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幕間「表と裏で暗躍する者たち」



 ここは始まりの街に設営された円形闘技場コロシアムまで徒歩数分に位置する名も無き宿。その酒場にとあるパーティーが話し合いを繰り広げていた。



「逃げられただと? お前から逃げきれるプレイヤーなど早々いないはずだ。ジューゴ・フォレスト……それほどの手練れだったか?」


「実力はそこそことみて間違いないわね。ただ、わたしたちに匹敵するかと言えば、そこまでじゃないけど……」


「含みのある言い方だな。それ以外の何かがある……とどのつまりそういう事か?」


「で~も~、実力がないなら足手まといになるんじゃないかな~」


「俺もガイさんとルルシーちゃんの意見に賛同っすね。実力は俺らよりも劣るっすけど、実力とは別の何かがある。アキラ姐さんが言いたいのはそういうことっすよね?」



 現在最前線で活躍しているプレイヤーがこの光景を目の当たりにすれば近寄りがたいと感じることだろう。

 酒場のテーブル一つを囲んで会話をしているパーティーはただのパーティーにあらず。彼らこそ最前線のさらに先頭を走っていると言っても過言ではない名の知れた攻略集団【ウロヴォロス】の面々だ。



 フリーダムアドベンチャー・オンラインが配信を開始する以前に存在した数多くのMMORPG、そのゲームにおいて最難関クエストを尽く攻略してきた伝説の集団が存在した。それが今話をしている彼ら五人組だ。



 リーダーのハヤト、攻撃魔法を得意とするアキラ、常に敵の攻撃を受けパーティーの壁役となるガイ、支援魔法や弓での攻撃を主とするルルシー、そしてパーティーのムードメーカーであるチェリスの五人だ。



「でも彼のプレイスタイルとわたしたちのプレイスタイルはまるっきり違うから仲間にはなってくれないでしょうね。けど個人的には仲良くしておきたいのよね、彼とは」


「惚れたのか?」


「それはないだろハヤト、アキラの二つ名を思い出せ」


「【氷の女】っすね」


「敵を容赦なく殲滅する残虐さと、誰にもなびかない氷の心を持った魔女……て言われてたかな~。言い寄ってくる男の心を尽く粉砕してきたマインドクラッシャーとも呼ばれてたね~」 



 ハヤトの「惚れたのか?」発言を皮切りにガイ、チェリス、ルルシーの順にそれぞれ“忌憚なき意見”を述べていった。

 アキラにとってこういうやり取りは日常茶飯事のため軽く受け流し別の話題に切り替えることにした。



「そう言えば、ハヤト。武闘会の準備はもう整ってるのかしら?」


「ああ、問題ない。何なら今から戦ったっていいくらいだ」



 今回のイベントである武闘会はデモンストレーションの一環として運営がプレイヤーを吟味し、運営目線で目立っていたプレイヤーを三人選出している。

 一人目はご存知ジューゴ・フォレスト、そして二人目は【ウロヴォロス】のリーダーであるハヤト、最後の三人目は未だ名乗り出る者はおらず分かっていないという状況だ。

 公式サイトのアップデートの追記があり、プレイヤーの選出に関して全プレイヤーの中から三人選出されるという追加情報が公開されたため、掲示板では連日その三人の特定に躍起になっている状態だった。



 ちなみにジューゴとハヤトは自ら名乗り出たわけではないが、プレイヤーが情報を出していった結果この二人の名前が多くのプレイヤーから挙がったためにこの二人は確実だろうというのが掲示板での共通認識として認識されていた。



「ハヤト以外に選ばれた他の二人のプレイヤーって誰なんすかね?」


「一人はジューゴ・フォレストだっていう話らしいぞ」


「確かに、彼なら選ばれていても不思議はないわね」



 ジューゴ本人がこの場にいたら「そんな大したことねえし」と突っ込みたくなるような意見が飛び交う中、ルルシーが口を開く。



「てゆ~か~、運営ってさ~どういう意図でこのイベントを仕掛けて来たんだろうね~?」


「どういうことだ?」


「意図も何もイベントはイベントじゃないっすか? それ以外に何もないっすよ」


「言われてみれば最初のイベントとしては少し妙ね」



 この違和感は数多くのMMORPGを攻略してきた彼らだからこそ気付けた違和感だった。

 大概こういったMMORPGでの最初のイベントといえば新天地(もしくは「新たなマップ」)の実装がほとんどでこういったプレイヤーの腕を試す類のイベントなどは配信開始からしばらく間を置いてから実装されることが多い。



 その理由としていきなりこういったイベントをやってもプレイヤーのレベルが低いためイベント自体に参加するプレイヤーが少ないということだ。

 こういったイベントを仕掛けるのならその前にゴブリンやスライムといった特定のモンスターが大量発生するイベントで経験値を稼がせ、プレイヤーの平均レベルの底上げを図るものなのだ。

 バーゲンセールを給料日前と給料日後にやるのでは給料日後の方が売り上げは必然的に多くなる。それと似た感覚だ。



「このタイミングで仕掛けなきゃいけない不都合ができたのか、あるいは……」



 そこで一旦言葉を切って沈黙するハヤトにしびれを切らしたチェリスが問いかける。



「あるいは、なんすか?」


「……運営自体がこの手の類のイベントの流れを理解していないとかな。それに今俺たちがやってるこのフリーダムアドベンチャー・オンラインはVRMMORPGであってMMORPGじゃねえ。そこの違いも加味しておいた方がいい」


「結局ぅ~運営の思惑は神のみぞ知るってやつかな~?」


「どちらにせよ我々のやることに変わりはない。そうだろ?」


「そうね。今は時が来るのをただ待ちましょ。その時になれば運営の思惑も見えてくるでしょうしね」


「はあー、俺腹減ったっす……」



 シリアスを決め込んでいる他の面々とは裏腹に実にマイペースなチェリスに呆れる他の四人だった。

 【冒険者たちの武闘会】果たしてこのイベントに運営の思惑はあるのだろうか……。







 時は少し遡り、ジューゴがベルデの森で出会ったユウトが引き連れてきたモンスタートレインを相手に孤軍奮闘している頃、自分を犠牲にしてその場から逃がしてもらったユウトは街に戻っていた。

 通常であれば宿でログアウトをしゲームを終了するのだが、彼の取った行動は通常のログアウトとは明らかに違っていた。



 彼は人気のない薄暗い路地に入ると右腕に嵌められた腕輪を操作する。するとウインドウが現れ「ログアウトしますか?」という選択肢が出てくる。

 その選択肢に“はい”と答えるとフリーダムアドベンチャー・オンラインの世界から現実の世界へと戻って行った。



 VRコンソールのカプセル内で目を覚ました彼は体の具合を確認し、カプセルから這い出る。

 そこには大小様々な数多くのコンピュータの液晶画面が設置された制御室のような部屋だった。



 ――クチャッ、クチャッ。



 静寂が支配するその部屋で聞こえてきた奇妙な音、その音の正体は部屋にいた人物がガムを咀嚼する音だった。



「センパーイ、お疲れーっす。状況はどんな感じっすか?」



 こちらに顔を向けずひたすら液晶画面に視線を向け何かを確認しながら問いかけてきた。

 二十代後半くらいのぼさぼさの金髪のショートヘアーに黒目の、見た感じではあっけらかんとしていそうな佇まいで一見すると男性と見間違えそうだが、白衣の下に着ているニットのセーターを押し上げる二つの膨らみはその人物が女性であると物語っていた。



 彼女の名は結城響華ゆうききょうか、VRMMORPG【フリーダムアドベンチャー・オンライン】を運営する会社の開発部のチーフマネージャーを務める人物だ。

 たった今ログアウトしてきた彼女が“先輩”と呼ぶ人物が口を開く。



「問題ない。全て想定の範囲内で事は進んでいる。順調過ぎて逆につまらないくらいだよ。そっちはどうだ響華?」


「んー、プレイヤーの連中薄々気付き出してるやつもいるみたいっすね。どうするんすか?」


「気付いていると言っても恐らく推測の域を脱していないのだろう? だったら何も問題はないさ」


「それはそうっすけど……プレイヤーはいいにしても、もうそろそろ学会にバレると思うんすけど? あいつらもあたしらのやってることに気付かないほど馬鹿じゃないでしょうしね」


「ふふ、バレたところで問題はない。彼奴等が事を起こす前に僕の実験は終了しているのだから……この天才物理学者、赤羽悠斗あかばねゆうとのな」



 赤羽悠斗、数年前に時間軸の流れ特にタイムトラベルに関する論文を発表したことで注目を集めたものの、そのあまりの突拍子もない内容に学会から批判を受け行方不明になっていた天才物理学者だった。

 

 

 三十代前半くらいのプラチナブロンドの短髪に一見穏やかで優しそうな表情をしているものの、どこか影を纏った雰囲気の人物だ。

 続けて悠斗が響華に向かって熱弁を振るい始めた。



「いいか響華、人類は常に新たな可能性へと到達してきた。火を使い、道具を発明し、それをさらに昇華させてきた。だからこそ今度は僕が新たな時代のパイオニアとなるべきなのだよ! そのためにも僕はこの実験を必ず成功させる」


「はあー、その言葉もう耳にタコができるくらい聞いてるっすよ。聞き飽きたっす」


「飽きても構わん、後輩は先輩の言葉を聞く義務があるのだからな」


「そんな後輩嫌っすよ! せめてご飯くらい奢ってくださいよ」


「底なしの胃袋を持つような人間に奢る飯などない!」



 そう言いながら“ビシッ”という効果音が出そうなくらい人差し指を響華に向ける。

 余談だが、以前悠斗が響華に飯を奢ったことがあったのだが、その時際限なく注文をした結果財布の中身がすっからかんになってしまったという事件があったのだ。

 その時から悠斗は学習した“響華に飯を奢ってはならない”と……。



「そんなことよりも次のイベントの実装まだ終わってないんすから手伝ってくださいよー」


「何を言っている? 僕は自分の研究で忙しいんだ。そんなことくらい君一人でやりたまえ」


「ひどっ、センパイそりゃないっすよー! 大体今回のイベントだってセンパイが最初に言い出したことじゃないっすか」


「うん? なんの話だ? 身に覚えがないぞ」


「うわー、この人忘れちゃてるよ……」



 今回のイベント【冒険者たちの武闘会】は彼赤羽悠斗が提案したものだった。

 プレイヤーたちの実践データを得るために実戦形式を用いた生のデータが欲しいと彼から要請があったために急遽実装されたイベントだったのだ。



「ああ、そうだったな。じゃあそういうことだからデータの収集は任せたぞ。僕は研究で忙しいからこれで失礼する」


「ちょちょっと待ってくださいっすよ。こっちはこっちで大変なんすから手伝ってくださいって!」



 そう言うと悠斗は響華の元まで歩み寄るとボサボサの頭に手を置き撫で始めた。

 いきなりのことで驚いてしまった響華だったが、悠斗のされるがままに身を任せてしまっていた。

 そして、ひとしきり撫でると彼は一言だけ言い放つ。



「いつもすまんな。お前にばかり頼ってしまって。やはりお前がいないと僕はダメなようだ……」



 これがいつもの彼の手なのだ。

 相手に無理強いをするときにいつも言わない真摯な言葉を投げかけることによって自分の要求を通してきた彼の技のようなものだ。

 いつものワンパターンな手なのだが、その技を受けた響華はといえば……。



「いっいえ、センパイの役に立てるのならあたしとしても嬉しいっす」



 そう言って白い歯を剥き出しにして照れ笑いをする響華に悠斗は心の中でいつもこう思う。



(全く、なんてちょろい奴なんだ……)



 そう思いつつも彼女には面倒事を押し付けている分どこかで返さなければならないと思いつつその場を後にする悠斗だった。

 一方の彼女と言えば悠斗がいなくなった後彼に撫でられた部分に手を当てながらニヤニヤと笑っていたのであった。






 【作者のあとがき】



 お疲れ様です。こばやん2号です。

 第五章はこれにて終わりですが今回少し中途半端な部分で切ってしまいました。

 個人的には全ての準備が整った時点で第五章を終えたかったのですが、予定通りにはいかないものですね……。

 さて、前回のあとがきで「好きに書かせてくださいよ」と言いましたが、そのお願いが聞き届けられたのかその後感想があまり書かれませんでした。



 それはそれでいい事なのですが、感想が無かったら無かったで読者のリアクションがないので楽しんでくれているのかわからないという問題が出てきてしまっております。

 わがままな話ですよね。自分の書いたものを否定されたくはないが読者がどう思っているのかは気になる、自分でこのあとがきを書いててホントわがままだって思いますよ。



 とにかく俺は俺の感じたままにこれからも書いていこうと思いますので生温かく応援してくだされば幸いでございます。

 少し長めになってしまいましたが、これにて第五章のあとがきとさせていただきます。

 次回第六章いよいよプロローグで書いた武闘会が始まります。乞うご期待!!  

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