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111話



「久しぶりね、デモンストレーションの時以来かしら?」


「うん?」



 ジューゴがゴブリン軍との戦いに向けての、準備期間である二週間をどう過ごすか考えていると、不意に声を掛けられた。

 そこにいたのは、トレードマークとも呼ぶべき赤い長髪に、薄紫色のまるでアメシストを嵌め込んだかのような瞳を持つ美少女レイラだった。



 最前線攻略組パーティー【紅花団】のリーダーでもあり、《赤き弓術士》という異名を持つ実力派のプレイヤーだ。

 先日の【冒険者たちの武闘会】イベント開催時において、ジューゴとハヤトの二人と同じくデモンストレーションのプレイヤーに選ばれた一人であった。



 ジューゴが、他のプレイヤーの対応が終わるタイミングを見計らっていたのか、彼が手すきになった所で話し掛けてきた。

 先ほどの説明会で説明していた時も、他のプレイヤーの疑問を代弁するかのようにジューゴに対して質問を繰り返していた彼女だったが、ジューゴとしてはレイラの対応は正直助かった部分もあるため、彼女に対する好感度が少し上がっていた。



「レイラか、さっきの話し合いでは助かった、ありがとな」


「別にあたしが聞きたかった事を聞いただけだから、あなたにお礼を言われるようなことはしてないわよ」


「それでもあの時お前が質問してくれたお陰で、この場にいたプレイヤーの疑問が多かれ少なかれ晴れる結果にはなったんだ。それに、俺が誰かに礼を言うなんて滅多にないことだから、素直に受け取っておいた方がいいぞ」


「ふふ、何よそれ。上から目線にも程があるわね。まあ、あなたらしいといえばらしいけど」



 ジューゴの歯に衣着せぬ物言いに、肩を竦めて苦笑いを浮かべるレイラだったが、彼自身が冗談で言っていると理解しているので、腹を立てたりはしない。

 むしろジューゴのそういう発言を好ましいとすら思っており、ジューゴが彼女に対する好感度が上がったのと同様に、レイラの中でもジューゴに対する評価が上方修正された。



「よぅよぅ、二人していちゃついてないで、そろそろアタイらを紹介してくんねぇかー?」


「まったくです、自分の好みの男性を見つけて舞い上がっているお気持はお察ししますが、今はそれよりも彼に挨拶をしたいのですが」


「……レイラに春が……来た?」


「お、おぉぉ、お前らぁぁぁぁああああ!!」



 三人組の女性が声を掛けてきたと思ったその時、レイラの咆哮が木霊する。

 そして、彼女たちの中で戦いのゴングが頭の中で鳴り響いたのか、そのまま口喧嘩が始まった。



「カぁぁぁレぇぇぇンんんんん! 誰がいちゃついてるってぇ?」


「はっ、おめえだよおめえ。柄にもなくチャラチャラしやがって、まさかとは思うが【紅花団】の掟、忘れてないだろうね?」



 レイラに突っかかっている女戦士は、レイラの鋭い睨みにも動じず、真っ向から迎え撃つように言い放つ。

 それを受けて眼鏡を掛けた黒髪の魔法使いが淡々とした丁寧な口調でこれまた言い放つ。



「【紅花団】の掟その1、団員の結束力を高めるため、FAO内での恋愛禁止」


「……約束、大切」


「うっ……」



 メガネのズレを直しながら紅花団の掟を明言する女性魔法使い。

 彼女の言葉に対し、まるで援護射撃をするかのように、何を考えているのか分からない盗賊風の女の子が無表情で呟く。

 その言葉に反論することができずにいると、ここでジューゴがタイミングよくレイラに問いかけた。



「レイラ、そいつらは?」


「あ、ああ、こいつらはあたしの――きゃあ!?」


「おめえさんが、ジューゴ・フォレストかい? 思ったよりもなよなよしてて弱っちそうだな、ホントに本人かよ?」



 ジューゴの問いに答えるレイラを吹き飛ばした女戦士は、頭の天辺から足のつま先まで舐めまわすように値踏みする。

 茶色のショートヘアーに黒目の気が強そうな女性で、赤いごつごつとしたビキニアーマーを着用しており、肌の露出が多いものの妖艶さはなくむしろ彼女に良く似合っていた。



「コロシアムでの彼の戦いを見ていたじゃないですか。それにあの時はばっちり大型スクリーンにも映し出されてたんですから、見間違えるはずないですよ」



 女戦士にそう答える黒髪眼鏡の魔法使い。

 アキラと似た系列の、魔法使いがよく着る水色のドレスローブを纏っているものの、彼女と比べて胸のボリュームが控え目だという事と、ローブ自体の表面積が標準的であるため、妖艶さよりもクラスの委員長系の雰囲気を醸し出していた。



「……彼が、レイラのいい人?」


「顔が近いんだが……」



 ジューゴの十数センチの距離まで顔を近づけてくる盗賊風の女の子は、艶のあるプラチナブロンドの髪が顔に掛かっているが、鬱陶しいといった様子はなく無表情な半眼で今もジューゴの顔をのぞき込んでいる。

 その瞳には感情の色はなく、何を考えているのか全くと言っていいほど読み取ることができない。



「悪いが、もう少し離れてくれないか?」


「……照れた?」


「他人のパーソナルスペースは尊重すべきだと思うぞ? それと、照れてなどいない」


「……そう、残念。寝取るチャンスだと思ったのに……」


「はぁー、お前らは一体なんなんだ?」


「そういやぁ自己紹介がまだだったな……」



 この三人組の女性が何者なのかは大方の検討はついていたジューゴだったが、さすがに自己紹介もなしに一方的に絡まれるのは、彼自身の迷惑なことこの上なかったため、ジューゴは三人に自己紹介をするよう促した。



「アタイはカレン、大体予想は付いてるだろうが、レイラと同じ【紅花団】のメンバーだ」


「わたしはマコと申します。カレンと同じく【紅花団】で後衛魔法職をやらせてもらってます」


「……キサラギ、以下同文」


「お、おう……ジューゴ・フォレストだ。よろしく」



 かなりキャラ立ちしたメンバーが揃っていることに若干引きつつも、辛うじて自己紹介をすることに成功したジューゴ。

 そのあと、カレンに突き飛ばされたレイラが復活したことで、カレンとガチンコバトルに発展しそうになるのを何とか止めたジューゴは、疲れ果ててしまい内心でため息を吐く。



 その後ハヤトたち【ウロヴォロス】の面々もその場に残っていたので、彼からメンバーを紹介されたが、色々とキャラの濃かった【紅花団】の後だったため、これといってジューゴの印象に残ることはなかった。

 それからちょっとした雑談をしたあと、それぞれゴブリンとの戦いに向けての準備のため部屋を後にした。



 雑談していた時に、レイラとハヤトがそれぞれマンティコアとロックバードを倒したと自慢していたが、ジューゴにとって強さに関して競争心がないので、「ふーん」の一言で終わってしまった。

 二人はもちろん彼のリアクションが薄いことに不満を抱いたが、特に深く突っ込んでくることはなかった。

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