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すでに陽は落ちているが月明かりで周囲の状況は見える。この辺りは王都にまだ近く、領地への行き帰りや騎馬訓練でよく通り土地勘もあった。
松明の小さな灯りよりも自分の感覚のほうが頼りになる。
転んだ馬と騎士を庇うように前列に出た。罠は簡単に街道の両脇の藪に縄を張っただけのものだ。あることが分かればどうということはない。
「松明を藪に投げろ!後退!」
射つ気があるならすでに遅いが的になるのは避けたい。
全騎後退させて私が残る。転んだ騎士が持ち直すまでその場で剣を抜いて出方を待つ。
藪から馬に乗った、兵士にしては軽装備の男達が躍り出た。見慣れぬ異国の、ふんわりと膨らんだシルエットの服装。格好はばらばらだが統制の取れた洗練された無駄のない動きはけして野盗などではない。
男達は前方に残っている私と二人の騎士を置いて後方に下がった守備隊を追うように進む。二十騎程度だ。
反対側の藪から更に騎兵が出てくる。やはり軽装備だがこちらは三十騎はいる。転んだ騎士がいるため動けない私を速やかに取り囲む。
確実にジェラルド王子の一味なのだろうが作戦の意図が読めない。さっさと、こっそりと逃げ隠れればよいものを何故反撃に出る必要がある?この大袈裟な数の騎兵隊はいったいどういうことだ?
意図は読めないが彼らの狙いは明らかに私だ。
最初に出た二十騎は守備隊と私の間を引き離す障壁だろう。
仲間の守備隊とは逆の方向に馬首を廻らし駆ける。軽装騎兵の湾曲した剣を薙ぎ落として囲いを突破すると街道から逸れて最速で進む。
囲っていた敵兵が追ってくる。
私に追い付こうとした騎兵のうち十数騎が馬ごと崩れ落ちた。細い畦畔に入ったのに気付かず水田に嵌まっている。水が豊富なこの辺りは沼地を整えて特別な穀物を育てているが異国人らしい彼らには未知のものだったのだろう。普通の畑と思って突っ込んだようだ。それでもまだ多くの騎兵が追ってくるのを少し広い道に出て迎え撃つ。
軽装なだけあって動きは速いが剣が軽く、私が薙ぎ払うだけで簡単に左右に散って行く。しかし数が減らない。守備隊の方へ行った騎兵も私を追って来ているようだ。
留まって相手をしていると騎兵だけでなく歩兵らしきものがわらわらと詰めよってきた。槍ではない長い武器を持っている。後ろからも歩兵に囲まれ身動きが取れない。
歩兵たちが手に持つ見たことのない武器で馬から落とされる。受け身をとって転がり歩兵を蹴散らして間を抜けて走り出るがやはりその長い武器、先が二つに割れたとても長い棒を持った騎兵に追い付かれた。歩兵から奪い取ったそれで、槍の要領で騎兵を討つ。ひとりふたりと馬から落ちていくが数にきりがない。
そのうち追ってきた歩兵に再びわらわら囲まれるとその長い二又の棒を何本も向けられて地面に押し倒された。
がっちりと取り押さえられて身動きができない。
やっと、
やっと願いが叶うというときに。
目を瞑ると愛らしい姿が浮かぶ。本当に今日の王女は可愛かった。
あのまま、思いを遂げるべきだった。
棍棒を持った歩兵に頭を殴られ意識が途切れる。




