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105話



「さて、ここからは慎重な立ち回りが要求されるな……」


「クエ……」



 3階層から一気に66階層にまで落とされてしまったジューゴとクーコ。

 尤も、クーコに関してはジューゴの後に付いて行っただけなので、実質的にジューゴ一人が罠に掛かってしまった形となっているわけだが、それよりも重要なのはこの先の事だ。



 先ほども彼が呟いた通り、現在一人と一羽のいる階層は66階層という深い場所だ。

 このダンジョンが一体何階層まで続いているのかは皆目見当のつかないジューゴでも、今いる階層が決して楽な場所ではないと何となく理解できる。



 何せあれ程の高さから落ちてきた階層なのだ、これでショボかったら何のために落とされたのか小一時間ほど考えたくなってしまうだろう。

 ここからは本気モードでダンジョンを攻略しなければならないため、【気配感知】と【隠密】をジューゴは発動させた。



 これで余程のことが無い限りモンスターからの先制攻撃を食らう事はないだろう……そう、余程のことが無い限りは。

 そのままゆっくりとした歩調で歩きながら確実に進行していく。

 3階層の時よりも進み具合がかなり遅くなってしまったが、そうも言っていられないほど、今いる場所はジューゴ達にとって危険極まりない所だった。



 モンスターの強さも比べ物にないほど凶悪になっているだろうし、罠の類も即死級の悪質さを持っているに違いない。

 その分手に入るアイテムは確実に上質な物であることは間違いないため、ジューゴは目を皿にしながら進んでいた。

 尤も、彼が目を皿にしているのはモンスターを警戒しているというよりも、お宝を見逃さないための比重が大きかったりするわけだが……。



「ちっ、この先にモンスターの群れがいるな……4、いや、5か」



 気配感知の網に引っかかった反応を確かめつつ、ジューゴは顔を顰める。

 この階層で出現するモンスターのラインナップは未知であるため、いきなり初見殺しのような攻撃をしてくる可能性も無きにしも非ずなのだ。



 最初の階層ではモンスターの強さがそこまで強くなかったため余裕綽々の態度だったが、今のジューゴにそんな余裕は一切ない。

 一歩一歩足を進める度になけなしの神経をすり減らしながらモンスターに気取られぬようモンスターの気配のする方へと歩みを進める。



 一方のクーコと言えば、彼女は元々モンスターなので気配を消すという芸当は本能レベルで染みついている。そのため、ジューゴほど気に病んではいない。

 それをジューゴが知れば間違いなく彼のアイアンクローを食らう事になるのだが、その事を知ってか知らずかクーコは黙って彼に追随する。



 しばらく歩いていると、モンスターの気配のするフロアへとたどり着く。

 まずは姿の確認をするため、相手に気取られないよう細心の注意を払ってフロアの入り口から覗き込む。



(あれは、スケルトンか? 戦士風のが三体に……あっちは魔法使い風のが二体いるな)



 そこに居たのは意外な事にスケルトンという人骨のモンスターだった。

 基本的にスケルトンは、アンデッド系のモンスターであり血肉がないため不老不死の存在だ。

 だがその不老不死というのは、飽くまでも外敵危害を加えられないという特定条件下で成り立つものだ。



 例えば、このままスケルトンたちが冒険者などの外敵に出会わず過ごした場合、朽ちることなく永遠に存在し続ける。

 だがもし外敵と出会ってしまい、相手の攻撃を食らいそれが致命傷となれば幾ら不老不死の存在とはいえ存在が消えてしまうのだ。



 不老不死というのは必ずしも“絶対に死なない”という定義ではないということだ。

 もしもそういう意味で表現するのなら、“無敵”という言葉が適当だろう。



 とは言っても66階層にいるスケルトンがただのスケルトンな訳が無いと考えたジューゴは【鑑定】スキルで詳細な情報を確認する。



 【エルダースケルトンウォーリアー】 レベル113



 HP  1283

 MP  267

 STR  541

 VIT  306

 AGI  267

 DEX  239

 INT   68

 MND  389

 LUK   0




 【エルダースケルトンメイジ】 レベル110



 HP  783

 MP  1544

 STR  281

 VIT  299

 AGI  307

 DEX  279

 INT  948

 MND  429

 LUK   0





「っ!?」



 思わず声に出して叫びそうになるのを口を手で塞ぐことで辛うじて防ぐ。

 普段あまり驚くことが少ないジューゴだったが、そんな彼でも今回の鑑定の結果には驚愕を禁じ得ないようだ。



(馬鹿なっ! なんだこの強さは、今の俺と互角……いやそれ以上だと!?)



 ジューゴ自身今の自分がFAOのプレイヤーの中でトップクラスだという自覚はあった。

 【冒険者たちの武闘会】というイベントではその強さが、他のプレイヤーに知れ渡ることになり、改めて彼自身も自分の強さを知るきっかけとなっていた。

 そんなプレイヤー最強と言っても過言ではないジューゴと同等以上の能力を持っている存在が5体もいることに彼自身狼狽する。



 さらに衝撃的な事実として、今目の前にいるスケルトンたちは66階層に出現するモンスターの一部でしかないという事だ。

 なぜジューゴがそれを理解できたかと言えば、【気配感知】によりこの辺り一帯のモンスターの気配を察知していたからだ。



 つまり今ジューゴの目先にいるスケルトンの気配と気配感知で感じ取った気配が何も変わらなかったのだ。

 それが何を意味するのか、ジューゴは十二分に理解していた。

 気配が変わらないという事は、同種類のモンスターかそれに準ずる強さを持っているモンスターのどちらかということになる。

 だからこそ、彼は理解していた。否、理解させられてしまった。この66階層がどれほど難易度の高い場所かという事を……。



「クーコ、引き返すぞ。あんなのに勝てるわけがない、ここは一旦引いて体勢を立て直――」



 ――ドゴォォォォオオオオオン。



 それは大地を揺るがす轟音と共に突如として現れた。

 3メートルを優に超える巨体とそれにも負けないほどの巨大な両刃斧を持つ怪物。

 牛頭と蹄を持ち、その肉体は芸術と表現するほどに逞しく洗練されていた。



(嘘だろ!? あのスケルトンがたったの一撃で……)



 まるで道端の小石を蹴るかのように振るわれたラブリュスという名の両刃斧が瞬く間にスケルトンたちを吹き飛ばす。

 その一撃はジューゴと互角以上の能力を持っていたスケルトンたちが撃破されたことにより、その怪物とジューゴの実力は比ぶべくもない。



「クーコ、逃げるぞ! 今の俺たちじゃ、あいつには……勝てねぇ!!」


「クエー!!」


「ブモォォォオオオオオオ!!」



 ジューゴは咄嗟にクーコの背中に飛び乗り、大声で叫んだ。

 クーコも彼の判断に従い、その自慢の脚力をもって逃亡を図ろうとする。

 だが、それを察知した怪物が逃がさないとばかりに耳をつんざく程の大咆哮を上げる。



 突如として、命を懸けた鬼ごっこが幕を開けるのだった。

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[一言] ───迷宮には、ミノタウロスが居る(劇場版DB風)
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