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「伯母さまがこれも飲むようにって」


「…はい」


 お粥を食べている間にぬるくなった薬湯をダーマッドに飲ませる。もう開き直ったのか、素直に飲んでくれる。


 不味いのだろう。眉をひそめているのが、なんというか……なんとも色っぽい……。





「ご馳走さまでした。食べさせてくださってありがとうございました。グィネヴィア王女殿下」


 少しはにかみながら、わたくしの大好きなまろやかな声でお礼を言ってくれる。


 ダーマッドの、こういう行儀の良さはとても好きだ。


 でも他人行儀すぎる……いや、ダーマッドにとってわたくしはまだ他人以下なのかもしれないけど……。




 少しずつでもいいから、歩み寄ろう、仲良くなろうと決めたのだ。このくらいでへこんだり……しちゃうよね……。





「他になにかしてほしいことがあるかしら?」


 ダーマッドを見ると、目がとろんとしている。うーわ!可愛い!なにそれ子供みたい……!さっきの薬湯の効果だろう。無理無理可愛い無理……伯母さまありがとう……


 眠たいのだろう。背中にあてがったクッションを取って横になれるようにする。背中とか、腕とか、触りたい放題だ。うぅ役得。


 下心がばれないように、さりげなく出来ているだろうか?


 ばれないように匂い嗅いだりもしてる。ダーマッドの匂い。なんだかちょっと甘い、安心するような匂い。今は安心どころか心臓酷使しすぎで危険なのだが。


 ダーマッドが、ぽてん、と枕に顔をうずめた。その拍子に、わたくしの手が彼の手の下敷きになる。そのままわたくしの手をぎゅっと握りしめた。すでにすやすやと寝息を立てている。



 手を繋いでる……。


 手繋ぎ!う、嬉しい……!きっとダーマッドにそのつもりはないのだろうけど……


 寝ながら手をぎゅっとするって、たしか赤ちゃんのやることですわ……ふわ、可愛い!寝顔もまるで赤ちゃんみたいに可愛い。普段はかっこいいのに、不思議なひとだ。


 で、手を離すなんてとても出来ない。わたくしはベッドの端に肘をついて座り込んでいる姿勢だ。どうしよう。


 と幸せを噛みし……悩んでいると遅すぎて心配したのか、アリーがそっと扉から覗いているのが見えた。おっ、という顔をしてこちらに近寄ってくる。



「姫様に毛布を掛けるのと、その手を無理矢理離すのとどちらがいいですか?」


「毛布」


「不正解。残念」



 アリーは器用にさっとダーマッドの手を解くと布団の中へ仕舞いこんだ。二択じゃないのか。クイズだったのか。


「婚約者でも、殿方の部屋にお泊まりはいけません。私が奥方に叱られてしまいます」


「もうちょっと、寝顔を……」


「あ、奥方」




 すっと立ち上がってワゴンを押して部屋をでる。リュシラ伯母のことは大好きだが、お母様の次に、こわい。










 翌朝、朝ごはんを食べようと食堂に行く途中、外のとても賑やかな様子に窓から顔を出す。新緑の爽やかな季節。王都よりも空気が澄んでいて気持ちがいい。


 辺境伯の兵士や帝国騎士に混じってダーマッドが剣の稽古をしているのが見えた。全員と仲良さそうだ。とても楽しそう。


 もうあんなに元気なのか。


 昨夜のダーマッドは非常にレアだったのかもしれない。本当に役得だった…。


 でも、こうやって元気に訓練している姿がいちばんダーマッドらしいように感じる。

 王城に上がるようになってから彼は誰よりも熱心に鍛錬していた。わたくしが見たことのあるダーマッドは基本訓練場にいる姿だ。






 朝ごはんのあと、サロンに全員集った。


 ジェラルド、タマル女帝、辺境伯夫妻、ダーマッド。


 ダーマッドは風呂に入って来たようだ。


 濡れた髪を後ろに撫で付けている……きれいな顔が丸出し。おでこをそんなに出しているの初めて見た。いつもさらさらヘアで前髪が降りてるから……やばい、朝からドキドキが止まらない。


 ダーマッドはこざっぱり気持ちよさそうだがわたくしは顔が熱い汗が止まらない困る。



「姫様、早くお掛けになって?」

 アリーがソファに座るよう促す。え、ちょっと待って、そこダーマッドの隣。


 拒否するのもおかしいのでおずおずと座る。ダーマッドはいつもの穏やかな表情だ。特に気に留めてなさそう……。



「だいたい話はわかったけど、ジェラルドがどうしたいの?このまま狙われ続けるのも厳しいでしょ?」


 ダーマッドが優しい声で美貌の王子に問い掛ける。


「知らんぷりして帝国に来てもよいが、無理じゃろう?」


「うーん。でもかかわるとより拗れるっていうか……」


 ふーん、じゃなくて。ダーマッド、ジェラルドのこと呼び捨て?しかもタメ口?え?いつの間にそんなに仲良しになったの?


 婚約者のわたくしにはあんなに他人行儀なのに?わたくしの扱いジェラルド以下?



「皆様方で片付けられてはいかがですか?」


 笑顔でリュシラ伯母が提案する。


「ここにいらっしゃるのはそれが出来る方ばかりですわ。ひとり中々やって参りませんけど」


「あ、ゾエ将軍。忘れてた」


「ほんとだ。僕たちより先に行ったはずなのにどこで道草くってるんだろう?」

 ジェラルドが首を傾げる。ほんとに何してるんだろう?早々に脱走させたのに。


「まぁ今日中にはいらっしゃるかと。で、そのメンバーで拗れてるのを直されるのがいちばんよろしいかと私は思いますわ」


「でも、僕たちあれだよね、この国を脱走してるんだよね。たしか」


「僕たちっていうか、ジェラルドとゾエ将軍な」


 ダーマッドが突っ込む。なにその気軽な口調。うらやましすぎるわジェラルド!わ、ジェラルドに嫉妬するなんてなんて情けない……!



「だから、まずは王都に戻るべきです」


 伯母が続ける。


「姫様とダーマッド様が、まず結婚式を挙げなければなりません」


 飲んでいるお茶を噴き出さないのが精一杯。急に何?そうだわ結婚するんだわ!


「恩赦ですよ。ジェラルド様はそもそも姫様とダーマッド様のご友人です。式への参列も許されるでしょう」


「いつ友人になった?」


 ダーマッドが顔をしかめる。え、すっごい仲良さそうですけど……。


「やだなぁ親友じゃん♪お祝いは何がいいかなー?」


「で、ゾエ将軍も恩赦を賜るでしょう。そもそも、姫様、どうしてゾエ将軍を脱走させました?」


 ジェラルドの話を遮って、伯母がわたくしを見る。


「お父様は意地になってますけど、ゾエ将軍と青揃隊を捕虜にしておくと、身代金が三年以内に支払われるとして、その生活費を身代金から引いたら儲けが殆どありませんわ。わたくし財務大臣と一緒に計算いたしましたの。ふたりでこれはないねぇ、大貴族の捕虜やだねぇ、て。国境戦の兵士への支払いならすでに他の捕虜からの身代金で充分。で、ちょうどよく人質交換の話があったものですから青揃隊も脱走させに、と」


「でしょう?国王は恩赦これを狙ってたのですよ。今さら引き下がれなかったのでしょうね。そもそも残虐非道で有名なドルシア家に目をつけられたくありませんし」


「え、じゃあ僕ももうすぐ出られたの?」


「王女殿下誘拐の意図が結婚の邪魔であれば絶対に出さないよ」


 ダーマッドがジェラルドを睨む。


 ん?結婚邪魔したら許さない的な感じに見えたのは気のせい?わたくし喜んでいい?


 こほん、とリュシラ伯母が咳払いする。


「まずは結婚式。それから隣国に行きます。ジェラルド様はゾエ将軍と一緒に帰る。ダーマッド様と姫様はジェラルド様の客人として新婚旅行。女帝はお好きな理由でどうぞ?」


「ジェラルドの……愛人?」


 のほほんと女帝が言い放つ。わたくしの頭の中はすでに新婚旅行ハネムーン。どこに行こうかしら?フローレンス大聖堂?ディアナ神殿跡?


「それはもう、僕が王位を簒奪しに帰ったと思われるからやめて?」


「帝国をバックにカムバックは、やばいですねぇふふ」


 ローンファル伯父さまのダジャレにちょっと現実に引き戻される。いけないいけない。わたくしも意外とのんきだ。


 そんな伯父のほっぺをリュシラ伯母がつんと嬉しそうにつつく。ここものんきだ。伯母は伯父の前では可愛らしい奥様になる。大好きオーラを隠しもしない。


「伯父さまと伯母さま、いつまでも仲良くてうらやましいですわ」


 でしょう?と言わんばかりにふたりが寄り添う。

「家同士が決めた見合い結婚なんですが、意外と上手く行くものですねぇ」

 ローンファル伯父がのろける。


「え?恋愛結婚じゃないの?」

 うそ、ずっとそうだと思ってた。


「ふふ、意外でしょう?国王と王妃は恋愛結婚ですからねぇ」


「え?」


 それも、うそでしょう??わたくしとダーマッドのびっくり顔を見て伯母は楽しそうに笑った。


「ああ見えて国王は妹にぞっこんなのですよ。こんな遠い辺境まで、それは何度も何度も足を運んで妹を口説き落としてね。あのふたり見てるのほんと面白かったわ。……今のあなたたちくらいに」


 うん?最後の方のぽそっと言ったの聞こえなかったですわ?






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