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104話



「わああああああ」


「クエエエエエエ」



 現在ジューゴは自分が使った魔法が原因で奈落の底へと落ち続けていた。

 どうやらジューゴが落ちた場所は元々落とし穴の罠が設置してあったのだが、彼が放った【フレイムストーム】の影響で罠が誤作動を起こした結果、本来発動するはずのない落とし穴が発動してしまったのだ。



 これは別に運営側の不手際という訳ではなく、ただ単純に現在ジューゴが攻略しているダンジョンがまだ調整中だったというだけだ。

 そもそもこのダンジョンはもう少し先のアップデートで存在を仄めかす様な発表がされるはずだったのだが、何の因果かジューゴが偶然見つけてしまった。



 それを見ていた運営の開発部がデータ収集のためにまだ開発途中ではあったが、今後の修正とダンジョンの試運転も兼ねて敢えてジューゴを招き入れた形となっていた。

 だが蓋を開けてみれば、次の階層に行くための階段を守る守護者的な位置づけのボスモンスターをプロレス技で倒すという異常な姿を見た開発スタッフ一同は腹を抱えて笑い転げていたそうだ。



 だがそんな事になっているとは知る由もないジューゴは重力の赴くまま落下し続けていた。

 さすがにこのままでは床に激突し大ダメージは避けられないためジューゴは腰に下げている剣を抜き放つ。



「まさか、仮想世界に来てゴムなしバンジーをやるとは思わなかったが、何とかしないと床に激突して死なないまでもダメージは避けられんからな、よし」



 そう言うと、岩でできた穴の壁にジューゴ自作の鋼合金製の剣を突き立てる。

 そのままずるずると下に落ちながら、今度は反対面の壁に移り同じように剣で減速していく。

 そうすることで、落下していた当初の勢いは衰え今ではなんとかダメージを負わない程度の勢いで降り続けている。



「これなら、なんとか下まで降りて行けるだろう。クーコは大丈夫か?」


「クエッ」



 クーコはクーコで手羽先を限界まで羽ばたかせ何とか落下の勢いを殺している。

 その姿はまるで生まれたての小鹿がよろめきながらもなんとか立ち上がろうとしている時の様子と似ていたので、顔がにやけるのを何とか押さえ込んだ。



「終着点が見えてきたな、頑張れクーコ、もうちょっとだ!」


「ク、クエ!」



 何とか下まで行けそうな所まで降りてこれた一人と一羽は、集中力を途切れさせないよう意識を向ける。

 そして、とうとう落とし穴の終着点へと着地することに成功した。

 掛かった時間は数分間というものだったが、体感的にはもっと長く感じられた。



「はぁ、はぁ、はぁ」


「クェ、クェ、クェ」



 流石のジューゴも精神的に堪えたようで、クーコと共に肩で息をしながら回復するのを待つ。

 数分後なんとか息を整えることができた一人と一羽はその場から立ち上がると、周りの状況を確認する。

 幸いな事に落とし穴に繋がっていた場所にはモンスターはいなかったものの、ジューゴがマップで現在地を確認したところ衝撃の事実が明らかとなる。



「66階層……だと?」



 その言葉には明らかな絶望の色を多分に含んでいた。

 マップ画面の上部に記載されている現在の階層は“66”と表示されていた。

 つまりこれは、誰がどう見ても3階層から66階層にまで落とされたことになるのだ。



「マジかよ、ってか3から66とか落とされすぎだろ!? 穴の構造どうなってんだよ!」


「クエクエクエ!」



 ジューゴの憤りの籠ったツッコミにクーコもそうだそうだとばかりに同意する。

 だが、いくらここでごねたところで現実は何も変わらないのだ。

 今の現状を受け入れ、今自分ができることをやるしかない。



 もはや自分ができることは一つ、“生き残ること”ただそれだけだ。

 とりあえず、上層からかなりの場所まで落とされてしまったため腹が減ったジューゴとクーコは食事を取ることにした。

 収納空間に保存してあるおにぎりやハーブステーキなどを取り出し、クーコと仲良く食べる。



 どんな状況下においても腹が減るという事実は変わりないようで、一人と一羽の腹はいつもと同じように食事を楽しんだ。

 いつモンスターが襲い掛かってくるかわからない状態だったが、理由はわからないがジューゴ達が食事をしている間モンスターが襲ってくることはなかった。



 腹も満たされ、このまま食後のお昼寝に勤しみたいという衝動を抑え込むと、ここから脱出するべくダンジョン攻略を再開するのだった。

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