗き込むダーマッドの、どアップ。あの切なそうな眉、わたくしを心配そうに見つめる上目遣いの瞳……わたくしが泣くと辛い、とか、あのまろやかな声で切なそうに言っていた。


 さらに頭がくらくらしてダーマッドの胸にもたれ掛かるという自爆をした。


 その姿に休ませないと、とまたもや突然の必殺姫抱っこ炸裂で息も絶え絶えの所に……多分……あれは、キス、だと思うの。


 揺れた拍子に唇が当たっただけ?いいや、キスよ!キスしてくれたの。唇でなくて目元だけど。ダーマッドがわたくしに、キス!


 わたくしの記憶はここまで。残念。気が付いたらベッドの上で、昼寝していた。白昼夢というものだろうか?でも、生々しいキスの、ダーマッドの柔らかい唇が触れた感触が、残っている……。


 あれは一体何が起こったのか。途中から妄想なのかしら?まるでダーマッドが熱愛中の恋人のようだった……。夕食の時は普通だったのだけど。




 今朝は何事もなかったかのように、出立の準備が出来たわたくしを部屋まで迎えに来て、さっと手を繋いで、手を繋いで、手を繋いで……あぁ……馬車まで連れて来てくれた。


 また姫抱っこされるかとドキドキしたが手繋ぎだったので幾分かわたくしの心臓も頑張ってくれた。



 スタイルが良くて優雅な所作が身に付いてるダーマッドはエスコートがサマになっていて本当に素敵。



 他のふたりが馬車に乗り込むまでのほんの少しのふたりきりの間に、どこからか取り出した野花を、器用にさっとわたくしの髪に差してくれた。


 淡いピンクの小さな花はせっけんのような爽やかな香りがする。ローズマリーだ。好きな香り。薬草ハーブだが花も可愛らしい。


 ありがとう、と告げると無言で、窓の外の方を見た。少し照れてる?うわ、可愛い……


 はにかんでるようなダーマッドが可愛すぎる、花を髪に差すなんて、そんなキザなことを彼がしてくれるなんて!


 わたくしのために花を用意してくれたの?少し彼の手が当たった耳が、熱くて。きっとわたくしはまた真っ赤な顔をしているのだろう。扇子で隠す。隠れてないけど。


 嬉しい。



 いつもダーマッドとの触れ合いは突然で、心臓が爆発しそうで大変だったけど、なんだか今日は、とてもドキドキはするけどちゃんとダーマッドを感じることができる。幸せだ……。



 ジェラルドは馬車に乗り込んで来ると当たり前のようにダーマッドの隣に掛けて抱きつく。


 ちょっと、貴方がダーマッドの花嫁でしたっけ?


 なんですかそのラブラブな恋人のような振る舞い。まぁ、どちらかというととてもなついてるわんこ、とでもいう感じ。


 前は嫌そうに振りほどいていたダーマッドも、もう受け入れたのか全く存在を気に留めてないように無表情ノーリアクションだ。だから何故ジェラルドに嫉妬せねばならない……。


 最近はいつもダーマッドにまとわりついている。そして匂いをたまに嗅いでる。わんこか。うらやましい。まぁ、気持ちはわかる。なんか甘い、ふんわり優しい香りがするんだよね。


 わたくしも堂々と匂いを胸いっぱいに嗅ぎたい。癒されそう。でもドキドキしそう。想像するだけできゅんと心が弾む。



 ダーマッドはこれまで、遠くから見る分にはふんわり優しい癒し系だった。そんなところが好きだった。たまの、騎士らしい鋭い視線とのギャップがまたよい。



 ダーマッド自身が変わったわけじゃないけれど、彼の近くに来ると何故かとても落ち着いていられない。わたくしに下心がありすぎるからだろうか。



 ジェラルド位置替われ!と思うが王都までの道程をダーマッドの隣にいる、というのは多分体力的(特に心筋)に、精神的に無理な気がする。


 向かいだって、とても近いし何時間もダーマッドを見ていられる、と思うと幸せすぎて顔が緩むのを抑えられない。扇子で顔を隠せて、助かった。




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