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「姫様、ちょっとまずいことになりました」

 

 影がそっと馬車に入ってくる。ダーマッドが捕らわれているという地点まであと少し。


「何?どうしたの?何がまずいの?」


 普段はこんな性急な物言いはしない。お母様に叱られてしまう。でも、ダーマッドのことになると全く気持ちが制御できない。近付いてると思うと気が逸って慎重になれない。


「ダーマッド殿がいる屋敷ですが、盗賊に目を付けられていたようでして。辺鄙な場所にここ最近豪華な調度品が持ち込まれていたせいでしょうか。強襲の準備が整ったようです」


「どこかの手の者ではなくて?」


「雇われの可能性は否めませんが軍人ではありませんね。ならず者の集まりです。今近付くのは危険かと」


 雇われでも本当に賊あっても、どちらにしろ身動きできないダーマッドは危ない。


「それなら尚更早く助けないと!影武者を入れて。アリー、支度を」


「はい!姫様」


 アリーは準備万端ですといわんばかりに着替えに取り掛かる。



「……畏まりました。守備隊をしばし巻きます」

 本来お父様付きの影が細く溜息を付く。守備隊には悪いが影の存在と行動は極秘だ。巻いてくれている隙に影武者と入れ替わる。










 ダーマッドがいるという屋敷、というよりも古い城のようだ。帝国側に気付かれない場所で馬を隠す。城を見張っていた影が音もなく横に来る。


「ダーマッド殿が消えました」


「どういうこと?」


「帝国側の、恐らく女帝本人と思われる女性やジェラルド王子はいるのですが、ダーマッド殿が軟禁されていた部屋からいなくなっています。城からは出ていません。もしかしたら隠し部屋や地下室があるのかもしれませんが現在捜索中です」


 速やかに救出するつもりであったのになんということだ。


「いつからいないの?」


「昼過ぎに忍び込んだ時にはまだ軟禁部屋にいたのをこの目でみておりますが、現在その部屋には、その……」


「その、何?」


 言いにくそうにしている。不都合があるなら余計把握が必要だ。強めに問い質す。



「あの、……貴族と思わしき女性が」


「は?」


「帝国側の侍女ではなく、この国もしくは周辺諸国の貴婦人かと……ひっ」


 普段真顔で淡々としている影が怯えた様子を見せる。


 猛烈な苛々が隠せず一瞬出てしまった。女帝のこともそうだがダーマッドが関係するところに女性がいるというだけで自分でも引くほど激しく嫉妬してしまう。深く呼吸をして気持ちを落ち着かせる。



「ダーマッドが移動していないならその部屋に隠し扉か通路があるのかもしれないわ。もう時間がない。直接入る。二名補佐を。アリーはここで待機」







 そっと裏手から城に侵入した途端、激しい物音が響き渡る。


 城の門扉を打ち破って賊のほうが派手に侵入してきたようだ。帝国側の守備兵がそちらに気を取られてくれてありがたいが先にダーマッドを見つけねば。急いで影から聞いた部屋に向かう。



 タイミングを図る時間などない。軟禁部屋前の兵士と帝国風衣装の侍女に影がさっと薬を嗅がせた。以前してやられた甘い香りの麻酔薬だ。影が鍵を解いて開けた扉の内にさっと滑り込む。





「…………」






 固まってしまった。



 女性がいる。報告のあった貴婦人だろう。まだ若いご令嬢だろうか。






 なんとまあ……美しい……。







 女性のほうも固まっている。



 たしかに、こんな怪しい黒ずくめの覆面の侵入者が急に現れたら驚くだろう。わたくしは今、影と同じ服を着こんでいる。王女とばれてはならない。お父様に叱られてしまうのは面倒くさい。



 貴婦人ならここらで悲鳴でも上げそうなものだが、怖がっているでもなく驚き固まってこちらを見ている。


 一目で高貴な身分と分かる上質な織物のドレスの上には優雅なマントを羽織っている。頭の飾りからベールを掛け、淡い茶色の髪は複雑に編み込まれて背中に長く垂らされていた。



 なんと美しい女性だろうか。



 優しくまろやかな美貌は聖女、いや、聖母を思わせる清楚な雰囲気。高名な画家の描いた、神の子を抱く愛らしくも麗しい聖母が絵から出てきたかのようだ。ふんわりと柔らかい頬の輪郭と少し下がりぎみの眉、睫毛が深い影を落とす印象的な目尻。





 そんな場合ではないのに見惚れて……ぽーっとしてしまう。











 ドタドタとした足音が近付いてくる。ハッと我に帰った。扉が大きな音を立てて開く。


「おわわ、なんてこった……すげえ美人……」


「こりゃラッキー!傷つけるなよ!」


 ならず者が粗野な雄叫びを発しつつ女性に掴み掛かろうとする。


 許せない。



 思わず、女性を背に庇うように立つ。女性からは見えない角度で棒手裏剣を打ちならず者を二人倒す。後に続くならず者たちが部屋に入る前に倒れた。影か?



「おい!大丈夫か……えっ?」


 入って来たのはジェラルドだ。剣を手にしている。女性を助けに来たらしい。


 わたくしに気付いて目を瞠る。


「なぜ、君が……」




 影に合図して部屋を飛びでる。ちらりと振り返るとジェラルドが女性を守るように抱き締めてこちらを凝視している。明らかにわたくしが誰なのか分かっている表情。




 目だけしか出てないのに、まさかのジェラルドにばれるとは。



 

 




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