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「そのように嫌な顔をせんでもよかろう。妾とて傷つく」


 そう言いつつもタマル女帝の顔は笑顔、にやにやといったほうがいいだろう、とても楽しそうだ。私の身体にあちこち触れて熱く見つめてくる。



 本当に勘弁してほしい……



「欲しいものはなんでも与えるぞ?地位でも権力でも」


「ちょっと、それ僕よりも優遇されてない?」


「黙れジェラルド」



 私が望むのはグィネヴィア王女との平穏な暮らし、そう言いたいがきっと逆に邪魔されるに決まってる。



「私のような冴えない男など大帝国の後宮には相応しくありません」


「またまた面白いことをいう。謙虚が美徳なのかこの国では?おぬしのようないい男が冴えないなどとは、ほほほ。可笑しなことじゃ」


 タマル女帝が高笑いする。どうも帝国はいい男の基準が違うのだろうか?ジェラルド王子がいい男なら私は真逆だろう?あんな派手な顔はしてない。王子を見ると不機嫌そうな様子だがそれでもキラキラオーラが飛んでいる。


 王宮ではジェラルド王子が通ると女官やご令嬢たちが顔を赤らめて奇声を上げていた。王子が向かって来るのがきゃあきゃあという騒がしさでわかるほどだ。


 私は彼女らには全く異性としての扱いを受けず、グィネヴィア王女からどれだけ女性に不人気なのかをしょっちゅう聞かされていた。不細工というほどではないと思う……がイケメンではない。



「妾直下の精鋭五十の騎兵はおぬしに殆どがやられてしまった。誰も死んではおらぬがな。それもこの国の流儀か?」


「この周辺諸国の流儀ですね。我が国王はとくに厳しいかもしれません。それにあの騎兵隊に殺意があるようには思えませんでした」


「殺さず捕らえよと命じたが命があれば充分、とも言うたのだがなぁ」


 とてもそのような感じではなかった。このような命令だから手を抜いていたのかもしれない。自分だったらお断りだ。後宮に入れる男の愛する女の、さらにその婚約者が見たい、など。


 そういえば周りも見ずに水田に飛び込んだ者もいたな。もしやあれで必死だったのか?




「帝国周辺では鬼のように恐れられている子飼いの銀獅子隊が鬼神のような戦い振りで全く敵わぬというから、山ザルではなくゴリラか?どのようなガチムチの大男かと思ったら」


 タマル女帝は私の頬を擦りながらにやにやが止まらない。美人相手に申し訳ないが本当にやめてほしい。手を振り払って良いものか……。


「ふふ、捕らえられて来たのは少年のようなおぬしなのじゃから驚いたわ。寝ている様子はまるで赤子のようで愛らしかったのう」


「銀獅子隊のことは聞いたことありますよ。寝てたんじゃなくて殴られて気絶してたんですがね」


 帝のために育てられた帝国騎士たちのエリート隊だと聞いた。が、あの様子では見た目重視の近衛隊か何かだったのだろうか?動きはたしかに洗練されていたような。


 ほっぺが丸いことを子供の頃からからかわれてきた。今では丸くはないが、成年男性としてはふっくらとしているほうかもしれない。同僚の騎士たちのような厳つさが全くない。そのせいで年齢よりも幼く見られるが、赤子、とは……。


「おや、そのように拗ねるでない。どこが拗ねポイントかわからぬ奴じゃのう。その顔も可愛いがな。あの歴戦の猛者どもを軽くあしらう凄腕の騎士がこのような見目も良い優男とくれば惚れぬ女はおらぬ」


「僕は山ザルと聞いていたけどね。ちっともモテているようにも、グィネヴィアに愛されているようにも見えなかったけど」


 黙れ顔だけ。そう呼んでもいいのは王女だけだ。あと可愛いと言われて喜べるか。


「黙れジェラルド。顔だけのおぬしよりもよっぽどいい男じゃ。グィネヴィアのためにジェラルドを追って出たのであろう?妾は、ジェラルドにもそう言ったが、愛し合っている者をわざわざ引き離そうなどとは思ってはおらぬ」



 私とグィネヴィア王女は愛し合って……いない。



「王女にこちらに来るよう知らせてある。おぬしを迎えに来るようにな。王女とまこと愛し合っていると分かれば無理強いはせぬぞ。我が愛しのダーマッドよ」


「王女をこちらに?やめろ!」


 私の必死そうな顔を見ると嬉しそうに、タマル女帝は私の頬をむにむにした。本当に、やめろ。



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