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 王都を離れてのどかな田園風景と森の光景が馬車の窓から見える。


 わたくしが都からここまで離れて出掛けるのはこれが初めてのことだ。本来ならこの景色を心ゆくまで楽しみたいところだが今はとてもそういう気分ではない。



 途中で休憩を取る為に街道を少し逸れたところで、守備隊長がわたくしの馬車に慌てた様子で近付く。


「大変ですグィネヴィア王女殿下、ゾエ将軍が脱走しました!」


 向かいに座るアリーが受け答えをする。


「そうですか、追っ手は何人付けていますか?」


「守備隊から五人です。グィネヴィア王女殿下のもとをこれ以上離れる訳には参りません」


「構いません、さらに十人追ってください。ゾエ将軍が進むに任せて、捕まえる必要はありませんが確実に追ってください」


「でも王女殿下の護衛が五人では……!」


「大丈夫です。皆怪我などしないよう慎重に進んでくださいとの姫様からの仰せです」


「畏まりました……!」





 守備隊長が馬車から離れて指示を出すのを確認してアリーがわたくしの方に向き直る。


「予定通りですね。行き先の変更はいつ指示を出しましょうか?」


「そうね、どちらにせよ引き渡しの国境とゾエ将軍の目的地は近いわ。少し手前のオリン峠辺りでいいわ」


「畏まりました。ただ少し早めに進んでおりますので先回りも可能かと」


 アリーは普段は気さくで明るく茶目っ気溢れる侍女だが状況に応じて真面目な受け答えも、当たり前だが出来る。今は有能な腹心モードだ。


「先回りだと街道を逸れないとゾエ将軍にも、見張りの帝国側にも気付かれるわ。道がわかるかしら?」


 出掛けたことがない分、王国や周辺の地図は暗記するほど頭に叩き込んでいる。だが大きな道以外はさすがにわからない。


「……でも確かに先回りの方が確実ね。仕方ないわ()()を使いましょうか。帝国の見張りはゾエ将軍を捜索する体で引き離しましょう」


「畏まりました姫様」


 アリーは雑木林の辺りをキョロキョロと見回すと座席の下からボウガンを取り出して大体の狙いを定めた。矢をセットする前に馬車に向かって人が飛び出す。




「姫様、ご勘弁くださいませ」


 黒い衣装の細身の男が馬車にそっと入ってくる。守備隊は全く気付いていない。


「道を知りたいのよ。隠れててもしょうがないでしょう?わたくしに不便のないようお父様から言い使っているのでしょうから」


「……辺境伯の所よりもダーマッド殿の所へご案内いたしましょうか?」


「知ってるなら案内して!!!なんで早く言わないの!!」


「先程判明したので、お知らせしようかと思っている所へゾエ将軍が脱走いたしましたものですから」


「早く!ダーマッドの所へ!とにかく早く行って!」




 ゾエ将軍など後から捕まえて連れて行けばいい。



 ダーマッド、怪我などしていないかしら。帝国側に無体なことをされてないかしら。心配でずっと胸が苦しい。


 早く、早く会いたい。





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