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 タマル女帝に伝令が走り寄る。小声で耳打ちされた女帝は小さく頷いてから銀獅子隊に指示を出した。早口の帝国の言葉で聞き取れない。


 先程までふざけて(?)いた侍女や銀獅子隊全員が真顔で職務に戻ってゆく。



「ダーマッド、申し訳ないがこちらでおとなしくしていてくれ」


 そう言い残して女帝とジェラルド王子も部屋から出る。



 ……そもそも私はずっとおとなしくしているのだが。


 大切なグィネヴィア王女になにかされてはたまったものではない。




 壁に耳を当てると遠ざかって行く蹄の音が聞こえる。多い。銀獅子隊の、私の攻撃から無事だった者の相当数が出て行ったようだ。



 ふと、髪の毛が口に入ってオエッとなった。

 ちょっと、女装を解いてくれ!元の緩い部屋着まで侍女が持ち去ったので着替えがない。


 かつらだけでも外そうとすると頭の上の飾りが、何がどーなってるのかわからない。顎の下に布でしっかり固定されていて外し方が不明だ。きっと高価な飾りなのだろう。侍女に任せないと壊してしまいそうだ。


 衣装を痛めないようにソファに腰掛けて項垂れる。侍女が戻って来るのを待つしかない。この格好では筋トレも出来ないな。ハァ。





 大きな衝撃音が響く。


 ガヤガヤと外が騒がしい。まるで賊が押し入ったような喧騒だ……銀獅子隊が出払っている今を狙われたのか?どうしたものか……。


 俊巡していると扉の外でどさり、と聞こえる。まさか守備兵が倒されたか?この部屋の周りはまだ静かなのに?



 カチャリと鍵の開く音。そっと薄い身体が入って来る。黒ずくめだ。


 何度か見掛けたことがある。見てないフリをしなさい、と母上に言われてからは目線を向けないよう気を付けてきた存在。


 味方のはず……隠密がこちらを向いた。正面から見るのは初めてだ。覆面で顔はわからない。目だけが出ている。





 ランプの灯火の薄暗い部屋でもわかる、ずっと恋い焦がれてきた煌めく黒瑪瑙オニキスの瞳。




 グィネヴィア王女……




 思わず声を上げそうになって固まる。



 しまったこの格好……!私の酷い姿ときたら……。


 声を出すとばれる……いや顔は丸出しだからすでにばれているだろう。



 気持ちの悪い姿に呆れているのだろうか。王女も固まっている。



 穴があったら入りたい……




 でも、久しぶりに見る王女、目だけしか見えなくても可愛い。



 そんなに久々でもないのだが振り回されたせいでいつもの倍以上に癒しを感じる。今それどころじゃないのだが。



 黒装束はパンツスタイルで膝下が細身のシルエットだ。初めて見る王女の足の形、パンツの上からでも美しい。

 綺麗なドレス姿はもちろん素敵だが何を着ても可愛い。



 どうしよう、隠れてしまいたいのに王女が可愛いすぎてずっと見つめていたい。



 あれ、王女の瞳がうるうるとしている。可愛い、じゃなくて私の姿が情けなくて涙が出てきたのだろうか。



 きっと後でまたからかわれるのだろうな……。






 騒々しい輩が近付いてくる、やはり賊か。


 扉が開いたとたんにぎゃあぎゃあと喚いている。は?美人?黒装束でもわかるのか?



 グィネヴィア王女がさっと私の前に立ちはだかる。

 見えない角度だったが王女が投げたとても小さなナイフが賊に命中する。大柄な男が二人どさりと倒れた。へ?



 後続の賊が部屋をくぐる前に倒れる。ジェラルド王子だ。剣、使えたのか。


 グィネヴィア王女をじっと見つめながら私に近付き守るように抱き締める。だから、やめてくれ。



 王女はちらりとジェラルドを一瞥すると音もなく部屋を去った。









「私を守る必要はない」


「あ?あぁごめんつい」


 は?


 ぼーっとした表情でジェラルドが手を離した。


「だってこんな綺麗なご令嬢、守るのが当たり前だろう?」


 まだふざけてるのか。


「知らない賊が見たら必ず拐ってしまうだろうから慌てて来たけど、まさかグィネヴィアが助けに入るなんて」



 ……しまった。守るべきグィネヴィア王女に守られてしまった。



 こんな醜態を晒して、守ってもらったなんて……さらに嫌われてしまう……。




「お前らのせいで……こんな酷い姿を…グィネヴィア王女に…」


 思わずジェラルドにあたってしまう。なんかへこむことしか出来ないな。あぁなんてみっともない涙が出そうだ。


「いや、凄い美人だよ。むしろ喜んでもらえるよ。グィネヴィアは美人見るの好きだから。本当に可愛いよダーマッド。思わずキスしてしまいたくなるくらい」


「気持ち悪い!男のドレス姿なんて可愛いわけがないだろう!」


「ちょっとまって、鏡見た?見よう、ね?」


「絶対嫌だ!」


 ジェラルドの胸ぐら掴んでしまった。が、ジェラルドが私の頬に唇を寄せようとふざけるので突き放した。





 あれ?



「よくあれで王女だとわかったな」


「愛しのハニーはどんな姿でもわかるよ。何着ても可愛いなグィネヴィアは。隠密には向かないねぇ可愛いすぎる」


 でれでれするな、二度と見るな、私の婚約者だ。ジェラルドには一瞬だって見せたくない。


「ジェラルド、腕立て伏せも出来ないのに剣は使えるんだな」


「王族たるもの自衛は万全さ。グィネヴィアは特殊だけどね。美少女すぎて王妃が心配しすぎたらしいね」


 そういえば王妃が厳しく育てたと聞いたことがある。国王が嘆いていた。王女としての作法とか立ち居振舞いのことかと思っていたがまさか……いや、待てよ




「……何故王女がここにいたんだ?」


「君を助けに、でしょ?ダーマッド」


「じゃあなんで賊だけ倒して去ってったんだ?」


「君がいないって思ってるからでしょ」


 つまり……ばれてない?てことか?


「ばれてないでしょ。ダーマッドだと知ってても拐いたくなるくらい可愛いんだから」


 こいつ女ならなんでもいいんだろうか?


「……女装にドン引きして助けるのやめた、とか」


「うわ、自己評価低すぎて引く、てゆーか君、いつもの頭の良さはどこ行ったの?王女のことになるとなんか急に残念だね」


「うるさい黙れジェラルド」


 ジェラルドこそ、いつものおとぼけはまさか芝居なんだろうか?さっき賊を一撃でたいした風でもなく倒してたし実は出来るやつなのでは。

 敬称どころか呼び捨てだしタメ口なのも実は気付いててスルーしてるのか?





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