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ほどなくして王女もサロンに来た。
扉をくぐったところで止まっている。どうしたのだろうと見やると真っ赤な顔して固まっていた。なんだそれ可愛い。私を見ている?
さっきジェラルドたちが言っていたやつか。
あのままの私だと、王女なら倒れてしまうと。とりあえずハーラの手腕のおかげで倒れなくて済んだようだ。良かった。
そういえば前に暑いからと少しブラウスの前を開けただけでグィネヴィア王女がかんかんになって怒鳴りこんで来たな。近寄ったら悲鳴を上げて逃げてった……。
でも騎士たちは普段もっと酷いぞ?古代の剣闘士さながら殆ど裸で訓練している者もいるのに。特にお咎めなしだ。宮廷貴婦人たちもむしろ喜んで逞しい筋肉を賞賛していた。何故私だけ……解せない。
なにか私が教わってないルールやポイントでもあるのか。身嗜みとは難しいものなのだな。ハーラにコツを学んでみよう。
きっと私が女性に嫌われている理由のひとつなのだろう。王女になにかあったり恥をかかせては大変だ。
そうだ、王女にもご指南いただこう。駄目なところは直していかないと。私から話し掛けるきっかけにもなるな。素直な王女はとてつもなく愛らしいが、会話に困る。これからは女性の好む話題も少しは意識しよう。
固まっている王女はアリーに促されて、ちゃんと私の隣に座った。嫌がってはいないようで、ほっとする。こんなに近くに王女がいる……私がデレてしまわないように顔を引き締めねば。
話はジェラルドの国の跡目争いのことだ。辺境伯の奥方が私たちで争いを終わらせては?と提言している。
他国に介入すべきではないが、前の国境戦だったり、昨日のように我が国に平然と刺客を送り込んで来るのは困る。そんな迷惑極まりない王子が国王になるのはだけは隣人としてごめんだ。
ジェラルドが命を狙われ続けるのもなんか不憫だ。
「姫様とダーマッド様が、まず結婚式を挙げなければなりません」
隣国のことは関係なしにそれはそうだ。式はもうすぐだ。
準備はほぼ整っているがはやく王都に帰らねば。新郎と新婦が拐われた上、こんなところで他国の事情に巻き込まれている場合ではない。
もう、引っ掻き回されるのはごめんなんだ。
はやくグィネヴィア王女と結婚したい!
安全なところで、幸せに笑顔で過ごしてもらいたい。
新婚旅行で隣国に?
新婚旅行は行きたいが。隣国の件は別で、私だけ行けば良くないか?グィネヴィア王女をそんな危険な所に連れて行きたくない。王女は、嬉しそうだな……彼女が行きたいのなら私の我儘なのだろうか……。
思い悩んでいると何故か辺境伯夫妻がイチャイチャしだした。
「伯父さまと伯母さま、いつまでも仲良くてうらやましいですわ」
王女が本当に羨ましそうにそう言った。
なんか、申し訳ない気持ちになる。私の褒美に、侯爵家に降嫁することになるなど思ってもいなかっただろう……本当はジェラルドと結婚したかったのだろうか。
え、辺境伯夫妻は恋愛結婚ではなかったのか、てっきり……え?国王と王妃が恋愛結婚??
わからないものだなぁ。
あの国王がこんなところまで何度も王妃を口説きに来たなんて。
なんだか王女がにこにこと辺境伯夫妻を見ている。やはり王女も女の子だ。宮廷貴婦人たちが話題にしている恋愛小説のような、幸せな結婚に憧れているのかもしれない……。
嫌われているまま、結婚が決まってしまって……
ちゃんと愛していると言って、彼女が喜ぶような贈り物などすべきだろうか?
私が望んで、褒美にと賜る王女のことを好きなことは知ってはいるだろうが、言葉にして伝えたことはない。
どうしたら私の妻として、こんな笑顔にしてあげられるのだろう。
「そういえば、あのディアンヌ様とおっしゃるご令嬢は、どういうお方なんですの?今はどちらに?」
王女、ちょっと待て、なんだ突然のその話題……
全員目を逸らしている。頼む、ばらすなよ……
「ジェラルドとずいぶん仲良さそうだったけど、恋人とか?」
痛っ!テーブル邪魔っ
なんだその……!え?ジェラルドと女性が一緒にいたことを気にしてる……?
やっぱりジェラルドに未練があるのだろうか?
うわぁぁ……めちゃくちゃムカついてきた……
いや、王女の隣に堂々といるんだと決めたばかりだ。子供っぽい嫉妬は……抑える!わ、こっち見るな!みっともない顔をしているに違いない。
辺境伯夫妻が、逃げた。出てくとき肩が小刻みに揺れていた。絶対笑ってるな……
「ねぇ、ジェラルド?」
ジェラルドにそんな可愛い顔を向けなくていい!もう!
「恋人ではないんだけど、まぁ憧れの君というかなんというか。大好きなひとだよ。僕は恋人になって欲しいんだけどね」
おい!にやつくな!私をからかうの好きだなっ!女帝も、こいつらほんと……
「憧れるのはわかるわ。とても美しいご令嬢でしたもの」
痛っ!
膝頭がちょうどテーブルにぶつかる位置なんだよな、くそ。
いま、なんてった?美しい?あれ?私の女装のことではないのか?
いや、そんな不思議そうに私を見返さないでくれ。可愛いな。わけわからないのはこっちだ。
「そうだろう、すごい美人だったろう?」
ジェラルドがニヤニヤしている。女帝はクッションに顔をうずめている。やっぱり、私のことだよな?
「ええ、あんな美しい方初めて見たわ。ぜひお友達になれたらな、て。ジェラルドの恋人ではないのね。どういう関係なの?」
「うーん、まぁ、ほっぺにキスくらいの関係かな?」
「ふ、ふざけるな!」
うわぁぁぁぁ!気持ち悪い!!
「いや、ちょっと寝顔があまりにも可愛くてつい、ごめんごめん」
ニヤニヤして言うな、全然反省してないだろう!命狙われて不憫だなんてなんで思ったんだ?くそっ
「ごめんですむか!二度とするなこの変態!」
「ごめんてばぁ、ほら、愛しのグィネヴィアが怖がってるよぉ?」
横を向くと王女が青ざめている。瞳がゆらゆら揺れていて、今にも泣き出さんばかりだ。なんて辛そうな顔……しまった。守るべき彼女を私が怖がらせてしまうなんて。
勇猛に戦うことのできる王女が、男の大声で驚き怖がるような繊細さも持ち合わせているのだな。
やはりお強いとはいえ私がしっかりお守りせねば……。
謝ると俯いてしまった。本当に申し訳ない。か細い肩が小さく震えている。あぁ……倒れてしまうのでは……
「申し訳ありません。グィネヴィア王女殿下。どうか、私を怖がらないでください。貴女に泣かれると、辛い」
思わず肩を抱き締める。できるだけ優しく。私の力では壊れてしまいそうな、王女の美しい、繊細な身体。
ぴくりと少し上げた顔を覗きこむ。
真っ赤だ。王女の白い肌が、首まで赤い。うわ、可愛い……!
一瞬私の目を見るとまた俯いてしまった。そのまま動かない。とろけ落ちるような涙目に小さく震える唇がちらりと見えた……。
どうしよう……片方の手で王女の頭を撫でると私の胸にもたれてきた。
ダメだ、可愛いすぎる……私の顔も赤いかも……きっと私の暴れてる心臓の音が丸聞こえだろう。
あれ?王女もドキドキしてる?まさか。
あ、男に急に触られて余計怖いのだろうか?怖がってるのを宥めようとしたのに、逆効果だったか……
でもダメだ、私の腕の中におさまるグィネヴィア王女が愛おしくて離すことができない。どうしたことか……
ふと視線に気づく。
ジェラルドと女帝が声を出さないように?口元を手で押さえて見守っている。アリーやハーラ、他の侍女たちも同じポーズだ。
サロンだったなここ……
本当に私は、色んな自覚が足りないようだ。情けない。
「アリー殿、グィネヴィア王女殿下を休ませたい。部屋へ案内してくれ。殿下、失礼します」
王女を部屋へと、抱き上げて連れて行く。
はやく休ませて差し上げたいのに、大人しく腕の中にいてくれる王女が愛しくてゆっくりと歩いてしまう。
これまで何度か強引に抱き上げたことはあったが、そういえば拒否されたりはしてないな。これまでは状況が状況だったから、私も慌てていてこんな風に愛しさを噛み締める余裕もなかった。いや、今だって別に余裕があるわけではないが。
私の腕の中で王女はずっと顔を隠していたが、諦めたように手を離した。顔が真っ赤なままだ。
私をそっと見上げて見つめてくる。とろんとした涙目が艶っぽい。アリーが近くにいるのでなければキスしてしまいたい。せめてほっぺだけでも、駄目だろうか?
ぽろりと流れ落ちた涙に、思わず目もとに口付ける。




