表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/151

67話



 ――コツコツ、コツコツ。



 漆黒の石畳の回廊を一人の人物が歩いている。

 白い絹のローブを身に纏いその顔はフードで隠れているため性別は窺い知れない。



 その彼か彼女か分からぬ人物が、とある扉の前でぴたりとその歩を止める。

 高さが四メートルもある重厚な扉を潜ると、そこは厳かな雰囲気に包まれた空間が広がっている。



 謁見の間――。

 そこは王が謁見を請うた者と会うための部屋であり、公の場として扱われることが多い。



 赤い深紅の絨毯を辿って行くが、当然その先にあるのは玉座と呼ばれる絢爛豪華に作られた王のみが座ることを許された席が待ち受けている。



 数段程ある段差の最も下の段に片膝を付き平伏すると、フードの人物は声を発する。



「お呼びにより罷り越しました、陛下。本日のご用向きをお聞かせください」



 フードを被っているため声がくぐもってはいるものの、鈴を転がしたような声音はフードの人物が女性だというのを教えてくれる。

 彼女の問いに満足そうに頷いたのは精悍な顔立ちの美丈夫で、年の頃も三十代中頃といった具合の男性だ。



「よくぞ参った、ガーデンヴォルグ卿。此度は貴殿にある場所へ赴き、とある御仁をこの城に連れてきてもらいたい」



 玉座に鎮座していることから、王であることは間違いないのだろうが、その若さ故に王としては些か貫禄に欠ける。

 通常であれば、臣下である彼女がフードを取らずに王に謁見する行為は不敬であるが、彼女の身の上を理解しているため彼が気にした様子はない。



「ジューゴ・フォレスト……確か最近巷で噂になっている冒険者でございますね。恐れながら陛下、かの者をこの地に召喚せし訳をお聞きしてもよろしいでしょうか?」



 少し棘のある物言いに、相変わらずだなと内心で苦笑いを浮かべる彼だったが、その感情を表に出さずに彼女の問いに答える。



「うむ、今回の一件は我らだけでは到底対処しきれぬ由々しき事態。それ故、外部の人間にも助力を請わねばならぬと余が判断したのだ」


「陛下のお考えは理解できますし、外部の人間に助力を賜るのも吝かではございませんが、なぜよりにもよって冒険者なのですか!? 奴らは自由という名を笠に着た犯罪者予備軍でございます。とてもではありませんが、我が国の問題を解決できるとは到底思いませぬ!」


「はぁー、そなたの冒険者嫌いも相変わらずだな」



 深いため息をつき片手を頭に置きながら彼が苦笑する。

 だがその感情はどこか柔らかいもので、決して嫌悪感からくるものではなかった。

 それでも彼にとって今の国の現状を鑑みれば、冒険者の召喚は必須事項であるため、緩んだ心を今一度引き締めると、改めて彼女に厳命する。



「しかし、冒険者の召喚は我が国にとって必要な事。そなたの個人的な感情でその選択肢を捨てることは出来ぬ。サリア・ウィル・ガーデンヴォルグ伯爵、改めて厳命する。冒険者ジューゴ・フォレストに接触し、城へと連れて参れ!」


「……承知いたしました」



 未だに納得のいかない様子の彼女だったが、自分一人の我が儘で国を窮地に立たせるわけにはいかないという事も理解しているため、納得はしていないが、了承の意を示す。



 そのまま立ち上がり恭しく一礼すると、彼女は謁見の間を後にした。

 謁見の間を後にして、彼女がしばらく歩いたのちぽつりと本音がこぼれ落ちる。



「冒険者如きに我が国の窮地を救えるわけがないではないか……こんなとき、あのお方がいさえすれば……」



 サリアがぽつりとこぼした愚痴は幸いな事に誰にも聞かれなかった。

 これから自身がもっとも忌み嫌う冒険者と接触しなければならないことに顔を顰めながらも、王から直々に伝えられた命令を全うすべく彼女は城を発った。







 所変わって、ここは始まりの街のとある一軒の宿屋、俺はそこで一夜を過ごした。

 意識が徐々に覚醒していくと、いつもの見慣れている古ぼけた木造の天井が目に入ってくる。



「……」



 こんな時に決まって起こるハプニングがある。

 それは俺の隣に誰かが寝ているのだ。

 今回もどうせアキラ辺りが寝息を立てているのではと勘ぐりを入れながら視線を隣に向けるが、幸い今回に限っては隣で寝ている者は誰もいなかった。



「そうだよ、これが普通なんだよ……」



 誰に言い訳をしているんだと苦笑いを浮かべながらも、背筋を伸ばし身体の調子を確かめる。

 調子はそんなに悪くないので、さっそくだが確認すべき事案を片付けていくとしよう。



 今回始まったFAO初のイベント【冒険者たちの武闘会】、俺はそこで死闘とも言うべき戦いを制し様々な新要素を獲得した。

 まず確認すべきは、修得できるようになった職業枠で新しい職を手に入れるところからだ。



 どういった条件で獲得できたのか皆目見当は付かないが、新たに修得できる職業枠が一つ追加された。

 さてどういった職業を手に入れるべきかはもうすでに大体の当たりを付けている。



 今回のイベントで戦ったキメイラ戦で俺の弱点ともいうべきものが浮き彫りとなった。

 それは一体何か……答えは至ってシンプル、遠距離攻撃だ。



 今までの俺は剣士の職業を主体とした、近接戦闘メインでの戦闘方針を取ってきた。

 いや、取らざるを得なかったというのが正しい表現だろう。



 キメイラ戦においては遠距離攻撃がない事を危惧し、鋼合金で作った手投げナイフで急場を凌いだものの、根本的な解決には至っていないのが現状だ。



 だからこそ、今回は遠距離攻撃を主体とした職業を選択すべきだと俺は考えた。

 となればだ。どういった類の遠距離での攻撃手段を選択すべきか、次の論点はそこに移ってくるわけだ。



 弓やボウガンなどの遠距離攻撃専用の武器を使用して戦うのか、それとも魔法という武器を使用しない手段での遠距離攻撃で戦うのかどちらかとなる。

 変わり種を挙げるなら、魔力を使って召喚獣を呼び寄せ、呼び寄せた召喚獣を使役して戦う召喚士という職業もあるにはある。



「でも武器は剣を使っていきたいから、他の武器を使うとなるとレベルに偏りが出てくるか?」



 俺は新たに職業を獲得するためメニュー画面から職業取得のウインドウを開く。

 数十種類の職業名の一覧が表示され、あとはこの中から選択するだけだ。



 このFAOにおいてより強くなる方法は取得した職業のレベルをバランスよく上げる事だ。

 そのためには、できるだけ経験値を得るための手段を職業別に分けておくのがベストだと今までの経験でたどり着いた俺なりの結論だ。



 例えば剣士のレベルを上げるためには剣を装備して戦闘をこなさなければならない。だが同じ“戦闘”という手段を用いてレベルを上げる弓師という職業を取得した場合、剣士のレベルを上げる時には剣を装備し、弓師のレベルを上げる時には弓を装備しなければならなくなってくるのだ。



 その結果、使用する武器に偏りが生じてしまい、どちらか一方のレベルが極端に高くなり、もう片方の職は低いままというアンバランスなレベル構成になってしまうのが、今のプレイヤーの現状だ。



 そこで「今回取得する職業をどうするのか?」という話に戻ってくるわけだが、先の説明でもう答えは分ったのではないだろうか。



「魔法だな……」



 俺はそう呟くと、職業選択一覧に表示された【魔導師】を選択する。

 すると警告のメッセージと共に選択肢が表示される。




 “新たに取得する職業は【魔導師】でよろしいですか?”


 【はい】  /  【いいえ】




 俺は迷うことなく、はいを指でタップする。

 するといつもの珍妙な効果音と共にメッセージが表示された。



『新たな職業【魔導師】を修得しました』



 これで新たに魔導師の職が加わった。これからは魔法剣士で無双しまくりだぜ。

 次は職業書を使って新たにもう一つ職を手に入れていくとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 宿の一人部屋に入り込めるとか、それなんてスキル? スキル無しのプレイヤースキルでやれるのか……。
[気になる点] 『冒険者嫌い』に任せるなんて無能王だな……。 まさか、あのお方がジューゴに似てる?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ