5話
「おい、そいつは俺が目ぇ付けてた獲物だぞ!」
「へっへん、こういうことは早い者勝ちなんだよ」
「おいまた沸いたぞ、早くしないと他の奴に取られちまう」
「あぁ、待ってくださいですぅ~」
今のフィールドの現状を現実の世界で説明するのなら有名花火大会の会場と同じ状況だろう。
人、人、人、人、どこを見渡しても人で溢れかえっていた。
モンスターもちらほらと見かけるが、プレイヤーの人口密度が高すぎるため瞬殺されてしまう。
まるで人がごみのよ……コホン、これは言わないでおこうか、どこぞのアニメ制作会社に怒られそうだ。
「これがVRMMOの特色なのか?」
子供の頃に両親に連れられてお祭りなどのイベントに連れて行ってもらった後家に帰ってきた母がよく「人を見に行ってたみたい」とぼやいていたが、この状況もそれに近い物があるな。
少なくとも数百人という規模のプレイヤーが一定間隔で出現するモンスターを狩っていく様は面白い光景ではあったが、ずっと見続けていたいと思えるものではないので俺はこの後どうしようかと悩んでいた。
「そうだ、アイテム採集はできないか?」
そう思ってバトルフィールドから少し離れた小高い丘を見るとここにも数十人というプレイヤーが地面に視線を向け何かを探しているようだった。
考えることは皆同じで、モンスターとのバトルが無理ならせめてアイテムを採集しようという考えに行き着いたプレイヤーが薬草などを採集しているのだろう。
「うーん、モンスターと戦うよりも競争率は低いけど、それでもかなりの人数だな」
参った、はっきり言ってまさかこれほどとは思わなかった。
VRMMOという作られた一つの世界、そこに他のプレイヤーが自分と同じ場所でゲームをプレイしている。
一昔前の据え置き型のゲームでコントローラー片手にピコピコやっていた時のゲームとは明らかに違う状況に俺は戸惑いを覚えた。
――クィッ、クィッ。
まあ今回は街の外のフィールドを見るというのが目的だったし、一応それも達成できたので最早ここにいる意味はないのだが、どうしたものか。
「あ、あのぅ~、すっすみません……」
まだ行っていない施設はあるけど、おそらくそこも人でごった返しているのは火を見るよりも明らかで
まともな活動ができるかどうか怪しいところだ。
――クィッ、クィッ。「す、すみませんっ」
だがもしかするとどこかの施設が開いているという可能性もワンチャンなくはない。
その可能性に駆けて施設を巡ってみるというのも一興か?
「うぅ~、きっ気付いてくれないですぅ~」
「うん?」
さっきから外套の裾を引っ張る感覚があったがどうやらこの後のプランを立てているのに意識を向けていたため気付かなかったようだ。 そこにいたのは一人の女の子だった。
艶のある金色の髪はショートボブに切り揃えられ、丸くて大きな栗色の目を持つ少女だ。
年齢は背格好と纏っている雰囲気から中学生くらいだろうか、その見た目だけなら小学生と言われても納得するのだが、それを否定するものを彼女は持っていた。
(で、でかいな……)
思わず口に出そうとした言葉を俺はギリギリのところで押し止めることに成功する。
なぜ俺が彼女を中学生と断定したのか、それは彼女のおっぱ……いや、胸部だ。
明らかに小学生が持つには分不相応な膨らみを持っており、逆に小学生だとするならその類の病気か何かではないかと疑ってしまうほどの大きさだったため俺は彼女を中学生と断定したのだ。
握りこぶしを両手に作り人差し指の第二間接部分をちょんちょんとくっつけたり離したりする可愛らしい仕草をしていた彼女と不意に目が合った。
「俺に何か用かい?」
「ふぇっ、あの、その、わたしミーコって言います。初めてこのゲームをプレイするんですけど、どうすればいいのか分からなくて、そのぅ~」
ああ、俺と同じ初心者ってところか、どうすればいいのか分からなくて困っていたところに俺がいたからどうすればいいか聞いてみようと思ったわけだな、ふむふむ。
だが残念ではあるが俺も君と同じ初心者なのだよ。 君に教えてあげられることははっきり言ってないのだよ。
「あー、その、だな。実は俺もこのゲーム始めたばっかでさ詳しいことはよくわかってないんだよな。だからすまないけど、君に教えてあげられることはないと思うよ」
「あっ、そっそうですよね。このゲームまだ配信されたばかりでしたね。どうしよう……」
これはこのあと「一緒に付いて行ってもいいですか?」パターンじゃね?
確かにこんな可愛い子と一緒に行動できるというのならほとんどの男は喜ぶだろう。
しかし、いくら彼女がけしからん胸を持っていようとも俺にとって中学生は守備範囲に入ってはおらんのだ。
そういうのは一部の特殊な恋愛感情を持った人たちにお任せするとしよう。
「じゃあ俺はこのあと用があるから、これで」
「あっあの!」
そう言うが早いか俺は踵を返して街の方へと戻っていった。
余計なトラブルを防ぐためにも単独で動くことは今の俺には必要なことだ。
ましてやここには癒しを求めに来ているんだ。 自分のペースでゆっくりとやっていきたい。
突き放す形になってしまい少々冷たいかとも思ったが、他人の事を気にかけているほど今の俺には心の余裕はなかった。
「……」
ジューゴがその場からいなくなって数秒後、ミーコは人でごった返すフィールドに目を向ける。
とてもではないがあの人だらけの所に入っていくほどの勇気は彼女にはなかった。
視線を下に一旦落とし、何かを決意したように一度頷く。
そして、彼女は歩き出す。 ジューゴが歩いて行った方角を目指して――。
フィールドの惨状?を見た俺はとりあえず街の中を歩いている。
石畳でできた街並みを見ながら何をしようか思案しているとNPCがやっている露店があったのでちょっと話をしてみることにした。
「あの、すみません」
「いらっしゃい、何にしようかね」
そこにいたのは恰幅のいい中年の女性だった。
堂々とした接客態度には長年やって来た貫禄さえあり【ザ・お母さん】という言葉が良く似合うNPCだ。
ちなみにだがこのフリーダムアドベンチャー・オンラインことFAOは発売前の情報としてNPCに組み込まれたAIの知能の高さも売りにしていた。
それこそその知能指数の高さからほとんどプレイヤーと何も差がないほどだと言われていた。
喜怒哀楽を持ち、感情を豊かに表現できる様子はとても機械仕掛けのものだとは思えないほどだ。
とりあえず俺は、客じゃないという事を伝えたあとこの町の施設について聞きたいとお母さん風の中年女性に聞いてみた。
「そうさね、所々に宿屋とかうちみたいな露店や道具屋、あと装備屋なんかもあるけど他には訓練をするための訓練場やあとクエストなんかが受けられる冒険者ギルドなんかもあるね。他に目新しいものと言ったら工房やフリーマーケット市場なんかかねぇ~」
「フリーマーケット?」
「そうだよ。 冒険者が自作した物を売買する場所さね。あたしらNPCは役場で申請した場所に露店を開けるけど、それが冒険者もとなれば人数が多すぎて場所が足りないだろ?それを解決するためにあらかじめ決まった場所をフリーマーケットの会場として提供してるって寸法さ」
「なるほど」
つまりNPCは街の決まった場所で露店を開けるがプレイヤーである俺たちはそれができない。
ちなみにNPCの人たちは俺たちプレイヤーの事を【冒険者】と呼んでいるらしい。
仮にプレイヤーの数が少なければNPCと同じ場所で露店を開けるのだろうが、三十万という膨大な数では
とてもじゃないが場所が足りないだろう。 まあ三十万人全員が露店を出すとは限らないけどね、ハハっ。
とりあえず彼女にお礼を言いその場を後にする。
彼女のお陰で大体のこの街の主要な施設はわかったが問題はどこから行くかだ。
道具屋や装備屋はお金がないから無理だし、工房やフリーマーケットは素材や食材がないからこれもダメ。
となれば消去法で訓練場か冒険者ギルドになるわけだが、どちらに向かおうか?
「訓練場か、人多そうだなーー」
だが、現状お金も素材も持っていない状況ではできることが少ないため、ダメもとではあるが訓練場に行ってみることにした。