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 商隊に化けた一団が美貌の王子目掛けて走り寄る。


 護衛風の出で立ちの騎馬隊が先頭だ。なるほど訓練された息の合った動きは雇われの傭兵などではない。



 ジェラルドの輝く金髪はとても目立つ。周辺諸国でも有名な彼の美しい姿は初見でも間違えようがない。分かりやすい目標だ。しかもジェラルドにとても似合いの美しい白馬に跨がっていた。とにかく目立つ。狙われている自覚はあるのだろうか?相変わらず呑気な王子だ。



 帝国の騎士がジェラルドと女帝を守るように先に出る。精鋭の銀獅子隊といったか、相当の手練れだと動きでわかるがいかんせん数が少ない。


 こちらは帝国勢にわたくしと影を足しても五十人程度、敵に対して半数と劣勢に見える。あちらは余裕の表情だ。



 帝国の騎士と先頭の一団が衝突する。激しい剣の撃ち合いに金属音が響く。


 わたくしと影は商隊の後ろに回り込み爆薬を放った。殺傷力はほぼなく驚かせる程度の火薬量だが轟く爆音に、一団の馬が嘶き暴れる。

 大砲に慣れている帝国側の馬がびくともしないのを確認して次々と爆薬に点火して投げる。


 逃げ惑う馬から投げ落とされた敵に影たちが次々と静かに引導を渡して行く。あっという間に敵側の優勢が崩れる。混戦が進むと爆薬は使えないので帝国側を守る位置に移動した。


 ジェラルドと女帝は優雅な剣技で敵を次々と凪ぎ落としている。


 ジェラルドが剣を奮うのは初めて見るが戦っているというよりも舞っているように軽々と敵を仕留めて行く様は見た目と同様美しい。気を配るところはそこなのだろうか。




 馬車の窓からご令嬢が外を伺っているのに気付く。美しい顔に悲痛の表情を浮かべてこちらを見ている。今にも泣き出さんばかりだ。


 え、あれ?わたくし?わたくしを見てる?


 顔は覆面で見えないわよね。体型で女とわかって心配されているのかしら?他にも女性の影はいる。




 馬車に近寄るとご令嬢は驚き目を瞠ったあと瞳を潤ませてわたくしを見つめた。噛みしめている唇が泣くのを堪えるように震える。


 荒々しい戦闘に怯えているのだろうか?このように麗しいご令嬢に見せるには忍びない凄惨な光景だ。



「必ずお守りいたします。ご安心を」



 少しでも不安を取り除いて差し上げたくてそう話し掛けたが一層辛そうに眉をひそめて下を向いた。その様子につい抱きしめてよしよしして、安心させてあげたくなる衝動にかられる。


 彼女のことが気に掛かるが敵が近くまで来たので迎撃に出る。物理的にお守りせねば。




 敵が敗走し始めた。ジェラルドを見やると首を横に振っている。追わないのならばこちらも退き時だ。


 影たちに目配せすると、するすると街道沿いの雑木林に消えて行く。倒れた敵すらいない。まるで何もなかったかのような静けさだ。わたくしも彼らと共に街道を離れて辺境伯領への近道へと戻る。













「お待ちしておりましたよ」



 影たちと同じ出入口から辺境伯の領館へ入ると奥方が両手を広げて出迎えてくれた。何も訊かずに、しばしわたくしを大切そうにぎゅっと抱き締めると奥へと誘導してくれる。お風呂の準備をしてくれているとのこと。風呂場へ入るととても大きな湯船に驚いた。何人もが一時に入れる天然温泉の大浴場なのだとか。



 お風呂を出ると侍女が身支度をしてくれて領館のサロンへと案内してくれる。ドレスを着せてもらいきちんと王女に見える姿だ。



「姫様」

 先程と同じように、優しい笑顔だが改めて王女の出迎えをしてくれる。


「リュシラ伯母さま!」


 小走りで駆けよって抱きつく。


 この辺境伯の奥方はわたくしのお母様の姉にあたる。伯母の隣に立つ入り婿の夫、ローンファルが辺境伯を名乗ってはいるが実質は辺境伯家の長女として逞しく育てられたこのリュシラ伯母さまが全て取り仕切っている。


「やっと、来てくれたわね」


 大好きな伯母の領館へ行ってみたいと子供の頃から何度も願っていたのだが。叶うときは、本当にあっさりだ。


「ええ、本当はもっと落ち着いてゆっくりと来たかったのだけど」


「どんな理由であれあなたの顔が見れて嬉しいわ、グィネヴィア姫様。そろそろ一度も招いてない方々もたどり着くみたいね」



















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