30話
話が通じるとわかった俺はそのロックフェルスに詳しい事情を聞くことにした。
そいつ曰く前まで棲み処にしていた場所に様々なモンスターが棲みつくようになりその争いに敗れてこの鉱山にまでやって来たらしい。
その時転がって移動していたのだが、勢い余って鉱山の一部を破壊してしまいそれを見た作業員が凶暴なモンスターと勘違いして逃げ出してしまったらしい。
弁明しようにもそれ以降人がやって来ることはなくこうして人が来るのを待っていたというのが奴の言い分だった。
「せやからこうして人がやって来たのはワイにとっても好都合な展開なんやわ」
「そうか、念のために聞くがお前は人に危害を加えるとかはしないんだな?」
「そんなん当たり前やろ、俺みたいな無害なモンスターはおらへんで」
にやり顔で言われても説得力の欠片もないが、今こうして話をしていることが奴の言葉を証明することになっているためひとまずは奴を信用することにした。
何か妙な真似をすればそれこそ実力行使で排除すればいいだけの話だしな。
「有害なモンスターでないとわかったのはいいが、もうこの鉱山に鉱石が残ってないとなるとどっちに転んでも無駄足だったかもな」
「でもまだ少しなら残ってるんでしょ? それをもらっていけばいいじゃない」
「そうだな。今回の調査の報酬という形でもらうというのはどうだろうか?」
俺の言葉にアカネとカエデさんがそれぞれ意見する中ロックフェルスが口を挟んだ。
「ちょっとちょっと兄さん方、この鉱山にもう鉱石が残ってへんとか言うてますけど、この鉱山にはまだたくさんありまっせ?」
「なんだって、嘘を言うなよ。地質学者が調べたらもうほとんど残ってないって話だったんだぞ?」
「それは人の手で調べられる範囲においてはもう残ってへんちゅう話でまだまだ人の手が加わってないところにはぎょうさん残っとりますわ」
「なるほど、じゃあ聞くがお前はその人の手が加わっていない場所まで俺たちを案内できるか?」
「そんなもん簡単ですわ。ワイに付いて来なはれ、案内したるさかい」
ロックフェルスの案内に従って、一本の坑道を歩いていると行き止まりになっている場所に辿り着く。
俺たちが怪訝に思い奴に問いかけようとしたその時、自らの体を回転させたロックフェルスは回転したまま行き止まりの壁に体当たりする。
岩で形成された体を高速で回転させた状態で壁にぶつかれば当然その壁は脆く崩れ去る。
そのまま掘削が進んで行くと大きな空洞となっている場所に出た。
「暗いな、誰か明かり持ってないか?」
「あたしはないよ、カエデは?」
「確かランタンがあったはずなんだが……」
そう言うと収納空間からランタンを取り出し明かりを点ける。
灯されたランタンが映し出した場所は奥行と幅が五メートル四方の高さが4メートルほどのドーム状の何もない空洞だった。
だが壁面や地面には露出した数多くの鉱石が点在している。
「こりゃすげえ、こんな場所があるとは」
「キラキラしてとてもきれいだ」
「こんな場所があるなんて」
俺、カエデさん、アカネの順にそれぞれ感想を呟いているとロックフェルスがこちらに向き直り自慢気に話す。
「どや? この鉱山にはこういう場所が数えきれんほどぎょうさんあるんや。これでワイが嘘を言うとらんって信じてもらえたやろ?」
「確かにまだこういう場所があるってんならこの鉱山はまだまだ死んでないのかもな。ところでロックフェルス、ものは相談なんだが俺から提案したいことがある」
「うん? なんや?」
俺はロックフェルスが害のないモンスターと見込んで奴に依頼をした。
その依頼とはこの鉱山でまだ人の手が加わっていない鉱石が取れる場所に案内をするという役目だ。
いくらモンスターとはいえ無抵抗の者に危害を加えるつもりは毛頭ない。
むしろ我々にとって無害な存在で役に立つというのなら共に協力関係を築くこともありなのではないだろうか?
我々は殲滅者ではないのだ。
敵意がない、害意がないというのならこちらとしても戦う理由はない。
モンスターとはいえ協力関係を築けるのなら力を合わせていけばいい、俺はそう思う。
聞く人が聞けば甘い考えなのかもしれないが、種族の違いや文化の違いがあるだけで争うなど愚かな事だ。
異なる種族、異なる文化、異なる価値観を持っているからこそ、我々人間には及びもつかない発見をしたりする。
鉱山に鉱石が残っていないと判断した人間とモンスターである奴から見ればまだまだ残っているという意見、今回の一件でもその事が如実に表れている。
だからこそ我々人間と異なる価値観を持った奴と一緒に作業をする事で新たなものが見えてくるかもしれない。
俺はそう思いロックフェルスに提案してみたのだがこれを奴は快諾した。
「ワイとしても、この鉱山に住まわしてもらえるんなら願ったりかなったりやし、残ってる鉱石の場所を教える事くらい簡単なことやさかい構わへんで」
「決まりだな」
こうして鉱山に棲みついたと言われたモンスターの調査及び対処についてはとりあえず解決の目途は立った。
あとはこのことを棟梁に伝えるだけだが、果たして受け入れてもらえるのかが少々心配だ。
そんな事を考えながら俺たちは一度棟梁の元に戻ることにした。
「こっコイツが例のモンスターか? なんかへんてこな顔してやがるな」
「何言うてまんのん、こんな色男捕まえといてよお言うわ!」
あれからロックフェルスと共に棟梁の元に戻った俺たちは事の顛末を棟梁に話した。
最初ロックフェルスを見た棟梁は軽いパニック状態に陥るも俺たちが宥めすかすことでなんとか落ち着きこうして今会話している。
「てことで、このロックフェルスの案内に従って付いて行ったらまだ未開拓の空洞に行き着いたわけです。このモンスターの言う通り鉱山にはまだまだ取れる鉱石が残っているということです」
「にわかには信じられないが、兄ちゃんたちが嘘を言うメリットもない以上信じざるを得ないな」
「ちなみに今まで人間たちが採掘した場所にあった鉱石は大体やけど、この鉱山に存在する鉱石全体の三割くらいっちゅうところやな」
「三割だと!? そんなにまだ鉱石が残ってるのか」
信じられないといった表情を見せる棟梁だったが、棟梁の問い詰めに相変わらずのにやり顔でロックフェルスが頷く。
ともあれ棟梁としても、まだこの鉱山に多くの鉱石が眠っているという事はそれだけ仕事が残されているという事だ。
仕事があればいなくなった作業員たちも戻ってくるだろうし、棟梁にとっても願ってもないことだったが、このロックフェルスが無害なモンスターだという事をどう証明するかが 今の棟梁の目先の課題だ。
棟梁もそれがわかっているのかさっきからうんうんと呻っていた。
まあ誤解なんてちょっとしたことですぐ解けるだろうし、それが無理でも時間がすべて解決してくれるだろう。
信用を得るのには十年、信用を失うのは一瞬という言葉があるが、今回は前者を実行するだけだ。
すぐには無理でも時間を掛ければうまくいくこともある。
まあ本人の頑張り次第で結果も変わるだろうが、一日でも早くロックフェルスには頑張って欲しいところだ。
棟梁にも事の顛末を話したし、これでようやく当初の目的である鉱石を手に入れるという目的を果たせそうだ。
俺はそう思いながら棟梁と共にロックフェルスが掘り当てた空洞に戻ることになった。




