25話
工房に詰め寄っていたプレイヤーたちが口々に言う掲示板を確認する。
【攻略雑談掲示板】 Part073
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246:ニコルソン
くそーデスペナ食らっちまった~、せっかく溜めたオイラの経験値が~。
247:じゃじゃ馬娘Mk-Ⅱ
>>244 だから言ってんじゃん! 普段は履いてないって!!
ノーパン族を舐めたらイカンぜよ!
248:ほろ酔い伯爵
>>246 アンタこれで何回目だよww てかそんだけデスペナ食らってよくレベル維持できてるな。
249:ミモミモ
ここで唐突ながら質問タイム~、結局みんなどの職業選んだ?
ちなみにわたしは僧侶と魔導師と錬金術師だお。
250:るるるのお姉さん
>>249 あたしは魔導師と剣士と弓師かな。遠距離を魔導師と弓師でカバーして近距離は剣士でやってる~☆
251:狼中年
>>249 俺は槍術士と修行僧と斧術士の完全近接戦闘専門でやってるぜ(>_<)ノシ
252:パパラッチ65
>>249 俺は忍者と短剣使い、あとは狙撃手だな。
253:ニコルソン
>>248 六回目ですが何か?( ー`дー´)キリッ もう元のレベルに戻すのなんて息をするかのように慣れちまったぜ(^^)/
>>249 俺は盾術士と斧術士と騎士でタンカープレイをやってるぜ。
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(その後も自分たちの選んだ職業発表会が続き……)
489:ドマリリス
結局のところ戦闘系の職業が八割、サポート系の職業が二割ってところか?
490:ニックスクラッチ
生産職ってほとんどいねえよな、なんでだ? そんなに人気ねえのか?
491:ゲジゲジ
まあ“フリーダムなアドベンチャー”っていうタイトルだし、戦闘職が必然的に多くはなるよな。
俺の知り合いも生産系の職に就いてる奴は一人二人くらいだし。
492:ニコルソン
うっは! またデスペナ食らっちまった~(/ω\)
493:ほろ酔い伯爵
>>492 死にすぎだろww お前は神〇特攻隊か!!
494:メタリック三等兵
>>490 人気がないっていうよりも初めてのゲームだしみんな手探り状態でプレイしてるからとりあえず戦闘職で固めて様子を見てみようって人が多いのかもね。
生産系で今のところ見かけるのは薬剤師と錬金術師くらいかな。
495:ニコルソン
>>493 引いたら負けかなと思ってますが何か?(`・ω・´)b
496:メリルリルルリ
あのー初心者なんですけど質問いいですか?
497:ドマリリス
>>496 どうした、なにか分からん事でもあるのか?
498:メリルリルルリ
わたしさっきモンスターにやられてデスペナ食らっちゃったんですけど、デスペナって全職業がレベル1ダウンするじゃないですか?
それってレベルが高くなっても1しか下がらないんでしょうか?
499:メタリック三等兵
498の認識で間違ってないと思うよ。
おそらくだがまだ配信されて日が浅いから運営も様子見として全職業レベル1ダウンにしてるって感じだろうな。
今後のアプデで間違いなく変更してくると思うぞ、大体全職業レベル1ダウンとかヌルゲーにも程があるしな。
500:ほろ酔い伯爵
ああそれ俺も思った。このゲームのデスペナヌル過ぎにもほどがある。
俺が昔やってた○○〇ウィザーっていうMMORPGなんか一度のデスペナで装備品以外のアイテム全ロストに所持金の半分消失とレベル3~5分の経験値消失だぜ?
501:ミモミモ
>>500 ああ、そのゲームわたしもやってました~確かにあのゲームは歴代でも最悪のデスペナでしたよね~
502:ニックスクラッチ
うわーなんだよそのデスペナ鬼畜にも程があんぞ。
それ聞いたら確かにこのフリーダムアドベンチャー・オンラインのデスペナはヌルゲーだわ。
503:ニコルソン
>>498 君も俺と同志という事かっ!?
504:ほろ酔い伯爵
503と同じにされたら498が可哀そうだろww
それとデスペナ食らう奴がお前と同じ性癖の持ち主だと思うなよww
505:パパラッチ65
至急至急!! 今とある装備屋に入ったらとんでもないものが売られてた!!
506:ニコルソン
詳細よろ~
507:ミモミモ
むむ?何かな何かな?
508:るるるのお姉さん
今お風呂から上がって戻って来たけど何事かしら?
509:じゃじゃ馬娘Mk-Ⅱ
>>508 てことは今ノーパンなのっ!?(はぁ、はぁ)
510:狼中年
>>509 はいはいそこーちょっと黙ろうか? で505何があった、報告せよ。
511:パパラッチ65
結果から言うと鉄の剣が売られてたんでけどよ、それがとんでもねえ性能でな攻撃力が23とか24とかある代物なんだよ。
512:ニックスクラッチ
ファッ( ゜Д゜)!? ナニソレ? 鉄の剣って攻撃力18とかじゃないの?
513:メタリック三等兵
はいはい嘘乙。そんな装備NPCが作れるわけねえじゃん。
514:るるるのお姉さん
そうねそんな鉄の剣見た事ないわね。
515:狼中年
目立ちたいお年頃なんだよ511はそこ察してやれよ。
516:メリルリルルリ
>>515 ww
517:パパラッチ65
嘘じゃねえって!! ホントに攻撃力が23だし店員に聞いたら耐久値も通常の倍くらいあるらしい。
しかも作ったのは多分だがプレイヤーだ。
製作者が【ジューゴ・フォレスト】ってなってるし、とりあえず即行購入したったわ。
518:ドマリリス
マジかよ。どこに売ってんだその剣?
519:ゲジゲジ
あとその【ジューゴ・フォレスト】っていうプレイヤーの確保だな。
どこにいるか居場所を突き止めないと。
520:メタリック三等兵
おk、俺のパーティー仲間にも呼び掛けて早速聞き込み開始だ。
521:るるるのお姉さん
あたしもパーティーに報告しなくっちゃ!!
522:ほろ酔い伯爵
うはっww なんか祭りが始まったww
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(その後謎の連携によってジューゴ・フォレストの居場所が突き止められるところまでスレッドは続いていた)
「……なんだこれ」
俺は掲示板を確認後力なくうな垂れる。
しばらくその体勢のままでいたがそうしている場合でない事に気付くとすぐさま行動に移る事にする。
とりあえずどういう経緯で俺の名が知れ渡ったのかは把握した。
となればだ。次にやるべきことはこの事態をどう収拾するかということだ。
「おーい、全員ちょっと聞いてくれ!!」
俺は覚悟を決めて手をぱんぱんと打ち鳴らすとその場にいたプレイヤーの注意を自分に向けさせる。
こうなってしまった以上もはや無傷で決着することは難しい。
ならばせめて軽傷で済むように行動をした方が幾分効率的だ。
「今どういう状況なのかは理解した。つまりここにいる連中は掲示板で俺の事を知り剣を作ってもらうためにここに来た、これに間違いはないな?」
俺の投げかけに全員一斉に頷く。
まあ当然と言えば当然の反応なのでそのまま言葉を続ける。
「だが残念なことにここにいる全員に剣を作れるほど材料もなければ余裕もない。それに俺は“生産プレイヤー”じゃないから他にもやりたいことがある。モンスターと戦ったり、料理を作ったり、クエストを受けたりとそこはここにいるプレイヤーたちと同じだ」
俺は一呼吸おいてここにいる全員が俺の言葉を理解するのを待ったあと再び話し出す。
「鉄の剣を作ることはやぶさかではないが、俺に剣を作らせるという事は俺がやるはずだった予定を曲げてまで剣を作らなければならないという事になる。それはここにいる全員が理解しているはずだ。だから俺がやるはずだったことを曲げて剣を作る時間、これに対する対価を貰うことになる。……親方? 装備屋で売った鉄の剣っていくらで売ったんですか?」
「うん? 一本3500ウェンだが」
「ならば、俺が作る剣はその倍額の一本7000ウェンで請け負うことにする。先に言っておくがこれは決して高くない金額のはずだ」
俺の一本7000ウェンという高額請求に顔を顰めるプレイヤーが続出したが、俺の言い分も理解できるところがあるため反論する者は誰一人としていないかに見えた、だが。
「ふざけんじゃねえええええええ!!!」
静寂を突如として破った人物がいた。
とあるプレイヤーの一人が人ごみをかき分けて俺の前までやって来ると怒号と共に俺に食ってかかった。
「てめえ何様のつもりだ!? 下手に出てりゃ付け上がりやがって! 生産プレイヤーのてめえは大人しく俺らの装備を黙って作ってりゃいいんだ! おめえが作ったもんを使ってやろうってんだありがたく差し出しやがれ!!」
やれやれ、どこの世界にも自分の事しか考えていない自己中、いやガキはどこにでもいるものなんだな。
俺は小さくため息をつくとそいつに極々当たり前の言い分をぶつけてやる。
「いいか、アンタが自分のためじゃなくて他の誰かのためにタダで何かしようって時に何の見返りも求めずに他人のために何かできるのか? 例えばとあるクエストがボードに張り出されていた、だがクエスト報酬はゼロつまりタダ働きでやらなきゃならないクエストがあったとしてアンタはそれになんの文句も言わずにそのクエストを受けるって言うんだな?」
「そっそんな馬鹿なことするわけねえだろ!」
「それと同じだ。アンタは俺に剣を作って欲しい、だが俺には他にやりたいことがある。そのやりたいことを後回しにして俺に剣を作って欲しいっていうのならそれに対する報酬を出すのが筋なんじゃないのか? さっきも言ったが俺は生産プレイヤーじゃねえ、他にもやりたいことがあるんだ。その時間を削ってまで他の誰かのために使えってんならそれに見合う報酬を出せ。俺はそう言ってるだけなんだが?」
「ぐぬぬぬぬ」
俺の言ったことはまさに【正論】だった。
人に何かものを頼むときはそれに対する報酬を支払うのが筋というものだ。
まあ何事にも例外は付き物で信頼関係が良好な間柄であるなら「この人のために無償で何かしてやりたい」という思いも沸くだろう。だが初対面の増してや自分のことしか考えていない自己中な人間のためにタダで何かする気になるだろうか? 答えは“否”だ。
「おいお前、さっきから聞いてりゃ自分勝手なことばっか言いやがって。そんなに文句があんならリアルに帰れよ」
「そうだそうだ。お前みたいのがいるから雰囲気が悪くなるんだ」
「帰れ、帰れ、帰れ……」
その後一人が言い放った「帰れ」コールがその場にいたプレイヤー全員に伝染し、「帰れ」コールがその場に響き渡る。
一人二人ならば大したことがないものでも200人以上が同じ言葉を同時に連呼すればどうなるのかは想像に難くない。
加えて帰れコール連呼と同時に地面を足で踏み付ける行為をやっていたためまるでその場だけ地震が起こった錯覚を覚える。
その圧力に押されてしまった文句を言ってきたプレイヤーは途端に大人しくなり、一度俺を睨みつけるとその場からそそくさと立ち去った。「覚えてやがれ」という言葉を残して。
ちなみにそのプレイヤーを俺は二度と見ることはなかった。
風の噂で聞いたがどうやら今回の行動が原因で他のプレイヤーがGMに悪質行為として報告しそれに逆上した奴がPK行為に及ぼうとしたためGMの権限を持ってアカウント消去処分俗に言うアカウントBANを食らい事実上このFAOから永久追放となった。
この一件は掲示板やチャットでしばらく話題となり、プレイヤーのマナーに関する意識が高まることとなった。
高圧的な態度を取るプレイヤーの数が激減する結果に一役買ったのである。
現実世界でもそうだが相手に最低限の敬意を払えない奴はどこの世界でもつまはじきものにされる。
それが今回の一件で如実に表されたことによりFAOのプレイヤーの意識を変える大きな出来事としてFAOの歴史に刻まれることになった。




