100話
目に飛び込んできた光景にジューゴは目を見開き瞠目する。
巨大な扉の先にあったのは岩を繰り抜いたような通路だった。
どういう構造になっているのかまでは分からないが、天井、床、壁の全てが薄い青色に輝いておりまるで昼のように明るい。
むしろ、今ジューゴのいる空洞の方が中の通路と比べても暗かったりする。
「ここはなんだ?」
ジューゴがそう呟くと、メニュー画面からマップのウインドウを立ち上げ、この場所の位置を確認する。
どうやらここは【ドウェルの迷宮】という名前らしい。
不意に落下した空洞の奥にあった扉の先にあったものが迷宮だと知り、ジューゴの驚きはさらに大きなものとなった。
「マジかよ、ここがRPG定番スポットであるダンジョン……迷宮だってのか?」
問いかけたところで、その問いに対する答えなど返ってくるはずがないと分かっていても、そう問いかけずにはいられないほど目の前に突如として現れたものに彼は今も信じられないといった思いだ。
このまま突っ立ていても何も進展しないと思い、ジューゴはその迷宮に足を踏み入れる決意をする。
「行くぞクーコ、予定とは違ったけどこれも一つのレベル上げみたいなもんだ」
「クエッ」
クーコの了解と言わんばかりの返事を聞きながら、一人と一羽は急遽ダンジョン攻略をすることになった。
この先に待ち受けているものがどういったものかも分からないままに……。
「まさかダンジョン攻略をやる羽目になるとは思わなかったな……」
「クエ……」
そう独り言ちりながら一歩一歩と慎重に進んで行くジューゴ。
その隣をトコトコとクーコが並んで歩いている。
ダンジョン、別の呼び方としては迷宮やラビリンスなどと呼称されることもあるが、総じてモンスターが住み着く場所というのがゲーム内での認識である。
それとは別にダンジョンでしか手に入れることができないアイテム、お宝が眠る場所としても広く認知されている。
基本的にダンジョンは地下に伸びている所謂地下迷宮が一般的だが、洞窟などの階層が無く迷路のような造りになっていたり、似た建造物としては塔なども存在する。
地下に伸びているダンジョンは各階層ごとに出現するモンスターが異なったり、トラップなどのギミック要素があったりする。
そして、ほぼすべてのダンジョンに共通しているのが、下の階層になればなるほどモンスターの強さ、トラップの悪質さ、手に入るアイテムのレア度などが上がっていく。
場合によっては中継地点と呼ばれる場所があり、攻略途中で地上に戻れるように一定階層毎に転移門や魔法陣が設置されていることもある。
そして、これもよくあることだが一定階層毎に階層主と呼ばれるボスクラスのモンスターが陣取っている場合もあり、そのモンスターを撃退することで次の階層に行けるようになる一種の試練のようなものも存在する。
そして、たった今ジューゴが足を踏み入れたダンジョンは階層型の地下迷宮であり、下に降りていく程攻略の難易度が上がっていくダンジョンだ。
「普段はあまり意識してないけど、こういう時こそ【盗賊】の職業が役に立つんだよな」
元々ジューゴは他のプレイヤーの目から逃れるために【盗賊】を取得したが、本来【盗賊】とはこういったダンジョン攻略の時こそその真価を発揮する。
限られた空間に身を置き、死角から突如として襲い掛かってくるモンスターにいち早く対応するためには相手の位置を把握しておく必要がある。
さらに巧妙に仕掛けられた悪質なトラップの存在を感知し、仲間がそれに引っかからないように解除する行為も【盗賊】の専売特許である。
そういった意味でも【盗賊】という職業程ダンジョン攻略に特化している職業はない。
「今までかくれんぼ感覚で【盗賊】のスキルを使ってたからな、ようやく本来の使い方ができそうだ」
「クエ?」
ジューゴの呟きに反応するクーコだったが、彼のただの独り言だと分かり、周囲を警戒しながら歩いていく。
突き当りから左に伸びている通路を進んで行くと、道が左右に分かれているT字路に行き着く。
「どっちに行こうか……クーコどっちだと思う?」
「クエ? クエー……」
「ふむ、……ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・天・の・神・様・の・言・う・通・り!!」
「クエッ!?」
クーコが真面目に考えていたところにいきなりジューゴが「どちらにしようかな」をやり出す。
結局クーコの意見も聞かないままに右の通路に進むことになった。
そのまま道なりに進んで行くとジューゴの【気配感知】に反応があった。
「む、これは……ゴブリンに、まだ未確認のモンスターっぽいな、とりあえず目で見て確かめるか」
そう言いつつ、緩やかにカーブを描いている通路からモンスターの気配がする場所をこっそり見る。
そこにいたのは、ジューゴの気配感知の読み通りゴブリンが二匹に全身が毛で覆われた頭部が犬に酷似しているモンスターが三匹だった。
「あれはたしか【コボルト】だったか? ……ってか鑑定あるんだから使いなさいよ」
自分でボケて自分でツッコむという、関西人でもなかなかやる人が少ないノリツッコミを展開しつつ【鑑定】を使う。
【コボルト】 レベル2
HP 60
MP 7
STR 10
VIT 9
AGI 16
DEX 9
INT 6
MND 10
LUK 3
「よわっ、レベル2とか弱すぎんだろ? ああでも始めたばっかだと侮れない相手なのかもな」
最初の階層という事もあり、鑑定の結果は驚くほどの雑魚っぷりだった。
ただ、レベルが1の状態でこいつと戦う場合は決して油断はできない相手なのだろう。
パラメーター的には素早さが多少とび抜けている程度でこれといって特徴はない。
もっともレベル2のモンスターに何を期待するのかと問われれば返答に困るのだが、それでも何が起こるか分からないのが人生なのだ。
「よし、多分楽勝だろうけどダンジョンで初めての戦闘だし、油断せずに行くぞ」
「クエ!」
こうして、ダンジョンで最初の生贄となるモンスターとの戦いが始まった。
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