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12話



 ギルドでのクエスト報告と素材の買い取りが終わった後、コレリアンナさんにお礼を言うと俺はギルドを後にした。

 後日談になるのだが、買い取られたゲッケイジュは大手の薬舗の手に渡り効能の高い回復薬として使われたようだ。

 ちなみにその薬舗が買い取った金額は500000ウェンだったそうだ。 恐ろしや、ゲッケイジュ。



 閑話休題、話に戻ろう。

 現在の時間帯は夜のためNPCが営業する露店などの店が軒並み閉店している状態だ。

 せっかく小金持ちになったのだからこれからの活動に必要な物資の調達に行きたいが肝心の店がやってないため物を買う事ができない。一先ず朝を迎えるために俺は宿へと向かった。



 前回よりも早めに宿を見つけることができそのままベッドでグッドナイト、おやすみだぜ。

 空けて翌朝宿を後にした俺は早速露店で物資を調達するべく、市場へと向かった。

 朝の賑わいが街中を支配し、人々の活気あふれる喧騒が満ち溢れている。

 徒歩で移動すること十分、途中屋台で買い食いをしながらそれを朝食としていただいた後やってきたのが露店が立ち並ぶ市場。数多くのNPCが朝の買い物客に向けて大声を張り上げている。



「いらっしゃい、安いよ安いよ」


「お客さん安くしとくから買ってかないかい?」



 露店のあちらこちらから客寄せの声が飛び交う中を俺は一つ一つ見て回る。

 今回俺が欲しているのは料理をするための調理器具とそれに鍛冶の仕事で使う道具一式だ。

 100000ウェンというまとまった金、というよりまとまりすぎている金があるので購入自体は問題ないが得てしてお金に余裕がある時人はより良い品質の物を求めてしまうのが心理だ。



「でも今回はできるだけ節制しておいた方がいいだろうな、いつお金が必要になるか分かんねえし」



 別に俺はケチではないが、無駄なお金を使うほどお金に無頓着でもない。

 節約できるところは節約し、使うべきところにはふんだんに使うそれが上手な金の使い方だ。

 後で後悔しても使ったお金は戻ってこないのだから。



 そういうわけで俺は目的の調理器具と鍛冶道具が売られている店に向かうことにした。

 女であれば目的もなくふらふらと露店を見物するのだろうが俺は男だからな目標にまっしぐらなのだよ。

 露店を歩くこと数分、売られている品物が金物系のエリアに入ったのでここら辺で目的の物を探しますか。

 金物と言ってもその種類は多岐に渡り、小さいものでは果物ナイフや小さめのやかん、大きいものだとバーベキューをするのかと問いかけてしまうほどのグリルコンロなどが置かれている。



「調理器具、調理器具っと」



 俺はまず調理器具を探すべく露店を見て回った。

 そして徘徊する事しばらくしてとある店にたどり着く。

 そこは年季の入ったボロボロのテントで組まれた露店でいかにも長いことやってます的な雰囲気の店だ。

 客である俺が近づくと椅子に座っていた髭面の中年男性が威勢よく声を掛けてきた。



「らっしゃい、兄ちゃん今日は何をお求めで?」


「初心者でも扱える調理器具を探しているのですが、よさそうなものはありませんかね?」


「調理器具か、ちょっと待ってておくれ」



 そう言うと、男は店の裏手に回り商品の確認に行った。

 その間店に置かれた商品を見て回ったがよく言えばアンティーク、悪く言えば古ぼけたという言葉が似合う商品ばかりで新しめの商品はほとんどなかった。

 しばらく店内を見回った後、男が店の裏から持ってきた調理器具を見ることになった。



 男が持ってきたのは黄土色のケースに入った包丁セットに直径が十八と三十センチの二つのフライパン、さらに直径が十五と二十六センチの二つの鍋一式だった。フライパン、鍋共に鉄製の鍋で少々重いが丈夫で長持ちしそうだ。

 包丁セットの中身は刃渡りがそれぞれ十七、十五、十三センチの包丁三本に砥石、そしてケースの蓋部分に縦三十五センチ、横二十センチのまな板が固定されていた。



「へえ、結構まともじゃないですか」


「おうよ、何せ専門の職人が丹精込めて仕上げた一品だ。そんじょそこらの調理器具とは訳が違う」



 そんなものを初心者用の調理器具として持ってくるのはどうかとは思ったが、どの調理器具一つ取ってもいい品だというのは素人目の俺でもわかるほどだった。

 さぞかし腕のいい職人が仕上げたに違いない。だがそうなると一つ気になることがあった。



「確かにいい品のようですね。けどお高いんでしょう?」


「おう任せておけ、この調理器具は一点もので他にはねえ。通常であれば30000ウェンは下らねえもんだ」



 oh……マジですか。俺の予想を遥かに上回る数字にめまいが起こりそうになるが何とか意識を保ちつつ男の話の続きを聞く。



「だがそれだと買い手が見つからねえ。どんなにいいものでも買い手がいねえんじゃ宝の持ち腐れってもんだ。そこでだ通常であれば30000ウェンで出すところを今回に限り14800ウェンで提供するが、どうでい?」



 わあー、すごーい、通常価格の半分のお値段これはお買い得ですねー、って言えばいいのかな?

 ていうかこのテレビショッピング的なノリは一体何なのだろうか、まったく。

 真面目な話に戻るが、実際の所この買い物はお得と言えばお得ではある。

 実際の商品を詳細情報で確認すると、男の言った通りの情報が記載されていた。ちなみに詳細はこうだ。




 【名工の調理器具セット】



 腕のいい職人の手によって一つ一つ丁寧に作り上げられており、調理器具としての品質は高い。

 初心者が使うには些か似つかわしくないが、初心者用の調理器具としてはこれ以上ない一品。

 フライパン大小、鍋大小、包丁三点セット砥石まな板付き。定価30000ウェンのところを特別価格14800ウェン。




 結局のところ購入するか迷ったが、詳細情報の内容と特別価格という言葉に負け購入することにした。

 この調理器具に見合うだけの料理人になれるか分からんが、いつかはそうなりたいとそう願う。

 その後男に鍛冶道具がないか聞いてみたがそれはないとのことだったのでお礼を言いその場を後にする。

 残りの所持金額がこれで85000ウェンにまで減ったがいい品物を手に入れたので悔いはない。



 次は鍛冶道具だ。調理器具はいいものを手に入れたので鍛冶の道具は別段普通で構わない。

 そのまま露店を奥に進んで行くと工房が立ち並ぶ区画へとやって来た。

 工房内に入ると室内が熱気に満ち溢れており途端に額に汗が浮かんでくる。

 炉にくべられている赤々と熱せられた石炭が工房内の温度を高めているようで外套を付けた俺には少々きつい。



「おう兄ちゃん、なんか内に用かい?」



 声を掛けてきたのはどうやらこの工房の親方のようで上半身を薄着のタンクトップにつなぎのズボンといったいかにも工房で働いてますって感じの風貌をしている。

 初心者用の鍛冶道具一式を譲って欲しいと頼んだら、自分の部下に物を取ってくるように指示を出し自分は先ほどまでやっていた仕事の続きをやり出した。



「ところで兄ちゃん、鍛冶を始めるのなら今からここで鍛冶仕事の基本を学んでくかい?」


「いえ、ありがたい申し出ですが先に料理の方をやってみたいと思いまして」


「ほお~料理もやんのかい、てことは調理器具は手に入れたかい?」


「ええ、少しボロい露店だったのですがいい調理器具が手に入りました」



 俺がそう答えるととたんに叩いていたハンマーが止まり親方の雰囲気が変わる。

 そして訝しげな顔で問い詰めてきた。


 

「兄ちゃん、そのボロい露店の店主ってのは髭面の中年オヤジじゃなかったかい?」


「ええそうですよ。お知り合いですか?」 


「はっはっ、そうかいアイツから買ったのかい。ちなみにどんな調理器具を買ったか見せてくれないか?」



 断る理由もないので先ほど買った調理器具一式を収納空間から取り出すと途端に親方が目を見開き驚愕する。

 そして確認するように本当にあの男から買ったのかと聞かれたので肯定するように頷くと――。



「アイツとは古くからの飲み仲間でなよく酒場に集まって飲んだくれてるのさ。その調理器具はアイツにとって思い入れのある物でね、なかなか手放そうとしなかったんだが、兄ちゃんの顔を見てアイツがこれを託した理由が何となくわかる気がするよ」



 そう話し終えたタイミングで部下の人が初心者用の鍛冶道具を持ってきてくれた。

 俺は部下の人にお礼を言うと鍛冶道具を受け取ろうとしたが、それは親方の声によって阻止されてしまう。



「待ちな兄ちゃん、気が変わった。その鍛冶道具は譲れねえな」


「えっ、そんなー」


「代わりにオレが今から兄ちゃん専用の鍛冶道具を作ってやるよ。すまねえが少し時間を貰えねえか?」



 ええー、またそんな展開ですか?そういう俺専用とかいいですから普通のやつをくださいよ。

 俺の了承も得ずにすでに親方は俺専用の鍛冶道具を作るために仕事を開始していた。

 部下の人たちに大雑把な仕事を指示して、自分は鍛冶道具を作るために集中するようだ。



 どうしよう、このまま待っているのも時間がもったいないしな、うん。

 せっかく自分のために職人さんが作ってくれるって言うんだ。その厚意に甘えようじゃないか。

 その間にさっき手に入れた調理器具を使って料理ができればいいんだが、そういう場所ってどこかにないかな? 



「すいません。この近くに料理ができるところってどこかないですかね?」



 俺は親方にそう聞くと「だったらうちの工房の給仕場を使え」と言われた。

 場所を尋ねるとこちらを向いたまま自分の後ろにある工房の奥の扉を親指を立てた手で指したのでお礼を言ってその扉へと向かった。だがまだ食材を購入していないことに気付いたため先に露店に戻って食材を買いに行くことにした。FAOでする初めての料理、新しく手に入れた調理器具を試すのが楽しみだ。

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